第83話 鷹の爪の崩壊その5
2人の冒険者が話をしている。
1人は鷹の爪49支部の冒険者アモスC級。
もう1人は同じくC級、ゴチンコのギルドの冒険者リンドウである。
「おい、アモス知ってるか?新しくできたギルド」
「ああ、なんかできたらしいな。でも大手じゃないんだろ?やっぱり入るなら大手のギルドの方が安心だしな」
アモスにそう言われたリンドウは悪戯をする子供の様にニヤリと笑う。
「まぁ騙されたと思って一度来てみろよ」
「ええーいいよ」
「いいからいいから」
そう言って強引にゴチンコのギルドに連れて行かれるアモス。
回復のカウンターに引っ張ってこられた。
「回復いいですか?」
「もちろん。1人500ゴールドです」
「こいつゴチンコのギルドに入ってないんですけど、体験でやらせてみたいんですけどいいですかね」
「ギルドに入っていない方は1000ゴールドですが、特別に500ゴールドで結構ですよ。是非どうぞ」
「よし、お前の分俺が払っとくから。いくぞ」
そう言われても、アモスは眉間に皺を寄せている。
「回復?今俺怪我なんてしてないぞ」
「いいから」
部屋に入ると大量のベッドがあり、みんな寝ている。
ベッドは白と黒のゴシック調で、独特なデザインだ。
「じゃあ1人30分だから30分後に」
訳が分からないと言った風に渋々ベッドに寝るアモスであったが……
「こ、これは!」
ベッドに寝た途端に衝撃を受けた。
30分後
「どうだった?」
リンドウがそう聞くと、アモスは満面の笑みだ。
「いやー、昨日飲み過ぎて肝臓がちょっとアレだったんだけど、それが治っちまったよ!あと疲労感が消えた!これなら100%の力で動けそうだ!」
「俺もこのベッドで寝続けてから腰痛が治ったんだよ」
「すごいな、これ」
「重傷は無理だが、軽傷や疲労ならこのベッドで回復するらしい。なんか魔石だかなんだかがベッドに組み込まれていて回復効果を……って感じらしい。ベッドは十分な数があるだからゴチンコのギルドは回復の順番待ちなんかもない」
「ただちょっと大の男が寝るにはベッドのデザインがきついな」
「ああ、なんかアレみたいじゃないか、鷹の爪のアリスの着ている服」
「そういえばアリスって鷹の爪やめたらしいぞ」
「もしかしてこのベッド作ったのアリスだったりしてな」
「あの戦闘狂のアリスがベッド作り?ないない」
「そうだよな」
もうすでにアモスはこのゴチンコのギルドに気持ちが傾いている。
しかし回復で一番大事なのは重症の回復だ。
治癒術師のレベルが高いのが大手ギルドの利点でもある。
治癒術師のレベルを見ないことには移籍はできない。
「重症の治療は大丈夫なのか」
「ああ、それはあっちだ」
ちょうど骨折をした患者が若い治癒術師から治療を受けている所だった。
その若い女性の治癒術師はたった1秒の詠唱で術を展開させた。
もちろん、折れた骨は一瞬で再生する。
「はい、治りましたんで早く帰ってください」
随分と塩対応だが、治療された方は興奮している。
「素晴らしい!鷹の爪の時のタクトの治療よりもすげぇ!オネェさん天才だよ!」
「はぁ?タクトお兄様の方がすごいに決まってるでしょ?殺しますよ」
褒めたつもりが物凄い剣幕でキレている治癒術師に圧倒され、
「し、失礼しましたー!!」
治療された男は逃げるように帰っていった。
「ま、まぁ腕は一流だ」
「いや、ほんと凄いよこのギルド。それでさっきからめちゃくちゃいい匂いがしてるんだけど、これは何」
「ああ、食堂だな。飯食ってくか」
食堂に入るとかなりの広いスペースだったが、席はほとんど埋まっていた。
「はい、バナナフィッシュの煮付けお待ちです」
「こっちはビール3つね、ユキちゃん」
「はい」
「唐揚げ追加!」
食堂に入った冒険者は驚きの声を上げる。
「あれって鷹の爪にいたユキちゃんじゃん!!!!」
「そう、なぜかここで働いてるよ」
「……俺やめる」
「ん?」
「鷹の爪やめてこのギルドに入るぞ!!!」
ゴールズ視点
部屋に秘書が入ってきた。
また人員補充の催促か!けっ。
「ああーだから、人員はもう少し待って言ってるだろ!」
「いえ、実は人員の確保は必要なくなりました」
人員の追加が必要ない?やったぞ!これで頭を悩ませる必要もない!
「そ、そうか!そうだよな!優秀な人材だ!仕事にもそろそろ慣れた頃だな」
「い、いえ、そうではなくて……」
「何?じゃあどうして人員補充がいらないんだ?」
「えーっとその、大変申し上げにくいのですが……全員辞めました」
「……んっ?なんだ、よく聞こえなかったぞ?」
「えっと、鷹の爪49支部に現在所属する冒険者の数はゼロです。おそらく全員が新しくできたギルドに移籍したものかと」
「はっ?なんだそれは、冗談か」
「えっと……冗談では……」
「もういい!」
俺は秘書を押し退けてギルドのホールに出る。
すると秘書がいった通り、あれだけ大量にいた冒険者達が1人もいない。
「う、嘘だ!お、親父に殺される……」
ちくしょう!!なんで俺がこんな目に!
こんな天使の様な俺様に、なぜ神はこんな試練を与えるんだ!
ゴチンコのギルド?
悪魔だ!悪魔が使わせた障害に違いない!
ゴチンコのギルドの奴は悪だ!魔族だ!
潰してやる!全員殺してやる!!
あれを取ってくれば、それができる!!
本部からあれを取ってくれば!!!
俺は49支部を飛び出し、急いで本部に向かった。
そんな光景を遠くから監視している者が1人。
「うふ♡ゴキブリがやっと動いたわね♪」
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