第94話 世界最低のプロポーズ
俺の突進は再びパズスにかわされるが、絶妙なタイミングで距離を詰めていたノエルの蹴りがパズスの背中にヒットする。
「ガハッ」
体勢を崩したパズスに槍を叩き込む。
が、あと数センチと言う所で、パズスはそれを避け距離を取る。
「小賢しいやつらめ!死ね!メテオス」
巨大な隕石が俺たちに向かい堕ちてくる。
ノエルと俺は迷わず隕石に突っ込んだ。
「魔剣技、斬岩発破(ザンガンハッパ)」
ノエルの剣技で隕石が粉々になる。
俺は隕石の礫(ツブテ)に紛れて再びパズスに攻撃する。
「フハハハ!ヌルいわ!」
パズスは俺の攻撃など恐るに足りないと言った様子で軽々攻撃をかわすが、次の瞬間ハッとする。
「貴様、槍は何処だ!」
そう、俺の手に槍はない。
槍には糸をつけて、隕石の礫に紛らせてある。
槍を糸で操りパズスの背中目掛けて放つ。
「いけぇぇぇぇ!!」
パズスは着けていたマントを放り捨て、あとほんの数ミリと言う所で命からがら逃げ出し、大きく距離をとる。
「はぁはぁはぁ、人間如きが!」
いける!
次の連携でパズスを倒せる!
俺は確かな手応えを感じていたが、ノエルが不吉な言葉を呟く。
「空気が……代わった……」
パズスの身体に赤く怪しいオーラが集い、その瞳が不気味に光ったかと思うと、パズスの身体がみるみる変容していく。
「完全に変身する前に!」
ノエルの言葉にハッとして慌ててパズスに突っ込むが、パズスの身体から衝撃波が起こり、俺もノエルも吹き飛ばされる。
「お前達は……調子に乗りすぎた」
変身が完成してしまった……。
頭と腕は獅子、背に4枚の羽を持つ恐ろしい魔物の姿に、パズスは変身した。
その凄まじいオーラに俺の身体は硬直してしまう。
もちろんパズスはそんな事はお構いなしに俺に襲いかかる。
「タクト!」
ノエルの喝で硬直が解けた!
慌てて飛び上がり間一髪回避する。
「ふむ、よく避けたな。私の尾の毒を受ければ肉体は崩壊していただろうな、フハハハ!」
正直攻撃を目で追うことすら難しかった。
避けるのに精一杯でここから攻撃に転じるなど到底考えられない。
俺がジリジリ距離を取っていると、ノエルは1人でパズスに突っ込んでいった。
「ノエル!」
ノエルとパズスは目にも止まらぬ速さの攻防を繰り返す。
俺が手を挟む隙はない。
「フハハハ!ノエル、お前は確かに強い!しかし魔王の称号を持つ私の方が上だったようだ!」
パズスの言葉通り、余裕な顔をしているパズスとは対照的にノエルはキツそうな顔をしている。
「ノエル、私はお前にワザと殺され、お前を魔王にしようとした。お前ほどの力を持つものが魔王になれば身体から発せられる瘴気が世界を覆い、この世は魔族の楽園になるからだ」
「だったら……今も大人しく死んでくれない?」
「フッ、戯言を。貴様は魔王になったらそこの男のロンギヌスで死ぬつもりだろ?」
「……」
「図星だな、フン!」
パズスの攻撃でノエルは吹き飛ばされる。
「うっ!」
「ノエル!」
吹き飛ばされたノエルを抱き止める。
「フハハハ!私の物にならんなら2人仲良く死んでしまえ!オメガメテオス!!」
パズスの城の天井が吹き飛び、まるで月が堕ちてきたと錯覚するほどに超巨大な隕石が現れる。
「私の最上位魔法だ。この巨大な隕石ならお前たちを殺すだけでなく、人類の大半も殺せてしまうな!フハハハハ!!」
この世のものとは思えない赤黒い隕石を見て、ノエルが諦めたように呟いた。
「タクトと一緒に死ねるなら、それもいいかも……」
……おいタクト、未来の嫁さんが絶望してるぞ!
そんな時、お前はどうするんだ!?
俺は自分の顔を両手でバンと叩いた。
立ち上がり隕石の前に仁王立ちする。
「死なせねぇよ……誰も」
そんな俺の言葉を聞いても、ノエルには響かない。
「あの隕石、僕でも破壊できない。タクトには無理だ。どうせ死ぬならタクト、ほんの短い時間だけでも一緒にいてよ」
俺はロンギヌスの槍に力を込める。
「ノエル、さっきも言ってたじゃないか、俺の言葉だから信じたって。今度も信じてくれ、俺の言葉を。なんか逆にいい調子。ロンギヌスの槍の出力が上げられそうなんだ」
言葉通り、俺のロンギヌスは少しずつ膨張するように大きくなっていく。
「す、凄い……これが……ロンギヌスの槍……」
槍は普通の槍と遜色ない程に大きくなった。
でも駄目だ。これじゃ足りない。
あの隕石は砕けないし、パズスには届かない。
俺は出力をさらにあげるが、体がロンギヌスの力に耐えきれず吐血する。
「だ、駄目だタクト!それ以上は!ロンギヌスの槍の威力にタクトの体が耐えられず、体が崩壊するぞ!」
ノエルの言う通り槍に生命力が吸われていくのを感じる。
だが構うもんか、くれてやるよ、俺の体なんて!
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
出力を上げていく俺にノエルが抱きつく。
「本当に駄目!世界が救われても、タクトが死んじゃったらなんの意味もない!」
そう言って涙を流すノエルを見て俺は思い出した。
「そうだった、リナと約束したんだった……」
リナの事を考えると、槍がまた一段と大きくなった。
「ローラさんに飯作ってもらわなきゃ……」
もう一段、
「ウランちゃんと一緒にギルドを救わなきゃならないし……」
また一段、
「引き分けなんてセシリアに怒鳴りつけられるしな……」
さらに一段、
「ユキちゃんに先輩としてかっこ悪い姿は見せられないし……」
いつの間にか、槍は隕石と並ぶ程の大きさになっていた。
俺はノエルにニッコリと笑いかける。
「ノエル、結婚しよう!でも俺ハーレムを作んなきゃならないんだ、いっぱい浮気すると思う!それでもお前が好きだ!結婚しよう!」
そんな俺の最低最悪のプロポーズを聞いて、ノエルは涙をこぼしなが声を上げて笑った。
「ふふふっ。そんな最低のプロポーズ、初めてきいた」
「じゃあ駄目か?」
ノエルは首を振る。
「僕は寛容な女だから、浮気の一つや二つ、許しちゃうから安心してね」
そう言ってノエルは俺にキスをした。
俺の聖槍は隕石を上回る大きさまで膨れ上がる。
「ロンギヌスの槍……レベルマックスだ!」
槍の大きさを見て、パズスの顔がひきつる。
「はっ!?たった1匹の人間如きが、魔王の私に……」
パズスは大きな間違いをしている。
「一人じゃねぇ……」
「何だと!?」
「こちとら、一人じゃねぇんだよ!ハーレムでな美人の妻が……大勢待ってんだよぉぉぉぉ!!!!!!」
音速を超える速さになった俺の槍は、隕石とパズスに向かい一直線に飛んでいく。
「ば、馬鹿なぁぁぁぁぁ!!!私の、私の計画がぁぁぁぁぁ!!!!!」
隕石とパズスはロンギヌスの槍とぶつかり、一瞬にして消滅した。
世界に平和が戻った。
俺とノエルの結婚を祝福するように、空には虹がかかった。
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