第53話 決着

ゴロタは猛スピードで斬りかかってくる。あれだけの巨体にもかかわらず、俺の強化したスピードと遜色ない。


「これは!ジェイド選手避けられないか!?」


ハルバードの一撃は、今までで一番速い。

俺はゴロタの動きを見定め、ギリギリまで動かない。


「ドーーーン!!!!!!」という物凄い地鳴りと衝撃波、土煙。


それを見てエマは悲しそうに勝利を確信した。


「……この一撃じゃぷにちゃんも……無事じゃ無いよね……」


エマはふぅとため息をつき、観客席のローラさんはがっくりと膝を落とした。


「タクトさん……そんな……」


しかしゴロタだけが、厳しい表情のまま、土煙の先を見つめていた。


視界が晴れる。するとそこには傷一つなく静かに立つ、俺の姿。

もちろん避けてますよ!


「う、嘘!?避けられるはずないのに。ゴ、ゴロタ!」


エマの声に従い、もう一度ゴロタは俺を切りつける。


しかし攻撃は空を切る。今までが嘘のように俺は軽々と攻撃をかわす。


「ど、どうして?ゴロタと私の攻撃は完璧なはずなのに……」


「……そちらが高速で動くなら、こっちはもっと速く動けばいい。ただそれだけの事」


「そんな事、できるはずがない!今までの動きでさえ、貴方の動きは人間の域を超えていたのに!魔力で強化できる限界なんてとっくに過ぎてる!それ以上の動きなんて……」


「確かに筋肉の強化だけでは限界がある。だが筋繊維以外にも強化できる部分は残っている」


「どういう事?」


「神経強化……」


人間の動きは脳からの電気信号が神経を伝わる事によって行われる。

神経系を魔力で強化し、反応スピードを速めたのである。


「ば、馬鹿でしょ!神経を操作する程の繊細な魔力コントロールなんて、不可能に決まってる!」


「神経系だけじゃないぞ」


俺は高速で移動し、ゴロタの背後を取った。

そのままゴロタの背中に渾身の蹴りをお見舞いする。


「グワァウォォォォォ!」


ゴロタは思わず痛みに悲鳴をあげる。


「蹴り一つでも威力は段違いだ」


「嘘でしょ、ゴロタ!?まだ戦えるよね?」



ゴロタはこの世のものとは思えない凄まじい怒りの咆哮を空に向かい叫び、エマの声に応えた。

空気がビリビリと震える。

ゴブリンキングの雄叫び。ゴロタのステータスがまた1段上がった。


「み、見なさい!ゴロタはまだまだ余裕!貴方、一体どんな手を使ってゴロタを蹴飛ばしたの!?」


「脳を操作して無理やりアドレナリンを分泌させた。今の俺は脳内麻薬で身体能力を120パーセント使い切る事が出来る……」


脳の操作に神経操作。エマも高ランク冒険者なので、体内の魔力を操作した事があったのだろう、それが意外と難しい事であるのはちゃんと理解したみたいだ。

うん、習得に1年くらいかかったもん。


「で、デタラメ!そんなのできる人間、この国のどこにもいない!」


「デタラメでもなんでも、次の一撃で終わる」


俺はそう言ってもう一度刀を構えた。凄まじい量の魔力を注ぎ込む。

刃先が短い忍者刀が目に見えぬ魔力の刀身で大太刀(オオタチ)程の長さになる。

例え忍者刀の刃がその心臓に届かなくても、その魔力の刃が必ずゴロタの息の根を止めにいく。

エマはゴクリと唾を飲む。


そんなエマをゴロタが見つめる。

自信に満ち溢れた瞳だ。言葉こそ話せないが、エマとゴロタは意識を通い合わせていた。


「そうよね、ゴロタ。私達が負けるはずがないよね、やろう!私も全力出す!」


エマがそう言うと、ゴロタはガードの姿勢を取った。


「魔装三式、金城鉄壁(キンジョウテッペキ)」


大量の魔力がゴロタを覆う。

どうやらゴロタとエマは俺の一撃を耐える作戦に出たらしい。


「私とゴロタは貴方の攻撃を防ぎきる。貴方の脳内麻薬だって体に負担がかかるでしょ。使っていられる時間にも限界がある。その攻撃、防げば私達の勝ちよ!」


「うん、大体合ってる。じゃあこの1撃で決まるって事で……」


ゴロタの眼光が鋭く光った、と同時に俺は動き出す。

瞬きする暇もなく、その切っ先とゴロタを覆う魔力がぶつかり、激しい音と光が起きた。


勝負は一瞬だった。


おそらく戦っていた俺達以外には、何が起きたかも分からなかっただろう。


いつの間にか決着は着き、俺とゴロタは互いに背を向けあっていた。


先に動いたのはゴロタの方であった。


ゴロタは俺の方にくるりと向き直り、ニヤリと笑ったかと思うと、体から血を吹きあげ、その場にズシャンと崩れ落ちた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る