第63話 決勝の相手がヤバいやつってマジですか?

祝賀会は始終騒がしかった。

引っ切り無しに酒を注ぎに来るファン達に、後半の方はうんざりしたが全員心の底からジェイドの事を応援してくれる人達なので文句は言えない。

こんなに人から素直な好意を向けられるというのは今までなかったので、うんざりはしているものの心地良さは感じている。


「ジェイドに1杯奢らせろ」


「私、ジェイドのためにシャンパン入れるわ!」


「ジェイドさん、ワイン好きですか?いいワイン入れますから!」


ファン達が湯水の様に金を使っていく。ちょっと恐い。

ウランちゃんはその様子を見てクイッと眼鏡を治しニヤリとしている。

あれはウラン部長が仕事が上手くいっている時にやる癖だ!

ここでファン達がジェイドのためにお金を使うのも作戦だったのだろう。

本当に頭のいい人だ。


とはいえ注がれる酒を処理するのも大変だ。酒は弱い方ではないが限度がある。

流石にウランちゃんが気をつかってくれたのだろう、


「ジェイド選手はここで一旦退席します」


と言ってくれた。


休憩しようかとも思ったが、せっかくなのでゴチンコのギルドの皆んなとも飲みたい。

俺はタクトの姿に戻り、祝賀会を楽しむ事にした。


いくつかのテーブルを周り、ギルドの人たちとは一通り話をしたのだが、大事な人に会えていない。

ゴチンコのおっさんとローラさんだ。

俺はキョロキョロとあたりを見渡す。


「お兄ちゃん、何探してるの?」


そう言ってアリサが俺の腕に抱きついてくる。

気のせいか腕にこれでもかというくらい胸を押し付けてきている。

……お、お兄ちゃんは妹に欲情したりはしないから大丈夫だけどね!

本当に無邪気で可愛い妹よ。


「いや、ゴチンコのおっさんとローラさんを探してて」


「2人ならどこにいるか知ってるよ。案内してあげる」


そう言ってアリサは俺を酒場のすみっこの方に案内した。

明るい酒場の中でこんな所があったのかと思うような暗い場所。


そんな場所でゴチンコのおっさんとローラさんが何やら真剣な面持ちで話している。

よく見るとテーブルに置いているのも酒ではなくただの水だ。


俺は不穏な空気を感じつつもゴチンコのおっさんに話しかけた。


「どうしたんですか?ゴチンコさん、らしくない。大好きなお酒もいっぱいありますよ?飲まないんですか?」


俺がそう話しかけるとおっさんは頭をボリボリかきながら言う。


「実は、ちょっと今後の事でローラと話し合いをしていてな……」


ローラさんは無理やり明るくと言った感じで、


「タクトさんは遠慮なくどんどん飲んでくださいね。タクトさんの祝賀会なんですから!」


気になる。ローラさんって嘘とか隠し事下手そうだよな。


「いやいやいや。気になりますって。教えてください」


2人は躊躇している感じだったが、ゴチンコのおっさんは観念したという感じで続けた。


「まぁいずれ言わなきゃならんしな。話していたのはタクト、お前の決勝戦の事だ」


「決勝戦?決勝戦がどうかしたんですか?」


「実は、お前と戦う相手が問題でな……」


「決勝戦の相手?調べといてくれたんですか?」


「ああ、腐食騎士。SSSランクの冒険者だ」


「SSS。やっぱり決勝はSSSランクでしたね。そりゃあ簡単な戦いではないでしょうが覚悟してた事ですよ」


「……タクト、腐食騎士はちょっと相手が悪いかもしれない。この盛り上がっている中で棄権って言うのはちょっと難しいかもしれないが、できれば戦わないでほしいんだ」


「今更何言ってるんですか!?これまでせっかくいい感じに勝ってきてるんですから、棄権なんてしたら今までの努力が水の泡じゃないですか」


俺がそう言うと、おっさんは真剣に言い返す。


「……水の泡でもいい!俺はお前の体が心配なんだ!!腐食騎士と戦った相手、体の一部が回復魔法でも治らないくらいに腐食してしまったらしい。今大聖女の所に治療に行っているらしいが、それでも治るかどうか……」


回復魔法が効かない腐食?それはちょっとまずいかもしれない。一撃でも喰らったら確かに勝てないかもしれない……。


「どうしても戦うなら、それ相応の対策を練っていかなきゃまずい。幸い腐食騎士の情報は出回っている」


「腐食騎士はSSSでも5本の指に入る実力です。だから噂もたくさん出ていて、ユニークスキルの名前は不明ですが、腐食騎士は触った者を腐らせる能力を持っています。詠唱を行なっている感じもしませんので、それがユニークスキルなんじゃないかと言われています」


ローラさんの話を聞く限り当たらなければどうということはないが、相手はSSSランクだ。

高速で移動したり、もしくは腐食を武器に纏わせたりトリッキーな攻撃を仕掛けてくる可能性もある。

対策としては、万が一攻撃を喰らった場合の回復方法を用意しておきたい所だ。


俺が今聞いた情報を元に思案していると、アリサが声をかけてきた。


「お兄ちゃん、セシリア姉さんのとこに行ってみたら?」


「ああ、俺もそう思ってた。でもなー、あいつ俺が頼み事なんかしたら絶対に調子に乗るからな」


「私から事前に連絡しておく?セシリア姉さんにはたまに会ってるし」


「アリサってセシリアと仲良かったのか?」


「お兄ちゃんに近づく女は基本的に嫌いだけど、お姉ちゃんは好きだよ♪」


そう無邪気な笑顔で言い放つアリサ?あれ?アリサってこんな事言う子だったっけ?


「だ、駄目だぞ、アリサ。皆んなと仲良くしなきゃ」


「してるよ、表面的には♪」


そう言ってやはりニコニコ笑う。

なんか最近のアリサピリピリしてるぞ!前はこんな子じゃなかったのに!


「セシリアにはいつもの方法で今夜にでも会いにいくよ」


「じゃあ私は夜までに腐食騎士の情報をもっと集めておくね」


「ありがとう、アリサ」


そう言うとアリサは目をつぶって頭を俺に向けて突き出した。

よしよし、撫でてやる。アリサはいくつになっても甘えん坊だ。


「えへへ♪」


心底嬉しそうに笑うアリサ。

やっぱり天使だわ、俺の妹。

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