第52話 白熱
「ゴロタ。ジェイドは動きも速いし、たぶん魔力で防御も固めてる。だからあれいこう」
本来人間と魔物の会話というのは不可能だ。
ドラゴンレベルの知力の高い魔物なら独自の言語を使いなんとか会話もできるが、ゴブリンキングと会話が成立したという話は今まで聞いたことがない。
しかし、エマがゴブリンキングにそういうと、本当に言葉が通じているかのようにゴロタはスタンバイする。
エマが小声で詠唱を始めると、今度は空に召喚陣が浮かんだ。
そこから召喚されたのは魔物ではなく、巨大なハルバード(斧みたいな武器)。
「魔物だけじゃなくそんなもんも召喚できるのかよ!でもそれじゃあ動きが遅くなって尚更当たらないぞ」
「それはどうだろ?」
エマがそう言うと、ゴロタはハルバードを何の迷いもなく俺に振り下ろした。
速い!?さっきより数段。
「あぶねぇー」
「よく避けたね。油断してたのに」
「そのハルバートに魔力を感じたからな。魔装武具だったか」
魔装武具。魔力で使う者に様々な能力アップを与える激レア武具。
ゴロタの身体能力が飛躍的にアップしている。
「いつまで避けられる?」
連続攻撃を仕掛けてくるゴロタ。
確かにこの間に反撃はちとキツい。
「確かに避け続けるのはきついが距離をこうやってとれば……」
俺はナイフを投げて反撃に転じる。
しかしゴブリンキングの肌にナイフ如きではダメージは通らなかった。
「ナイフがダメなら、避けるんじゃなくて……」
最近ファイトマネーで買った腰に刺していた忍者刀を取り出す。
安物の鈍(ナマクラ)ではあるが、刀に魔力を込めてしまえば名刀並みの切れ味だ。
もちろん身体強化も忘れずに。
「これで……真っ向勝負!」
ゴロタは一直線に向かっていく俺に、殺意を持ってハルバードを渾身の力で振り下ろした。
俺の刀とハルバードがぶつかり火花が散る。
「バチバチバチバチバチバチ」
ゴロタは激しい光と音を見つめ目を爛々と輝かせた。
「ウォォォォォォォン!」
ゴロタの雄叫びと共に、俺は弾き飛ばされる。
これでもゴロタには届かないか。
「す、すごっ……ちょ、ちょっと戦いが超次元すぎて解説を忘れて固まってしまいました。Aランクの私にはもう、ただ凄いとしか……力と力のぶつかり合いです!」
俺の一撃を防いだゴロタは、久々の強敵を前にしたという感じで舌舐めずりしてみせる。
俺は一旦構えを解きふっと笑ってみせる。
「刀の一撃は防がれたが、あれを必死で防いでいた所を見ると、ゴブリンキングの硬い皮膚とその鎧があっても当たればそちらもただでは済まないと見える」
俺の見立ては当たっているはず。
「あ、当たらないよ!うちのゴロタはつよいもん」
エマは吃(ドモ)りながらも噛み付いてみせる。
「それはどうかな?それに当たらないと言うならそちらの攻撃も到底こちらには当たらない。俺の方が数段速い」
試合が長引けば俺に優位な展開になるのは間違いない。
エマはムッとくちをヒン曲げた。
「ご、ゴロタは、強いんだから!」
エマがそう叫ぶとゴロタは俺目掛けて向かっていく。
どんな攻撃が来ても避けられる自信があった。
しかし……
「魔装一式(マソウイッシキ)、疾風迅雷(シップウジンライ)……」
エマがそう呟くと、ゴロタのスピードが上昇した。
「なにっ!?」
振り下ろしたハルバードを間一髪横っ飛びで避ける。
「(急にスピードが上がった?さっきまでとは段違いだ。しかし、まだ避けられる……)」
ゴロタは間髪入れずに攻め立てる。
「魔装二式、勇猛無比(ユウモウムヒ)……」
ダァーンダァーンとゴロタがハルバードを打ち付ける度に地鳴りが起こり、土煙が上がった。
「(パワーまであがっている。どういう理屈だ)」
スピードが上がったとはいえ、まだ避けられる。その油断が判断を一瞬遅れさせた。
エマがグッと拳を握り締めたかと思うと、ゴロタの連続攻撃のスピードがさらにもう一段上がったのだ。
「何っ!?」
爆発音と共に俺は吹き飛ばされた。
攻撃は当たりこそしなかったが、動きが遅れたために、ゴロタの攻撃は足元わずか数センチ先に叩きつけられた。
その凄まじい衝撃により、俺は地面と共に吹き飛ばされたのである。
「くっ!大丈夫か、ぷにちゃん」
「ぷーぷー!」
特訓の成果もあって、何があってもぷにちゃんが俺から吹き飛んでいくことはない。そこは良かった。
「どう、これがゴロタと私の本当の力」
「どういうカラクリか教えていただけると、観客も俺も盛り上がれるかもしれないぞ」
「ふふふ、私の魔力をゴロタに送ったの。速度強化の疾風迅雷(シップウジンライ)、筋力強化の勇猛無比(ユウモウムヒ)。私とゴロタは……まだまだ強くなれる!」
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