第103話 みんな結構怒ってるってマジですか?②
【ウランの場合】
「焦る気持ちは分かりますが、まずは現場の分析を行なってからでも遅くないと思うのですがね」
なんて独り言を言っても始まらないので、調査を開始する。
まずは馬車が爆破された現場。
火柱が真上に上がっていたというが見事なものである。
地面に残っている煤の跡は5メートルかける2メートルのちょうど馬車のサイズ。
本当に馬車以外に被害がいかないように綺麗に爆破されている。
こんな技術の爆裂魔法を使いこなすなんて、かなり厄介だ。
タクトさんが気づかなかったぐらいだから、おそらく設置型で魔力感知にも引っかからない透明な爆弾のようなものを生成することができるのだろう。
これは後で情報共有しておかないと。
この子の住処はすでに罠だらけで、中に入っただけで死んでしまうなんてことも十分に考えられる。
流石にいきなり敵のアジトに突っ込むような真似はしないだろうけど……。
相性がいいのはリナ。たぶん爆裂魔法の衝撃にも何発かは耐えれる。
しかも近距離まで近づいてしまえば自分の爆破の衝撃で自傷してしまう恐れがあるから、爆裂魔法自体が使えなくなるはず。
このアサって子と戦うなら近距離戦闘が得意で防御が高いリナが適任だ。
逆にアリスさんみたいな遠距離に特化したタイプとは相性が悪いかもしれない。
「次は情報集め」
パレードを見ていた客にも被害が一切なかった。
いくら精密な爆裂魔法とはいえ、これは不可解だ。
あの時パレードを見ていた人を見つけ聞き込みを始める。
「不思議な感覚だったよ!火柱が上がって地面が震えたのに音が一切しなかったんだ!」
爆破の音まで消し去る魔法を使っていた?
音による被害まで考えていたってこと?
「馬が火を見て暴れ出すかと思ったけど、いきなりその場で眠りこけちまってびっくりしたよ!」
睡眠の魔法?
「瓦礫が飛んできたんだけど、空中でいきなり消えてなくなったのよ!」
瓦礫対策まで!
……そして3人は路地裏に。
おそらく風の魔法でタクトさんの糸を切り刻んだ。
風魔法特化型。
移動も早い風魔法は呪文型も近接型も相性が悪いし、こいつはアリスさんに任せたいところだ。
そして気にかかるのが呪文の詠唱をキャンセルした背の高い男。
私やアリサちゃんが戦ったらほぼ勝ち目はないだろう。
呪文が使えないのだから、攻撃手段のほとんどを奪われることになる。
こいつとの遭遇だけは避けたい。
「ふぅー。とりあえず分析終了……」
そう思っていたのだが、何か引っ掛かる、何か見落としているような……何だろう、このモヤモヤした感覚……!!
そうか!油断した!
私はすぐさま風の精霊魔法で全員に伝言を届けようとする。
「みなさん。とりあえず奴らと出くわしたら戦わないで逃げて下さい。奴らは3人じゃなくて……」
そこまで言ったところで私の風魔法は急に離散した。
「ついてないな……詠唱のキャンセルってことは……」
背の高い男。
おそらくタクトさんが言っていた魔法の詠唱をキャンセルできる3人組のうちの一人だろう。
背の高い男は私を見据えて言う。
「私たちの事を嗅ぎ回っているようですね。しかもかなりの手練れ。ってことはあなたはジェイドの関係者。あなたを捕まえて拷問すれば。ジェイドの居場所がわかると……」
まさか尾行されているとは……私としたことが……。
「……尾行の対策はやっていました。それで気配が感知できなかったってことは……いるんですよね、出てきて下さい」
私がそういうと、どこからともなく黒いフードを着た小柄な女の子が顔を出した。
「ヨルごめん。バレてた」
「仕方ないよサヨ。この人はだいぶ頭が切れるらしい。でも逆に、この人をこの場で落としてしまえば、後の任務は容易いってことだ」
「そうか、ヨルは頭がいいな」
サヨ。
それが4人目の名前。
「サヨさんは盗賊系のスキルをお持ちなんですね。それで3人のサポートをしていた」
私は少しでも時間を稼ぐためにヨルに話しかける。人通りが少ない場所だが、誰かが来るかもしれない。
関係のない者を巻き込まない主義のこいつらの事だから、誰かが来れば戦いをやめて逃げていく可能性は十分ある。
「凄いな!そこまで見抜いていたのか」
ヨルは私の推察に、本当に驚いたという顔をしている。
「ええ。音を消す能力。飛んできた瓦礫を全て消し去る投擲能力。逃げる時に使った身体強化諸々、複数の気配を消すのも上級の盗賊スキルですよね」
そう言うと盗賊と言われたサヨはぷぅっと怒った顔を作った。
「違う。サヨ盗賊じゃないもん!」
怒っているサヨを宥めるようにヨルが笑う。
「ふふふ、そうですね。惜しいですがちょっとだけ違います。サヨのユニークスキルは盗賊ではなく、レアスキル『ニンジャ』ですから。じゃあ見せてやりましょうよ。サヨの素晴らしいスキルを!」
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