第93話 

俺は粗槍を片手にパズスに突進する。


しかし想像以上にスピードが出ない。魔眼を失ったのが一番大きいかもしれない。力が落ちている。

パズズにひらりとかわされるがそこは想定内。スピードが落ちた分は技術でカバーするしかないのは分かっていた。


巧みにロンギヌスを右手左手と持ち替えて攻撃する。

しかしそれすらパズズには届かず、逆に強烈な蹴りを腹に入れられた。


「グッ」


吹き飛ばされしゃがみ込む俺を見下ろしノエルが言う。


「だから言ったじゃん、タクトじゃ勝てない。僕が倒すからタクトは大人しく見てなって」


「それじゃ駄目なんだって」


そう言い放ち、俺は腹を押さえて立ち上がる。


「いや、よく分からないけど魔王ってのになるだけでしょ?別にそこまでムキになることじゃ……」


「駄目だ!」


突然の俺の剣幕に、ノエルはビクリとする。


「そんな怖い顔するなよ」


「ご、ごめんノエル。でも駄目なんだ。魔王になったノエルは強すぎて人間が近寄れなくなる。それどころかノエルの体から発せられる瘴気で他のみんなが死ぬ。だからパズスは絶対俺のロンギヌスで倒さなきゃ。信じるのは難しいと思うけど……」


俺が再びパズスに挑もうと構えると、ノエルが俺の横に並んで魔剣を構えた。


「だからノエル、君がパズスを倒しちゃ……」


「……信じたよ。タクトの言葉だもん」


「じゃあなんで?」


「タクトじゃパズスには逆立ちしたって勝てない。妻として、不甲斐ない未来の旦那様のアシストでもしてやろうと思ってね」


最強の魔眼を持つノエル。

これ程頼もしいスケットもいない。


手に持つ武器はナイフよりも頼りない槍。

目の前にいるのは魔族の頂点魔王。

こんな絶望的な状況にも関わらず、俺は自然と笑みが溢れた。


「じゃあ、さっさと世界を救っちゃいますか!」


俺は再びパズズに向かってスピードを上げた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る