第104話 いつもニコニコしている大司教は民からも愛されているってマジですか?

大司教の思惑


大司教視点


「大司教様、アリサという学生がまた回復薬等を持って来ていますが、いつも通り大聖女様の所にお通ししてもよろしいですか?」


「いや、駄目だ。これからは大聖女様には一般人は近づけるな」


「では、どうすれば……」


「学生にはお前が対応しろ。あの女の持ってくる物は品質がいいから全部買っていい。だが出来るだけ値切れよ。小娘なんだから、ちょっと大人が強くいえば簡単に安くするだろう。今までは大聖女様が言い値で買っていたようだがこれからは厳しくする」


「はぁ。ですがあの学生と話している時間は大聖女様の癒しの時間にもなっていたようで、大聖堂から出られない大聖女様のストレスを少しでも……」


「おい、貴様は大司教の私に逆らうというのだな?」


「い、いえ、そんなつもりでわ……」


「私に逆らうということは神に逆らうことに等しい。私がお前を異端と認定すれば、世界中に何億といる信者たちがお前を火炙りにするぞ!」


俺がそう言うと職員は顔を真っ青にした。


「し、失礼しました!すぐに私めが対応します!」


そう言って大聖堂の職員は慌てて部屋を出て行く。


「ふん」


面白くない。

思えば大聖女、セシリアが急にあんな事を言い出したのが悪いのだ。

そこから全てが狂い出した。


「私、そろそろ大聖女辞めるから」


その言葉を聞いた時、俺の脳天に衝撃が走った。


聖女の資質がある者は別に一人ではない。しかしセシリアは1000年に一度の逸材だ!

セシリアが大聖女でいればいずれ教会は世界を掌握できる程の力を得るだろう。

そうなれば私は世界の支配者だ。

金にだって不自由しない。


私の些細な夢を邪魔しようとするセシリアに心底腹が立った。

殺してやろうかと思ったがそうもいかない。

憎らしいが愛着もあるのだ、あの女には。


俺は決して馬鹿ではない。

こういう時のために、セシリアの弱みなら熟知している。


「いいのか?お前が大聖女を辞めたら、お前が育ってきた孤児院を潰す」


俺がそう言うと、セシリアは物凄い目つきで俺を睨んだ。


たまらないな!力のあるあんな美人が、俺を殺したくて仕方がないのになにもできないと言うのは!

最高の気分だ。


「勘違いするな。ただ潰すだけじゃない。大聖堂の秘密部隊に言って、盗賊が襲ってきた様に見せかけ、孤児院の子供も大人も皆殺しにする。可哀想だよな、お前がそこの出身というだけで、罪もなく死んでいく者が何十人と出るんだ」


セシリアは拳をプルプルと振るわせて黙っている。


「それだけじゃないぞ。お前が大聖女を辞めるなら、この先お前の友人も、恋人も、関わった者は皆殺す」


そういうとセシリアは俺を見ずに怒鳴りつけた。


「分かったから!大聖女は辞めない!ちょっと言ってみただけだから!だから……」


俺は満面の笑みを作りセシリアに言ってやる。


「そうだと思ったよ、大聖女様。私の言った事も、ただの冗談だから」


セシリアは走り去り、バタンと強く部屋のドアを閉め出ていった。


自分の部屋に行ったのだ。

きっと一人で涙を流しているのだろう。

ああ、本当に愉快だ!


これでとりあえずの危機は去ったが、俺はその後セシリアが大聖女を辞めると言った理由を悟ってしまった。

本当に忌々しい。


「御前試合の優勝者ジェイド……あいつが決勝で使った針は、大聖女にしか作れない……」


つまりジェイドはこっそりとセシリアと会っていたのだ。


穢らわしい。

セシリアの夫に相応しいのは大司教であるこの俺と決まっているのに。

俺の60歳の誕生日がもうすぐだ。

そのタイミングで大司教と大聖女の結婚というめでたいニュースを、馬鹿な信者ども知らせてやろうとしていたのに。

こそこそと他の男に会うなどと……。


もちろんすぐに対策をとった。

俺は教会が孤児の中から優秀な子供を見つけ出し、裏家業のエキスパートに育成している秘密組織、『ブレーメン』の中でも選りすぐりの恐るべき子供達を集めた。


「アサ、ヒル、ヨル、そしてサヨ。ジェイドを殺せ」


アサは欠伸をし、ヒルは面白そうに目をギラつかせ、ヨルとサヨは表情ひとつ変えなかった。


子供ながらに、全員SSクラス、SSSクラス並みの実力がある者が4人いれば、絶対に作戦は成功すると思っていたが、考えが甘かった。

所詮は子供だ!

失敗して帰ってきやがった!


奴らには罰を与えなければならない。

生まれてきた事を後悔するような厳しい罰をな。


しかしその前にジェイドだ。

2度の失敗は許されないぞ、子供達よ!

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