第62話 ショートストーリー 祝賀会のそれぞれ②
祝賀会(アリスとウランの場合)
祝賀会も中盤である。
今はジェイドと自由に飲める時間ということになっている。
真ん中のテーブルに座っているジェイドを取り囲むようにしてファンが集まっている。
祝賀会が始まってからずっと興奮しっぱなしのファン達だが、一番ジェイドと交流を深めたいはずのアリスは始終1人テーブルに座っている。
誰とも話さず、赤ワインをゆっくりと飲んでいた。
それを見たウランがため息をつき、アリスに近寄っていく。
「行かなくていいんですか?」
アリスはウランに目も向けず、自分のグラスのワインをじっと見つめている。
「あんなファン達と一緒にしないでほしいわ。私のジェイド様への気持ちはファンなんて言葉では表せない。それを超越したもの」
ウランは思った。本当に本当に面倒臭い性格をしている、この人。
「本当は行きたいし話したいけど行けないのではないですか?」
そう言って向かいに座ったウランを初めてちゃんと見たアリス。
「……ええ、そうよ。本当は話したい、触れたい、重なりたい。でもジェイド様は……私みたいな性格のひねくれた女は嫌いでしょう。かといって私は自分を変えられない、変える気もない。だから……見ているだけで十分、そしてもう少し贅沢を言うならジェイド様のいく道のお手伝いができれば、私はそれで幸せ」
「本当にそう思っていそうなのが本当にあなたの面倒臭い所です」
「初対面で随分失礼な方ね、あなた」
「これは失礼しました。私はゴチンコのギルドで働いているウランというものです。アリスさんにはうちの受付のローラが随分お世話になったみたいで、いつかお礼をと思っていたんですよ」
「少なくとも、最初の方はお礼を言う態度ではなかったわね」
「すみません。面倒臭いが上回ってしまいました」
「はぁー、話はそれだけ?それならどこかに行ってちょうだい。私は1人で飲みたい気分なの」
「……嫌です。たぶん私はアリスさんの気持ちよく分かるんで」
「私の気持ちが?随分と烏滸がましい事を言うのね」
「私、実はある境遇のせいで、大人になるまで好きな人がいませんでした。そんなある日突然、私に本当に好きな人ができたんです。でもその人は仕事場の部下、好きになってはいけない。なのに好きで好きでどうしようもない。気持ちを伝えたくてもできない。それが苦しくて。それに仮に気持ちを伝えたとして、今の関係が崩れてしまうんじゃないかって、恐くて、恐くて」
「……」
「なんかその頃の私を見ているみたいでアリスさんは放っておけません」
「勝手な人ね……」
「それだけじゃないです。たぶん私、面倒臭い性格含め、あなたの事結構好きなんだと思います」
「私は嫌いよ、あなたの事」
そう言って相変わらずワインの入ったグラスを眺めているアリス。
ウランは自分の飲んでいるシャンパンのグラスをアリスのグラスにチンとぶつけた。
「乾杯」
アリスは一瞬キョトンとした顔をするが次の瞬間おかしくなって笑いだした。
「ふふふ、本当にこのギルドは受付嬢といいあなたといい、おかしな人ばかりね」
「実はそのおかしなギルドでは今人を募集していましてね、アリスさんうちと専属契約を結びませんか?」
「残念、私逃げ場は残しておきたい方なの。専属契約はどことも結ぶつもりはないわ」
「そうですね。私達、『鷹の爪』を壊滅させようと密かに企んでいますもんね。そんなギルドで専属を結ぶのは危険ですもんね」
ボソリとそう言ったウランをアリスは怪訝な顔で見つめる。
「『鷹の爪』を?確かにこのギルドは今伸びているけれども、鷹の爪にはまだSSSランクが何人もいる。こんなギルド鷹の爪が本気を出せば簡単に消え去るわよ。あなた本気で言ってるの?」
「本気ですよ」
ウランのその顔は真剣そのものである。
「……ふふふ。面白い、よく考えたら私はアリス。逃げるなんて真似はしないんでしたわ。その専属契約の話、詳しく話しなさい♡」
「はい、でも契約をするにあたり、ジェイドの正体をアリスさんにも教えておかなくてはなりませんね」
「ジェイド様の正体?」
「はい、ジェイドっていうのは偽名で、本当の名前は……」
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