第90話 ルビードラゴンは絶滅したってマジですか?
目の前が真っ暗になった。
夢ならすぐに覚めてくれと、神に祈った……。
「ローラとゴチンコはギルドのようじー。アリサとウランせんせーとアリスはかんたんなおしごとーっていってたー」
えっ?
…………。
なんだこれは?
目の前にいるのは……リナ?
「ここ?ギル……ド?」
俺は屋敷の前にいた。間違いない。
突然移動した?
誰かのスキル?
それともロンギヌスの槍でノエルを殺してしまったから?
……駄目だ、思考がまとまらない。
「なんかヨウスがへんだぞタクト?オウサマとのえっけんでなにかあったか?」
謁見?
何を言っているんだ、リナは?
「謁見ならもう何日も前に……」
俺がそう言うとリナはキョトンとした顔をした。
「なにいってるんだ?タクトあさ、えっけんにいくってでてったぞ」
今日が……謁見の、日?
……だとしたらあれは本当に、夢か何かなのか?
俺は、ノエルを殺していない?
…………いや、違う。
俺の手には今も生々しくノエルを手にかけた時の感触が残っている。
……あれが夢のはずがない。
「きゅうにどうした?タクト、すごいあせだぞ?」
汗?
俺は汗をかいているのか?
それにさっきから地震か?度々ぐわんぐわんと視界が揺れる。
「フラフラだぞタクト!ほら、イスすわれ」
ノエルを殺してしまった感覚。その時のノエルの表情、言葉、手に残る感触。
それが何度も頭の中でリピートされて、その度に胃の中のものが上がってきそうになる。
間違いない、俺はノエルを殺した。
それなのに何だこれは?なぜ俺はゴチンコのギルドにいる?
「やっぱりタクトなんかようすがおかしいぞ?」
俺は強烈な吐き気についに耐えきれなくなった。
千鳥足でトイレに駆け込み、トイレの中に嗚咽した。
胃の中が空っぽだった。
何だか胃の中の物と一緒に、色んな大事な物を吐き出してしまって、俺自身がからっぽになってしまった様な、そんなおかしな感じがした。
ふらふらとトイレから出てきた俺をリナが抱きしめる。
「だいじょうぶだぞタクト、しんぱいない。リナがタクトをまもるから」
リナに心配されてる。駄目だぞ、タクト、このままじゃ。
「だ、大丈夫だリナ、ちょっと疲れただけだから、離して……」
「いやだ!はなさない!」
そう言ってリナは俺を抱きしめ続ける。
「本当に、本当に大丈夫なんだ。今度も自分の力で何とかできるから」
そう、今までだって何とかなってきた。今回だって……
「うそだ。だってタクト、ないてる」
「泣いてなんか……あ、あれ?」
リナに抱きしめられながら、俺はいつの間にか大粒の涙を流していた。
止めようと思っても、涙はとめどなく流れ出る。
「おっかしいな。ごめん、本当にごめん」
「……あやまらない。タクトなーんにも、わるくない」
悪くない。
そう言われた途端、俺の中の何かがはじけた様な気がした。
俺はリナの胸の中で、子供の様に大声をあげしばらく泣いてしまった。
そんな俺の頭をリナが優しくポンポンと撫でる。
「よしよし。リナこうみえてタクトよりずっとおねいさん。つらいこともいっぱいあったからタクトのきもちわかる。なにがあったかはなしてみろ。らくになる」
リナの言う通り、今自分の身に起こっている事態について、1人では抱えきれそうになかった。
話してみる。確かにそれが一番いいかもしれない
辿々しくではあるが、俺は自分の身に起きたことをリナに洗いざらい話した。
ノエルに操られてノエルを殺した事、確かにノエルを殺したのだがいつの間にかゴチンコのギルドにいた事。
話を聞き終わったリナは、「あぁ」と合点が言ったような顔をした。
「わたしのいちぞくはルビードラゴンっていってすごーくつよかった。だけど、むかーしむかし、いんせきがおちてきてぜーんぶしんじゃった。でも、リナだけユニークスキルでこのジダイにワープしていきのこったんだよ。タクトもリナとおんなじスキルつかえたんだね」
「時代を……ワープ?ユニーク……スキル?」
しばらくは意味がわからず戸惑っていたが、急にひらめき、慌てて魔眼を発動させた。
やっぱりそうか。
一度使用したせいなのか、文字化けしていたリナのユニークスキルが、いつの間にか見えるようになっている。
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リナ ルビードラゴン
ユニークスキル
『時空移動』
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