第60話 実はアリスファンは民度はかなり高いってマジですか?

「はい皆さんちゃんと並んで下さい。ジェイドファンクラブ『漆黒の翼』の入会窓口はこちらですよ」


そう言って誘導を行うウランちゃん。

ゴチンコのギルドの隣に建てられた仮設の建物に長蛇の列ができている。


「これがウランちゃんの言っていた作戦?」


「ええ、そうです。ファンクラブの規約や規則については、アリスファンクラブの会長からお話を聞き、ほぼそれを模倣しましたから大して手はかかりませんでした」


いつの間に雇ったのか、かなりの人数のスタッフがいるぞ。

だいぶお金かかってるんじゃないかな?


「でも本当にこんなことでファンの行動が落ち着くのかな?」


「明確なルールがあればこちらが取り締まらなくてもファン同士が取り締まってくれて、自然と規律が保たれるものです。そしてルールを破ったものには罰則、守るものにはご褒美を」


「ご褒美って具体的には?」


「今回ですと、今夜行うジェイド選手準決勝突破の祝賀会。その参加チケットを買える権利が抽選で当たります」


「祝賀会?いつの間にそんなものが!」


「実は私貯金の方がすこーしありまして、ゴチンコのギルドの冒険者がお酒を飲める酒場を作ろうと思って一つ買い取りまして、その酒場のリニューアルオープンを兼ねて、今夜祝賀会を開きます」


さらっとすごい事言ったよ!

王都の酒場一つポンと買い取るとか、どんだけお金かかったのか。

俺がお金の事に驚いているのに気がついたのか、ウランちゃんはさらに続ける。


「ギルドの方も手狭なので増築と、新たな支部の建設も進んでいます」


「ゴチンコのギルドの支部?どこに建ててるの?」


「鷹の爪49支部のすぐ近くですね」


俺は飲んでいたお茶を吹き出しそうになる。


「49支部!?」


「ええ、そうです。調査の結果、鷹の爪49支部は今殆ど機能していないようなので潰すなら今でしょう」


「潰す!?どうやって?」


「間も無く建物の一部が完成しますので、私が行って指揮をとります。49支部にいる冒険者は1人残らずゴチンコのギルド第一支部のお客様になっていただく予定です」


普通なら無茶だと思える話だが、ウランちゃんなら実現させかねない。


「でも本当にかなりお金かかってるよね?大丈夫なの?」


「たぶんこのファンクラブ事業で、建設費を払ってもお釣りがきますね。さらにアリスファンクラブの運営もこちらでまとめる話になっているので黒字も黒字です。それよりも優秀な従業員の確保が当面の問題ですね」


優秀な人だとは思っていたけれど、まさかここまでとは……。


「俺も何か手伝おうか?」


「そうですね、タクトさんは今日の祝賀会に個人的に出てほしい人にこのチケットを渡してきて下さい」


そう言って数枚のチケットを渡される。


「じゃあローラさんとか、ゴチンコのギルドの人に……」


「いえ、皆さんにはすでに私から渡していますので、それ以外の方に渡して下さい」


「えっ?でもな、王都の知り合いでジェイドと関わりあるっていうと……うーん」


「……アリスさん。彼女にはだいぶお世話になっていますよね」


「た、確かにそうなんだけど。なんかアリスはジェイドが倒しちゃったせいで色々と迷惑かけてる感じがして……実は嫌われてるんじゃないかとか思ってて……」


ウランちゃんは「はぁー」とため息をつく。


「アリスさんも面倒臭い性格ですし、タクトさんもこれですから。私がアシストしないと駄目そうですね」


「え、何?どういうこと?」


「いいですかタクトさん。お世話になった人にお礼をするのは社会人の基本です。鷹の爪時代、私はタクトさんをそんな薄情な男に教育した覚えはありませんよ」


そう言ったウランちゃんは女の姿ではあるが、間違いなく俺の尊敬する上司であるウラン部長そのものだ。


「確かに……俺ちょっと行ってきます」


俺はアリスをチケットを渡すためその場を離れる。


「祝賀会は6時からですので遅れないように!」


こうして、ゴチンコのギルドはウランちゃんのおかげで着々と勢力を伸ばす一方で、鷹の爪の崩壊がまた一歩進んでいくのであった。


余談ではあるが、どこのギルドにも所属しないフリーの冒険者であったSSランクのエマからゴチンコのギルドに一枚の手紙が届いたのもこの日であったらしい。

手紙にはゴチンコのギルドに入りたいとの丁寧な言葉が美しい字でしたためられていた。

エマはこの日からゴチンコのギルドに所属する冒険者になった。

Sランク冒険者のアリスとSSランク冒険者のエマ、そして御前試合決勝戦出場のジェイド。

いまだ鷹の爪が国一番のギルドである事に違いはないのであるが、ゴチンコのギルドの勢力はすでにもうすぐそこまで迫ってきている。

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