第97話 エピローグ
ノエルはパズスを倒した後、俺に詳しく事情を話すように求めてきた。
それはそうだろう。緊急時とはいえ説明を端折りすぎた。
俺は過去に戻った経緯を詳しく話し、合わせて今後の予定を話した。
今後の予定とはもちろんリナとの約束だ。
これから大変になる。
全員とまた同じように出会わなければいけないのだから。
俺の話を一通り聞き終えるとノエルは難しい顔をした。
「やり直す?……だったらまずいね、すぐに行かなきゃ」
「えっ?どこに?」
「どこって、王都だよ。王に会いに行かなくちゃ」
……という訳で、俺とノエルは王の前に来ていた。
もちろん王と謁見するまでに城の兵士達の凄まじい妨害を受けそうになったが、ノエルが魔眼を発動し、「どけ」と一言告げると彼らは素直に道を開けた。
魔眼やっぱすげー!チートすぎ。
王は俺とノエルの姿を見ても落ち着いていた。
どうやら王はノエルに命を助けてもらったことがあるらしい。
「其方か……其方には命を救ってもらった。魔王軍の進軍を止めてもらった。其方になら命を奪われても……文句は言えまい」
「あんたの命なんて僕にとって何の価値もないしいらないよ。それよりもお願いがあるんだ」
「其方の願いであれば、何とかして叶えたい。言ってみてくれ」
「うん。じゃあまずは僕の話を聞いてね」
ノエルは簡潔にパズスを今さっき倒してきたと報告する。
「なんと……それではあの魔王城に突然現れた眩い光は聖槍の力で、其方らが魔王を倒したと言うのか!?」
「其方らっていうか、倒したのはタクトだけどね」
ノエルがそう訂正するが、俺一人の力では到底倒せなかった訳で、あの勝利は皆んなの力があってのものだ。
「いや、ノエルがいなかったら早々に死んでたから、俺」
「何という事だ……すぐに国中に知らせなくては!国を救った勇者を讃える祭りを開かねば!すぐにパレードとパーティーの手配を」
王は立ち上がり忙しそうに歩き回ってぶつぶつと言っている。
「そうだ!12月25日、今日を国の記念日にするのがいい!毎年盛大にこの日を祝うのだ!」
忙しくなる忙しくなると言いつつ、王は嬉しそうに計画を練っている。
ノエルは無邪気にはしゃぐ王を見て、若干申し訳なさそうに言った。
「あーちょっと待ってちょっと待って。確かにこの国が平和になったのは間違いないんだけどさ、それは国民には内緒にしてもらいたいんだよね」
えっ?どういうこと?と思った俺の言葉を王が代弁してくれる。
「何!?どうしてこんな素晴らしい日を隠しておくなどと!?」
「えーっと、実は僕の夫のタクトなんだけど、僕を助けるためにわざわざ時空を超えてきちゃってるんだよね。僕のことがだーい好きみたいで」
ノエルは顔を緩ませニマニマしている。
こんなノエル初めて見たよ。
「時空を!?そんなことができるのか?……いや、伝説の勇者ならそれくらいやってのけるかもな。だがそれが事実を公表しないことと何の関係が?」
うんうん。
そうだよね、何の関係があるか俺も知りたい。
「妬けちゃうけどさ、タクトは僕以外にも大事な人がいるらしいんだ。それも何人も」
そう言ってノエルは俺の腹をぎゅーっとつねった。痛い痛い!
「そのために僕の旦那様は大事な人たちとの出会いを前と同じように繰り返すつもりなんだよ。僕はいい奥さんだから旦那様を応援するよ、だ、か、ら、なるべく変化は起こしたくない。小さな改変でも未来には多大な影響を及ぼす……」
聞いたことがある。
バタフライエフェクト、些細な出来事がさまざまな要因を引き起こした後、非常に大きな事象の引き金に繋がることがあるという。
確かに魔王を倒したことってかなり大きな過去改変だ。
世界は様変わりするはず。
前と同じ様に皆んなと出会うのはちょっと難しそうだ。
「それで魔王が消滅したことを秘密に、か。だが、それでは其方らへの褒美は……」
「心配しなくてもご褒美はちゃんともらうよ。この国のはずれにある北の森、あそこら辺は魔物が強くて人がほとんどいないよね」
「そ、そうだな。魔王の件が片付いたら魔物の討伐隊を派遣して、何とか開拓しようと思っていたんだが……」
「あの森を頂戴」
「あんな森を?構わんがあそこで何を?」
「タクトの話だと、僕はパズスから魔王の称号を受け継いだせいで、体から瘴気を放つようになって、あの森で引きこもることになるらしい。だから今日からあの森は魔王の領域と呼ぶようにして、誰も近寄らない様に国民に周知させてよ。僕引きこもるから」
俺はノエルの発言を聞いて驚いた。
確かにノエルが魔王のフリをすれば、過去改変は最小限になるかもしれない。
だが……
「駄目だノエル!それじゃあ君が悪者になる」
「別にいいよ。僕はタクトがいればそれで十分だし。その代わりちょくちょく会いにきてよ」
「いや、そりゃもちろん会いに行くけどね」
「えへへ」
ノエルは嬉しそうだ。
「分かった。其方の言うとおりにしよう」
「えっ、ちょ、ま、王様!」
「あとタクトが目的を達成できるように、色々と取り計らってね」
「分かった。それが其方と勇者の望みなら叶えよう」
「だから待ってって、俺の話も……」
「ありがとうね」
どんどん話が進んでいくが、俺はとんでもない事に気がついてしまった。
「ノエル、ちょっといいかな」
「ん?」
俺はノエルを呼び、王に聞こえないようにヒソヒソ話をする。
「俺がなるべく同じ行動しなきゃいけないって話だけどさ、10年後、俺王様の娘、つまり姫様を奴隷にして首輪つけちゃってさ、ノエルはもう一人いる姫様のお腹にハート型のタトゥー入れることになるんだけど、そこまでは再現する必要ないよね?」
ノエルは大真面目な顔で言った。
「いや、ダメだよ。どんな些細なことでも再現しとかないと大きな変化が起きちゃうんだから。あとでタトゥー入れる時期とデザイン教えといてね、忠実に再現するから」
「う、嘘だろ……」
ノエルは王に明るく声をかける。
「じゃあ僕たちはそろそろ行くね。大変だろうけどよろしく」
「いや、本来であれば勇者に私の娘二人を差し出しても足りん程の事をして貰ったのに、こんな事でいいならかえって申し訳ない」
そう言って王は大きな声で笑った。
「ほら、娘差し出すって言ってるし全然大丈夫だね」
「ノエル、ちょっと黙って!今良心の呵責に苛まれてるとこなんだから」
王に別れを告げ、俺とノエルはそそくさと王城を後にした。
王城を出た途端、ひんやりとした空気が頬にあたる。
冬の夜だった。空気が澄んでいる。
俺とノエルは自然と手を繋いだ。
「あ、雪だ」
ノエルは空からちらちら降る白い結晶を見て笑った。
俺はノエルに言う。
「慌てて来ちゃったし、帰りはゆっくり帰ろうか」
「うん」
パズスを倒すために慌てて来たので、俺のポケットには大してお金は入っていなかった。
だから街でノエルの大好きなリンゴのパイと安物のワインを買った。
世界を救った勇者と魔王は今日、細やかなパーティーを開くつもりだ。
『セシリア編』に続く
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