第54話 昨日の敵は今日の友ってマジですか?

「登録された魔物戦闘不能!勝者……『混沌を主る漆黒の翼†ジェイド』!!」


何とか勝利した俺。


魔眼を使わなかったとは言え、強敵だったのは間違いない。


「ウォー!!!!」


「今までで一番すげぇ戦いだぜ!」


「ジェイド様ー!結婚してー!」


「俺男だけどジェイド!お前ならいいや!抱いて!」


「ジェイド!ジェイド!ジェイド!ジェイド!ジェイド!」


観客は今までにないほど盛り上がっている。


「凄い試合でしたね、電電さん!」


「はい!歴史に残る名勝負と言っても良いのではないですかね」


「しかし大丈夫ですかね、エマ選手が召喚したゴブリンキングの方は」


「医療班が最善を尽くしますが、あの傷はちょっと厳しいかもしれません、もしかすると……」


エマは大粒の涙を流しゴロタに駆け寄る。


「ゴロタ、ゴロタ!イヤ!死んじゃイヤだ!」


エマは必死で自分の魔力を送り傷口を塞ごうとするが、魔力を殆ど使い切っているのに加え、傷の手当てという繊細なコントロールが必要な複雑な作業。

それではゴロタの命はまず助からない事は明白だった。


大会の医療班もあくまで人間の治療に特化したメンバーである。

その上ゴブリンキングは魔法の通りが悪い、実は回復魔法の通りも悪いのだ。

医療班の治療もあてにはできない。


ゴロタは大きな手で器用に彼女の涙を救いニヤリと笑ってみせる。

その仕草から、エマとゴロタは使役するものとされる者の関係以前に、強い信頼と友情で結ばれている事が見て取れた。


そんな姿を見て、俺は黙って2人に近寄る。

この魔法は割と体に負担がかかるんだけど……


「癒しを主る大精霊、我に力をかしたまえ。大回復!」


魔力を使い果たしていたのでキツかったが、俺はありったけの魔力を使いゴロタを回復する。

大精霊を使役した回復なら通常の呪文よりも効くのではないかと思ったが、案の定ゴロタの傷口はみるみる塞がっていく。


それを見てエマが必死にゴロタに呼びかける


「ゴ、ゴロタ!ゴロタ!傷塞がったよ!大丈夫?」


ゴロタはニコリと笑ったが、体力の限界が来ているのだろう。とても眠そうにしている。


「たぶん傷はもう大丈夫。魔力と体力を使い果たして寝ているだけだ。少し休ませれば問題ない」


俺も力の限界で割とフラフラだ。

エマはそんな俺をジッと見つめる。


「ジェイド……どうして……」


「……ぷにちゃんと君の友達のスライムとのお茶会、そこにはゴロタも来てもらわなけりゃならないからな。な、ぷにちゃん」


「ぷっぷぷー!」


「えっ?」


「ゴブリンキングの友達ができるのは初めてだ。いい勝負だったな、ゴロタ」


俺がそういうとゴロタは親指を上げてグッドサインを作った。

あれ、もしかして俺もゴブリンキングと会話できるようになった?


そんな俺たちを見ていた観客は、拍手と歓声をもう一度浴びせる。


「エマ!お前もスゲェーぞ!」


「ゴロタ!かっこいい!!」


「最高の試合だった!ありがとう2人とも!」


拍手はいつまでも止みそうにない。


「はは、参ったな。結構疲れてるんだけどな」


俺が困りながら観客に手を振っていると、エマがすくっと立ち上がり、俺に向かって何か言った。


「ありがとうジェイド……この恩返しは絶対に……」


何か大事な事を言おうとしていたのは分かったのだが、本当の本当に体力の限界であった。


「わ、悪いエマ……ちょっとさっきの大回復で……げんか……」


あ、これ久々の電池切れだ。

視界がぐにゃりと揺れる。

俺の電池切れと同時に、ゴロタの方も眠気の限界が来たみたいだ。


俺とゴロタは闘技場の真ん中で2人、大の字になって眠ってしまう。


闘技場に、大きないびきが二つこだました。

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