第41話 鷹の爪の崩壊その3
ウラン視点
静かな夜。
全てを覆い隠してくれそうな真っ暗な闇。
「いいですか、リナさん、あそこに警備員がいますね。まぁ表をうろうろしているのは冒険者ランクで例えるならCランク程度の実力位なのでそこまで苦労することはないと思いますが、まずは見て覚えてくださいね」
私は足音を立てず警備員の背後に忍び寄り、手刀で首の後ろをトンと叩いた。
「こっちに来て下さい。見て下さい。気持ちよさそうに眠っていますね」
「ほんとだー!どうしてだ?」
「さっきの様に首の後ろを手刀でポーンとすると、人は眠ってしまうのですよ」
「なるほどなー、それでなんでこのおとこのふく、ぬがせてるんだ?」
私は変化のスキルを使って倒れている警備員瓜二つの顔を作った。
「ちょっとこの服をお借りしようと思いましてね」
「おー、よくわからんがたのしそうだ」
「これからもっと楽しくなりますよ。ほら、リナさん、あそこにも警備員がいますよ。先ほど教えたやつをやってみて下さい」
「よーし!」
リナさんは静かに警備員の背後に回り込んだ。そこまでは良かった。
「トン、だぞ」
「ぐ、ひぷっ!」
リナさんが首を軽く叩くと警備員は地面にめり込んだ。
「ど、どうしよ、ウラン!めりってなってる!」
めり込んだ警備員の脈を測る。
「大丈夫です。息はあります。力加減は今後の課題ですね、さぁ服を脱がせましょう」
「うん!」
リナさんは警備服に着替えた。
「リナさんも別人に変身できますか?」
「ウランみたいに上手にはできないぞー、でもこうかー?」
十分。
リナさんは細身の男性に姿を変えた。
「素晴らしいです、リナさん。では次に行きましょう」
私はリナさんを従え、本部の中に堂々と入っていく。
「ウラン、すごいな。みちしってるか?」
「昔は本部勤でしたからね。今日は一番奥の金庫という場所に行きますよ」
「おー、きんこなー」
分かっているのか分かっていないのやら。
よく分からない反応をするリナさん。ですが非常に楽しそうにしています。
先生としては嬉しい限りです。
今の所順調ですが、ミッションにトラブルはつきもの、ほら、早速、
「おう、ジョージ、今日は外じゃねぇのか?後ろのやつは誰だ?」
中の警備は最低でもBランク以上。スルーがベスト。
「いや、急に新人だって預けられたんでまいっちまったよ。とりあえず一通り回らせてるんだ」
「おーそうか。よろしくな、新人」
さぁ、リナさん、上手くできますかね?
「うっす!よろしくおねしゃす!うっす!」
「お、元気いいな!今度飯行くか!」
「ありゃりゃす!うっす!おねしゃす!」
「はっはっは、肉でも食いに行こうな!研修中邪魔して悪かったな。またな」
そう言って警備員は離れていった。
「はなまるですよ、リナさん」
「おー、ウランのいったとおり、げんきにはやくちではなしたらなんとかなったぞ!」
「本部の警備員には体育会系が多いですからね。さ、もう少し奥に行きますよ」
「おう!」
私とリナさんは、本部の最深部に進んだ。
あと金庫までもう少し。
ここからの道のりは誰にも見つからないように。人のいない道をうまく通り、どうしようもない場合は注意を引いて別の場所に警備員を誘導し、その隙に通る。
「なんかこれ、おもしろいな」
「これはかくれんぼという遊びですよ」
「おー!こんどローラとやってみようかな」
「さ、間も無く金庫に着きますよ」
金庫の近くに警備員はいない。
何故なら金庫の守りは絶対に破れないと幹部達は思っているから。
3種のパスワードに魔力認証。それをパスしないとこの扉は開かない。
さらに凄腕の鍛冶師10人で作ったという、直径2メートル程の扉は、最上級魔法でも傷一つ付かないという。
例えここに賊が来たとしても、どうにもならないというのが幹部の見解だ。
「リナさん」
「ほいさ!」
そう言ってリナさんは金庫のドアをググッと引っ張った。
扉がミシミシと揺れる。
「ガッコン!!!」
大きな音がして、金庫の扉が外れる。
「上手に出来ましたね。リナさん」
「えへへ。またウランにほめられたぞ」
「さ、中に入りましょう」
中には金貨や契約書類やらが山積みにされている。
私はアイテムボックスを取り出す。
「さて、今日の課外授業の一番の課題。ギルド長が盗られたお金を取り戻しますよ」
「おー、ゴチンコかわいそうなぁー。じゃあ2おく4300まんとらなきゃなー」
「いえ、書類も含め全部です。いいですかリナさん。やられたら10倍返し。これは基本ですよ」
「おお!そっか、キホンだいじなー」
私はリナさんと一緒に金庫にあるものを全てアイテムボックスに収納した。
「さて、リナさん、警備服はもう脱いでください。でも変化はまだ解かないでくださいね」
「いいのか?かくれんぼは?」
「もう見つかってしまいましたから」
私たちが金庫の外に出ると、案の定十数人の警備員が扇の様に金庫の周りを囲っていた。
「お前は!49支部のウラン支部長!」
「馬鹿なやつめ!金庫に振動が加われば伝達されるように魔力術式を組んであったのだ」
「大人しく投降しろ!」
これだけギャラリーがいれば十分ですね。でもなるべく目立った方が良さそうです。
「リナさん」
「ん、なんだ?」
「今日は月がないんで外が暗いですね。私、花火が見たいです」
「お、あれな!いいぞ」
リナさんはそう言うと口元にエネルギーを集めていく。
「な、なんだあれ?」
「や、やばくないか?」
警備員たちがざわつく。
七重の咆哮。
はるか昔に絶滅したと言われているルビードラゴンが放つ7色の咆哮。
リナさんはルビードラゴンの最後の生き残り。
「はーぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
リナさんがそう叫ぶと、7色の閃光が鷹の爪ギルド本部の天井を盛大に破壊し、空に特大の花火が打ち上がった。
「ドォォォォォォォォォォォォン!!!!!!!!!!!」
うん。お腹に響くいい音ですね。
「な、なんだあれ!?化け物!!」
「ひっひー!」
「敵う相手じゃない!」
そう言って逃げていく警備員達。
さて、あらかたは逃げましたかね。
あとは、足がすくんで動けない人と、泡を吹いている人と、あら、失禁されてる方までいますね。
私はへたり込んでいる警備員1人に狙いを定め、ゆっくりと歩み寄った。
「ひっ!く、来るな!」
「追ってくるなら容赦しません、分かりましたか?」
「わ、分かった!分かったから……」
「あと私たちが帰ったらすぐにギルドマスターに伝えなさい。本部に侵入したのは49支部のウランと咆哮を口から出す『男』だって」
警備員の男はコクコクと素早くうなづく。
ゆっくりと歩いて私たち二人は本部を立ち去るが、誰一人として私たちを追ってこようとはしない。
きっと鷹の爪在籍のSSSランクはアリスの抜けた穴埋めや悪巧みやらで王都を離れてしまっているのだろう。
そこは運が良かった。
人気のない所まできたところで、私は女の姿に戻る。リナさんにも変化を解かせた。
「さて、帰りましょうか」
「そうだな。ウラン、カガイジュギョウたのしかったぞー。またやろうな」
「ええそうですね。またそのうち」
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