第82話 鷹の爪の崩壊その4
鷹の爪49支部に向かう冒険者達が2人。
2人は顔をしかめて何やら話している。
「あー最近やってらんねぇな」
「またその話か?」
「いや、何度でも言うだろ。魔物の解体は遅いし雑」
「回復は重症者しか受けられず、しかも1時間に1人まで」
「買えるポーションは効果も薄いし激まず」
「何より……」
「「俺たちの天使ユキちゃんがいねぇ」」
そう言って冒険者達はため息をついた。
そんな所に走って駆け寄ってくるもう1人の冒険者。
「おい、聞いたか。あっちに新しいギルドができたって」
「本当に?こんな所に?」
「いや、それが本当なんだよ」
「名前は?鷹の爪に次ぐ二番手のミラージュか?」
「いや、聞いた事ない名前のとこ」
「聞いた事ないって、鷹の爪からシェア取ろうって言ってんだからある程度有名なとこに決まってんだろ。お前がギルドに詳しくないだけだ。ギルドの名前言ってみろ」
「ゴチンコのギルド」
「聞いた事ないな」
「だろ?」
「あ、俺ちょっと知ってるかも。なんか今回の御前試合の優勝者が所属するギルドがそのゴチンコのギルドだった気がする」
「マジか」
「行ってみる?」
「だな」
早速3人は新しくできたギルドに足を向けた。
「ようこそ、ゴチンコのギルドへ」
そう言って3人を迎え入れた女性の受付は、とてつもない美人だった。
そしてとんでもなく胸が大きい。
思わず顔が緩む3人であった。
「あのー新しくできたって聞いて。入るかはまだ決めかねてるんですが……」
「大丈夫ですよ。今なら登録手数料は0ですから」
「0!?マジか!」
「さらに最初の1週間はお試し期間ということで、ゴチンコのギルドのあらゆるサービスが無料でお使いいただけます」
「って事は回復サービスとかも?」
「はい」
「俺、入ろっかな。鷹の爪と掛け持ちでもいいですか?」
「はい、もちろんです」
「じゃあ俺も」
「俺も!」
結局全員がお試し登録を決めた。
「早速なんですけどさっきコカトリスを狩ってきたんです。解体と買取お願いしてもいいですか?」
「はい、ありがとうございます」
コカトリスは解体難易度がかなり高い。冒険者は解体師の腕が気になった。
解体師の仕事によっては買取の価格が大幅に下がってしまうからだ。
「解体される方ってどなたですか?」
「ちょうど今いらっしゃいましたよ。のぶおさん、こっちです」
ゆっくりと50歳くらいの男がギルドの方に歩いてくる。
「おう、ウランちゃん!」
そう言って現れた男は、どう見ても解体師ではない。
解体師が着る汚れてもいい魚市場の者のような格好はもちろんしていない。
どちらかと言えば老舗の板前といった格好だ。
「こちらのぶおさん。先日まで王都で板前をしていた方です」
「本当に板前だった!?板前に解体?」
「ウランちゃんはうちの常連でね。いやーどうしてもって口説かれてきちゃったよ」
「のぶおさん、このコカトリス早速お願いします。冒険者様、コカトリスですので買取は毒袋だけでよろしいですよね」
「は、はい」
コカトリスには強力な毒が毒袋にあり、その毒袋に需要がある。
体のどこかに毒袋があり、それを取る際にどんなベテランの解体師でも毒袋から少量は毒が漏れ出してしまう。漏れ出した毒で、肉やその他の部位はダメになってしまうのだ。
綺麗に毒袋を取り出せれば出せるほど、買取の価格は高くなる。
板前のぶおは受付からコカトリスを受け取ると「あいよ」と言って板前包丁を取り出した。
かと思うと個体によって位置が違う毒袋を、わずか数秒で抜き出した。
「はい、毒袋ね」
「す、すごい!この毒袋ほとんど損傷ないじゃないですか!」
「ほとんどじゃないよ、損傷ゼロ」
「損傷ゼロ!?それは言い過ぎですよ!そんな技術見たことも聞いたことも」
「そりゃあ板前としての技術が低いだけだわ」
ついに解体師じゃなく板前って言っちゃったよこの人。
そう言いながらもコカトリスを捌いてる。
「あれ?その肉って汚染されてるから捨てるんじゃ……」
「だから毒袋に損傷ないんだから肉は食えるよ。今作ってやっから待ってな」
「ま、魔物ですよ!魔物を食うって」
「魔物の肉は硬いし、毒があるし、味も悪いですよ」
「ほら、のぶおさん、やっぱりそう言われてますよ。だから魔物料理しか出さないのぶおさんの店いつもガラガラなんですよ」
「そうなんだよね。王都でやってた時は常連はウランちゃんだけで、もう潰れる寸前だったよ」
「魔物料理だけ!?」
「そう、魔物料理専門店やってたのよ」
魔物料理って、物好きが食べるゲテモノじゃないか。
「お、俺あんまりお腹空いてないので……」
「はいお待ち!コカトリスの唐揚げね」
断る間も無く、ドンと出されたその料理。
か、唐揚げ?
なんだそれ?
でもこの匂い、食欲をそそる見た目……。
思わず唾を飲み込む。
いや、ダメだ!これはコカトリスだ!食ったら死ぬかもしれない。
そんな風に冒険者は葛藤する。
「お前食わないの?なら俺食ってもいい?」
「ば、ばか!コカトリスだぞ!」
「大丈夫大丈夫。俺ユニークスキルで毒耐性あるし、なんならギルドに解毒ポーションあるし」
飯の事となると周りが見えなくなる食いしん坊の冒険者である。
制止を聞かずにひょいと一つまみ。
「うっま!なんだこれ!」
ひょい、ひょい、と唐揚げの山がどんどんなくなっていく。
「お、おい?体はなんともないのか?」
「ああ。これ毒ないよ」
「ま、マジか!?俺もじゃあ1個」
「お、俺にもくれ」
冒険者はコカトリスの唐揚げを口に入れる。
「う、うますぎる!こんな料理食った事ない!」
「はっはっは!そんながっつかんでもまた魔物取ってくれば捌いてやるよ。ビールでも飲むか?」
「ビールあるんですか?」
「もちろんです。有料ですが」
「ビール一つ!」
「俺も!」
グラスが冷えている。
キンキンに冷えたビール。こんなに冷たいビールは王都にもないだろう。
一口飲んで目を見張る。
思わず一気に飲み干してしまう。
「ぷはぁー!なんだこれ!」
「ビールおかわり!」
「俺も!」
料理に夢中になる冒険者達を見て、ウランは密かに笑みを浮かべた。
(まずは3人)
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