第65話 腐食騎士の正体

「で、今日は何のよう?」


「まぁ用もあったんだけど、なんかセシリアの顔見たらちょっとホッとしたわ。それだけでも来てよかった」


「……!!」


セシリアは俺からプイッと顔を背ける。


「調子いい事言って!だったらもっと頻繁に会いに来なさいよ!もっと姉を敬いなさい!」


「姉って、セシリア俺より歳下だろ」


「家に入ったのは私の方が早かったんだから私が姉さんでいいの!」


「へいへい。会いに来なかったのは実はちょっと色々立て込んでて、俺鷹の爪クビになったんだわ」


俺がそういうとセシリアはめちゃくちゃ驚いている。


「えっ!?何それ!」


「実は……」


俺はセシリアに事のあらましを説明した。


「ふん。話は分かったわ。ちょっとあんたをクビにしたやつの名前教えなさい」


「おいおい!名前聞いてどうする気だよ!」


「何ってこういう時のために使うんでしょ!聖女の権力を!」


「恐い恐い!お前なら本当にやりかねない!」


マジで怒ってるようだ。目が据わっている。怒りを鎮めなきゃ。


「でも結果的にクビになって良かったんだよ!実はさ……」


俺は続けてクビになってからの事を話した。まぁ言いにくい部分はもちろん隠したけど。


セシリアは偽名を使ったり、偽名を間違えたり、所々ミスをした俺の話をおかしそうに聞いている。

『混沌を主る漆黒の翼†ジェイド』の名前を聞いた時には思わず吹き出して笑い転げた。


「ははは!あんたらしいわ。笑いすぎて涙出そう」


「そうかな?俺変なことしてるか?」


「毎回ここに忍び込んでくるだけであんたは十分異常よ。ほんとあんたといると退屈しないわ。で、今回私に会いにきた本当の要件っていうのは決勝の相手、腐食騎士の事よね」


「さすが、察しがいいな」


「腐食騎士、実は私が大聖女の仕事に就く前にここに来たことがあるらしいわよ。その時は腐食騎士なんて名前じゃなくて、戦い方も腐食の技は使わない。冒険者ランクもSSだったらしいけど」


「詳しく頼む」


「当時SSランクのその冒険者はSSSの魔物と戦って、何とか勝ったけど腐食の呪いをかけられたらしいの。体中が徐々に腐っていく恐ろしい呪い」


「え?それ死んじゃうんじゃないの?」


「それがユニークスキルが浄化だったらしいのよ。腐っても浄化のスキルがオートで発動して腐っては浄化、腐っては浄化を繰り返す。体にはとんでもない負担と激痛があるでしょうね。それが毎日。死ぬより辛いんじゃないかしら」


「じゃあ腐食は元々のユニークスキルじゃないって事か?あれ、でもここに来たって事はその呪いを解除しに来たんだろ?なんで今そのままなんだ?」


「……解けなかったのよ、呪い。当時の大聖女でも」


「大聖女のスキルでも、解けない呪い……」


「正確には解呪自体はできるの。でも体の48箇所に呪いの核があって、一個解呪しても他の核が残ってるとすぐに核を再生してしまうの」


「じゃ、じゃあ体全体に解呪をすれば!」


「無理ね。解呪した時にその場所にとんでもない激痛が走るらしいの。当時の大聖女が解呪した場所の肉が抉れて消失してしまったらしいわ。慌てて回復魔法かけてそれは何とかなったらしいけど。体全体に解呪なんてしたら全身跡形もなく無くなるでしょうね。その事もあって、腐食騎士は頑なに治療は行わない。私もちょっと気になって治療しないかって手紙を送った事あったんだけど見事に無視されたわ」


「……何とか解呪する方法はないのか?」


「核に本当にピンポイントで聖女の力ぶち込むしかないでしょうね。しかもそれも48箇所同時に」


「なるほど!お前ならできそうじゃん!」


「うーんどうだろ。治療を誘ったは誘ったけど、実際に見てみないと何とも言えないくらい凄い呪いなのよね。言ってなかったけど、呪いの核は体を自由に移動できるみたいなの。どの場所に核があるか分かってれば何とかなるかもしれないけれど、動き回る48の核に、それもピンポイントの最大出力解呪……たぶん成功しても私疲れて三日は寝込むわ」


とんでもない呪いだ!どうする?どうやったら助けられる?


「待ってくれ待ってくれ!今俺がいい方法考えるから!」


「……あんた腐食騎士に勝つ方法考えに来たんじゃないの?」


「……そういやそうだったな。あれ、何でだろう」


そんな俺を見てクスクスと笑うセシリア。


「本当に変わらないわね」


「そうかな?」


「そうよ、馬鹿がつくほどのお人よし。あんたはいつもそう。だから私がついてないと、いつも突っ走っちゃうのよね……」


そう言えばそうだったな。でも何か1人じゃ解決できないことがあっても、俺とセシリアの2人が力を合わせれば、いつもどんな問題だって解決できた。


……そうか!別にセシリア1人にやってもらわなくてもいいじゃないか!俺とセシリア2人の力を使えば!


「おいセシリア、この方法はどうだろ!」


俺は思いついたアイディアをセシリアに話す。話を聞いたセシリアは腕を組んで考え込む。


「理論上は……可能ね。私の力とあなたの力を合わせれば……」


「だろ!」


「でもそのアイディア、あんた私に何日徹夜させる気よ!しかも決勝までってもう3日しかないじゃない!」


「うっ!ちゃんと俺も決勝まで毎日付き合うからさ、甘いものも持ってくるし!」


「決勝まで……毎日……タクトが……?」


そう言うとセシリアはまたプイッと俺から顔を背ける。


「分かったわよ、やるわよ!でも私の治療すら断った腐食騎士が、素人のあんたの治療に素直に付き合ってくれるはずがないから、やるなら決勝戦の中で!普通に勝つよりも何百倍も難しいわよ!」


「当然、覚悟してる。俺も決勝まで寝ずにトレーニングするよ!」


「相手はSSSよ!本当にできんの?」


「やるよ、絶対」


「……ふん、言ったわね。私が力を貸すんだから……中途半端は許さないから!」

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