第66話 特訓

セシリア視点


「次、怪我人病人、呪われ人、誰でもいいしどんどん回して」


「大聖女様。そろそろ昼食のお時間ですが……」


「いらない。お腹空いてなし、今日は調子いいから」


そう言ってノルマを一気にこなす。少しでも夜に時間を残すために。

全く、タクトのやつ、無茶言ってくれちゃって。


私はその調子で夜まで仕事を続けてしまった。

そんな私を見て付き人は目を丸くしている。


「大聖女様、いつもは夕方になると夜までため息ばかりついておられるのに、今日は何だか……」


「えっ?そ、そうかしら」


「調子がいいと言うより何か……こんなに忙しいのに時々微笑まれたり、さっきは鼻歌を歌っていましたよ。調子ではなくむしろ機嫌がいいというか、何というか……その……」


「べ、別にいつも通りよ!さ、次で最後でしょ!いきましょ」


私そんなに態度に出てた!?

というか機嫌が良くなんかないし!どちらかというと面倒ごとに付き合わされて本当に最悪!


ホント、ダメな弟を持つとこれだから困るのよ!


休みなしで続けたせいもあって、今日は日が暮れる前に仕事が終わった。

食事とお風呂は今日は1人で済ませると言って、また侍女を下げさせた。


さぁ、部屋に籠って作業開始よ!


ずっと作業を続けていると、やはり12時にタクトが現れる。

入ってきたタクトの前に私は仁王立ちして言ってやる。


「私が見てない間も、ちゃんと練習してたんでしょうね」


「もちろん、この通り」


そう言って私に両手を見せるタクト。

その指には各指に1本ずつ、計10本の糸が結ばれている。


「よろしい。じゃあ練習の成果を見せてもらいましょうか」


部屋に入ったタクトは指に結んだ糸を自在に操つってみせる。

離れた場所からベッドにある私の枕を10本の糸で器用に縛り上げる。


「駄目ね、糸に魔力送ってるでしょ。魔力操作に頼りすぎ。もっと指の動きにも気を使って」


「え、そうかな。でもちゃんとできてるだろ。


「『10本』ならね。あと38本自在に動かさなきゃならない上に、眼にも魔力注いで核の位置を見極めなきゃならないのよ。そんなんじゃ戦闘中に集中力切らしちゃうから。魔力使わなくてもせめて10本くらいは糸を自由に扱えるようにならなきゃ」


「……確かにな」


「そんで、これ」


私は今日作った金色の針を一本タクトに投げ渡す。


「これ、もうできたのか!?」


「私を誰だと思ってるのよ。とりあえず試しに作ったから、それで良ければあと47本作るから」


魔眼を使い目を凝らすと、針に物凄い量の魔力が込められているのが分かる。


「凄いな、これ」


「その針一つでたぶん100人は解呪できる魔力と聖力を込めといたわ」


「いや、もうこれアーティファクトだろ!そこまではいらねぇよ!」


「人の命がかかってるんだから。それに腐食騎士の呪いは私も実際に目にしたことがない規格外の呪いよ。強い力を込めるに越したことはないわ」


「それもそうか。ありがとう、セシリア」


タクトは私から受け取った針を糸に結びつけて、再度糸を操って見せる。

しかし先ほどとは勝手が違うようでうまく動かせていない。


「先におもりがつくだけで結構操作感変わるな」


「できれば軽い方がいいと思ったんだけど、魔力を込めるとなるとそれなりの純度の物質で作らないとまずいからね。普通の針よりは重いわ」


「まぁそうだよな。じゃあとりあえず試しで。言われた通りアリサに頼んで悪霊を瓶に集めてもらってるから」


タクトは悪霊が閉じ込められた瓶の蓋を開ける。

すると魔力感知を使っていないとどこにいるか分からないほどの力の弱い低級の悪霊が1匹飛び出してくる。


霊は素早く部屋の中を飛び回る。


タクトは糸を操り霊にブスリと命中させる。

針が刺さった霊はあっけなく浄化され、跡形もなく消え去る。


「……駄目ね。霊の中心から3ミリもズレてる」


「だーかーら!針あると難しいの!それにまだ1日目だろ。今から練習してもっとうまくなるよ」


「はいはい。じゃあその針と糸で私が使うハンカチでも塗ってなさい。もちろん手は触れちゃダメよ、魔力操作も使わずに!」


「う、嘘だろ?いきなり難易度高くねぇか?」


「朝までに7枚ね。一週間分」


「鬼かよ、お前」


「あら、大聖女を捕まえて鬼とは何?」


私はニコニコ笑ってタクトに言う。


「大聖女ね。そう言えばそうだった忘れてた」


「大聖女を敬う気持ちが足りないわね」


「ちゃんと尊敬してるよ……お前のことは、誰よりも。でも大聖女だからって訳じゃなくて。セシリアは何やったってセシリアだから……俺にとっては」


そう言われて嬉しい気持ちと同時に、グサリと胸をえぐられるような思いがした。

大聖女なんて言っても、所詮は貴族、王族、金持ちのおもちゃ。本当に私は人々に誇れる仕事をしているのだろうか……。


「……無駄話はこれくらいにして、さぁ早く始めるわよ」


「おうよ!」

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