第92話 ノエルと魔王

ノエル視点


パズスの城にいる魔王直属軍は数が多いだけで大した事はなかった。

魔王直属というくらいだから、ちょっとは骨のある奴がいるかと思ったが全然そんなことはない。

皆自分より弱い人間を弄ぶのに夢中で、自分より強い相手が現れる事など想像もしていなかったのだろう。


「お、同じ魔族だろ!み、見逃してくれ!」


「そうやって命乞いした人間を、お前は1人でも生かしてやったのか?」


「ヒィー!」


情けない魔族の面汚しは、空中に浮かび爆散した。


「これなら魔界にいた連中の方が強かったかもしれないね」


難なく城の最深部までたどり着くことができた。


上手くいきすぎている。

嫌な予感を感じた。


王の部屋の前だというのに、警備兵の1人もいない。

誘い出されたのか?


「ま、そうだとしても問題ないけどね」


そう独言ドアを開けると、案の定罠が発動した。

無数の矢が飛んでくるが全て叩き落とす。


「魔王のくせにセコイ真似するんだね」


僕は目の前で玉座に座っている緑色の長髪の男にそう言った。

立ったら190センチメートルはあるのではないだろうか、顔立ちも多分世間的には整っている。

ああ言うのを色男と言うのかな?

個人的にはイケ好かない。


「ようこそ、我が城に。さすがだねノエル」


「僕の名前、知ってるんだね。お前はパズスでいいんだよね。一応殺す前に確認」


「いかにも、我が魔族の頂点にして王、パズスだ。君が城に来てくれて良かったよ。君とは前々から話をしたいと思っていたんだ」


「僕は話すことなんてないけどね」


そう言って僕は戦闘体制を取ろうとするが、パズスは頬杖をついて相変わらずのらりくらりしている。


「まあそう急くな。聞かせてくれ、何故私の軍隊を潰し人間なんぞに味方する」


「別に深い理由なんてないよ。人間の作ったリンゴの方が魔界のリンゴより美味かった。人間が滅んだらリンゴが食べれなくなるかもしれない。だから人間を滅ぼそうとしているお前らは邪魔だ」


「ははは、たかだかリンゴとは!面白い。では提案だノエル!俺たち2人なら簡単に人間どもを支配できるだろう。俺と手を組むって言うのはどうだ。人間どもも少しは生かしておいて奴隷にするのだ。それならリンゴも飽きるほど食えるぞ」


「ふむ。人間を奴隷、それは考えた事なかったね。でも無理だね、手を組むって、そもそも君を信用できない」


「ふふふ、心配はいらない。私は美しい物が好きだ。ノエル、君は美しい。特にその瞳!是非ともそばに置いておきたい。どうだい、いっその事私の妻になるというのは」


パズスの歯が浮くようなセリフに、思わずゾワリとしてしまう。


「残念だけどタイプじゃない。それに僕にはもう婚約者がいるんでね」


「ふむ、他の魔族はこう言えば簡単に股を開くのにな、ますま欲しくなったぞ、ノエル」


「僕は君のこと、大嫌いになったよ」


「ハハハハ!なら良い。望み通り、殺し合いだ!」


パズスは剣を抜き突っ込んでくる。

なるほど、魔王というのは嘘ではないらしい。

今までの誰よりも速い。


しかし、異空間から魔剣を出現させ剣撃は難なく受ける。


「魔剣の召喚、素晴らしい!ノエル、ますます君が欲しい」


「ムカつくな。僕は物じゃないから!」


怒りのまま剣を振り、衝撃波を放つ。


パズスは剣でそれをかき消すが、もちろん衝撃波の後ろにいる。

そのまま直接剣撃をお見舞いする。


割とうまく攻撃できたつもりだったのだが、それも顔色一つ変えず剣で受ける。

僕の剣とパズスの剣がぶつかり黒い閃光が走った。


とりあえず距離を取るか。


「あれを受けるって、魔王って言うだけのことはあるね」


「お褒めに預かり光栄だ」


ふん、嫌なやつ。速く終わらせたいし、魔法使うか。


「スターダスト」


氷の範囲魔法。

氷の礫(ツブテ)が無数にパズスに降り注ぐ。


「シールド」


パズスは球体のシールドを出して防ぐ。


礫じゃ威力が弱すぎたかな。


「魔焰(マエン)」


僕は黒くゆらめく炎を召喚した。

大きさは5メートルくらいでいいかな?


それを見てパズスは驚きの表情をみせ、喜ぶ。


「魔界の炎!素晴らしい!人間の界でそれを出せるとは、ノエルやはり君は私の妻になるべきだ……いや、むしろ……」


ああうるさい!本当にこいつとは合わないな。


「ごちゃごちゃ言ってるけど分かってるの?魔界の炎は対象を燃やし尽くすまで消えない」


僕がそう言うとパズスはパチンとウインクしてみせる。


「いいね、撃ってみろ」


くそムカつく!


「言われなくても!」


僕はパズス目掛けて魔焰を放った。

避けられると思うけど、高速で追尾させる。

命中するまで魔力操作を続けてやるからな!


しかし意外な事に、パズスはぴくりとも動かない。

えっ?何故避けない?


パズスがニヤリと笑った気がした。


自ら死にに?そんなまさか

パズスに焰が当たる。

まさにその直前の事だった。


「全てを凍らせろ!コキュートス!」


僕の魔炎が……凍った?

氷の最上位魔法!?


「誰だ!?」


パズスが伏兵を忍ばせていたのか?


「いやー、いくらなんでもギリギリに飛ばされすぎでしょ!」


この声……嘘だろ?なんでここに。


「タクト!どうして?」


タクトは僕の前に姿を現し、ゆっくり歩み寄る。


「騙されるな、ノエル。そいつはワザと死んで、お前を魔王にしようとしている」


「チッ」


パズスが舌打ちする。


「どう言うことだよ。説明してくれ、タクト」


「魔族が魔王を殺すと魔王の称号が殺した魔族に移ってしまうんだ。ノエル、信じられないかもしれないけど俺はノエルが魔王になってしまった未来から来たんだ」


未来?なんだそれ?


「タクト、どっかで頭でもぶつけたの?」


「まぁそう思われても仕方ないよな。とりあえずお前が魔王になると大変なことになるんだ。パズスは俺が倒すから任せてくれ」


「倒すって、タクトの実力じゃ」


「心配するな、俺にはロンギヌスの槍がある」


そうか、聖槍!タクトの魔王を殺せるスキル。でも……。


「た、確かにロンギヌスの槍ならパズスを倒せるかもしれない。でもタクトの聖槍のスキルレベルは1。ロンギヌスの槍の具現化はまだ」


「いや、もうできる」


そう言ってニッと笑うタクト。


なんだって!?凄い!レベル1でもうロンギヌスの槍を発動するなんて!


「ロンギヌスの槍の勇者?本当に実在したのか?」


パズスはタクトに恐れをなし後ずさる。


「ああ。俺はお前の天敵だぜ。見せてやる!俺のロンギヌスを!」


タクトの右手が光り輝く。


「!?」


「これは!?」


次の瞬間タクトの手には槍には見えない何か?が収められていた。


「……なんだそれは」


パズスがそう言いたくなるのも分かる。


タクトの手に握られているロンギヌスの槍はとてつもなく短く、小指ほどの刃先しかついていないお粗末なものだった。


「これがロンギヌスの槍だ!」


「フッ、ハハハハハハハハ。驚かせおって!殺してやる」

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