第95話 新人冒険者、その名は……ってマジですか?

魔王が死んでもう10年以上経つ。

しかし相変わらず魔物の発生は止まっておらず、どこのギルドも相変わらず賑わいを見せている。


そんな中、ゴチンコのギルドには相変わらず客が1人もいない。


「ああ、暇だな」


ギルド長であるゴチンコは新聞を読みながら大きなあくびをした。


「お父さん!ギルドでだらしない格好しないで」


ゴチンコの娘であるローラが父を嗜めるが、ゴチンコは態度を改めるつもりはない。


「ケッ、客なんていないじゃないか」


そう言った途端。


カランコロン


ドアについたベルが鳴り、一人客が入ってきた。


20代後半くらいだろうか?

客はぺこりと頭を下げ、そのまま掲示板を見にいく。


ローラは会釈を返し、小声で父に言う。


「ほら、来たじゃない」


ゴチンコは顎髭を撫でて客を観察する。


「見ねぇ顔だな、多分新規登録、それも依頼料払いでの登録だ。大した金にならん」


そう判断するとまた新聞に目を落とす。


「もう!お父さん!」


ローラが父を叱ろうとすると、さっきの客が1枚の依頼書を持ってカウンターに現れた。


「ほら来たぞ」


ローラは変なとこを見られてしまったと顔を赤くする。


「あの、これお願いします。依頼料払いの新規登録で」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『求む、ポーションに必要な薬草10種!』

報酬銀貨1枚

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「あ、野草の依頼ですね。薬草10種の納品でこちらの依頼は達成となります。今日一日は納品が優先となりますが、明日以降、他の人が同じ依頼を受けた場合、納品は早い者勝ちになりますのでご注意下さい」


「はい」


必要な項目に記載していくその冒険者の顔から、なぜかローラは目が離せなくなった。

なんだろう?どこかで会った事があるような、そうでないような、不思議な感じ。


「じゃあ、お願いします」


必要事項を書き終えた冒険者が外に出ていくと、ゴチンコは娘にちょっかいをかける。


「ああいうのお前のタイプだろ。じっと顔見てたな」


「もう!」


「そろそろ結婚してくれたって俺はいいんだぜ」


「からかわないで!」


笑ってローラの顔を見たゴチンコだが、その顔を見てギョッとしてしまう。


「お、おい、どうしたんだローラ」


ローラの瞳からポロポロと大粒の涙がこぼれていた。


「あれ?あれ?なんでだろう。なんかあの人の顔見たら急に。あれ、駄目だ、なんか止まんない」


「だ、大丈夫か」


ハンカチで涙を拭うローラ。


「う、うん。大丈夫、平気」


そんなローラの姿を見て、ゴチンコもうーんと腕を組んだ。


「なんか変な感じだ。実は俺もあいつの顔見た瞬間、なんかこう、胸の奥がグーっと熱くなって……」


「お父さんも?」


「なぁ、あいつ名前なんて言うんだ?」


ローラは先ほど冒険者が書いていた仮登録のギルドカードに目をやる。


「名前なら……あった、あの人の名前は……」





『ギルドをクビになり、俺は無職になりました』『ノエル編完』

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