第61話 ショートストーリー 祝賀会のそれぞれ①
祝賀会前(アリスの場合)
祝賀会のチケットを渡すためにアリスを探しにいく俺。
とはいえ最近はもっぱらゴチンコのギルドで何かしているアリス。
ギルドの中を覗くと、アリスは相変わらずギルドのテーブルの一つでくつろいでいた。
自分の武器の手入れをしている。
ジェイドの格好でギルドに入れば流石に騒ぎになるので、俺はそのまま祝賀会のチケットを持ってアリスに近づいた。
俺がすぐ側まで来ると顔はこっちに向けず、武器の手入れを続けたままアリスが俺に言った。
「何か私に用があって?」
「えーっと、今日ジェイドさんの準決勝の祝賀会があって……」
「知っているわ。かと言ってあの煩わしいジェイド様のにわかファン達と同じ様にファンクラブの列に並ぶのも忌々しい。まぁ無理矢理にでも参加しますわ。それで、祝賀会がどうかしたの?」
「あのージェイドさんが是非アリスさんにも祝賀会に参加してほしいって、これチケットです」
俺がそう言うとアリスは初めてこちらに顔を向けた。
「ジェ、ジェイド様が私に!?それは本当?」
「はい、どうぞこれ」
アリスは俺からチケットを受け取ると幸せそうに微笑みぎゅっとチケットを抱きしめた。
「あなたは……ジェイド様の付き人か何かかしら?わざわざ届けてくれてありがとう」
「じゃあ俺はこれで」
「ちょっと待って。ジェイド様の付き人ならまた会うこともあるでしょうね。私はアリス。あなたの名前は?」
「タクトです」
「タクト……覚えたわ」
「ではこれで」
祝賀会前(エマとゴロタの場合)
「あーあ。ゴロタ、今日ジェイドの祝賀会があるんだって」
「行きたかったのか?」
「ちょっとね。でも準決勝で戦ったの私だし、出るのはおかしいよ。それになんかジェイドのファンクラブに入ってないと祝賀会には出られないんだって」
そう納得しているような事を言いながらもつまらなそうにしているエマにゴロタが慰めるように言った。
「まぁ決勝戦の後も祝賀会みたいなものはきっとやるだろうし、そっちになんとか参加すればいい。それよりも俺が言った服買ってきたか?」
「か、買ってきたけど……これ貴族のお嬢様とかが着るような服だよね。こんなの私が着たって……」
エマは普段から真っ黒なワンピースしか着ない。可愛らしい衣装を眺め、エマはため息をついた。
「よし、次は髪を切りに行って……」
「ほ、本当に切らなきゃだめ?」
「駄目だ」
「う、う、う。ゴロタ厳しい」
「これもエマのためだ」
祝賀会開始(ユキちゃんとアリサの場合)
「『混沌を主る漆黒の翼†ジェイド』選手の準決勝突破、決勝進出を祝いましての祝賀会をこれより始めさせていただきます。早速登場してもらいましょう。ジェイド選手です」
ジェイドが酒場に登場すると、もの凄い歓声が巻き起こる。
「ジェイドが来たぞ!」
「ジェイドに俺から一杯!」
「いや、俺に奢らせろ!」
「ジェイド様!」
「結婚してー!」
「ジェイドーサインちょうだい!」
皆んなお祭り騒ぎで酒を飲み出す。
そんな様子を見て、ユキは憂鬱な顔をしていた。
「すごい人気だなぁタクトさん。可愛い子も結構いるし……やばいなぁ」
「何がやばいんですか?」
ユキの後ろから、アリサがヒュッと顔を出す。
「ひっ!アリサちゃん!なんでアリサちゃんはいつも私の所に突然現れるのよ!」
「別に普通に来てますけど、いつもユキさんがぼーっとしてるだけだと思いますよ。それより、何がやばいんですか?」
タクトを狙ってることがアリサにバレると色々まずい気がしているユキである。
「い、いえ、なんでもありませんよ」
「……大方兄様との関係を深めたいけどライバルが多くてどうしようなんて思ってたんでしょ、分かりますよ」
ユキは焦りと恥ずかしさで顔を真っ赤にする。
「な、なんで分かるの!?」
「分かりますよ。兄様にたかる女の存在は私の本能が感知します。心配しなくてもユキさんはとっくに出遅れて、兄様はもう何人かとお付き合いしてますよ」
そう平然と言い放つアリサ。
「え、嘘でしょ?」
「まぁ直接聞いたわけではありませんが、たぶん4人か5人?いい感じの女性がいますね」
ユキは思った。
なんかアリサちゃんが言うと説得力があるわ。
しかし付き合っている女性が複数いるというのに、アリサは随分落ち着いている。
「変なこと聞くけど、アリサちゃんはタクトさんが誰かとお付き合いしててもいいの?」
「面白くはありませんが、兄様が選んだ方であれば一応認めはします。あ、ユキさんあなたは駄目ですよ、勝手に兄様にちょっかいかけては」
「な、なんで私だけ!」
「ユキさんとはなんというか本音で話せるというか、私学校でも優秀過ぎるせいでちょっと浮いてて友達も少ないんです、だからあんまり親しく話せる人いないんですよ。ユキさんはある意味貴重な存在です」
ちょっとだけ嬉しいユキである。
「そ、それが私だけタクトさんに近づいちゃいけないのと何の関係が!」
「なんだか親し過ぎて気持ち悪いです。友達が自分の兄と付き合うってなった時の気持ち想像してみて下さいよ」
「まぁ、言われてみれば……でも……アリサちゃんに何いわれても私、タクトさんの事が好きですから」
アリサはふーとため息をつき、持っていたグラスワインをコクリと一口飲んだ。
「……勝手にどうぞ」
「……でもてっきりアリサちゃんの事だから、タクトさんと関係を持った女を特定して酷い目に遭わせるかと思ったけどそうじゃないんだね」
「ユキさんは私の事なんだと思ってるんですか、それにいくら兄様が彼女や婚約者を作ろうとそれ以上の立場を私は持っていますから」
「それ以上?」
「鈍い人ですね。兄様の妹は世界中どこを探しても私1人です。兄様にとってのオンリーワン。私はそれだけで、世界一幸せです」
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