第42話 これが後に世界に轟くギルドの名前ってマジですか?
ローラ視点
皆が帰ったあと、しばらくしてアリスさんは目を覚ました。
もう少し休まないと、と引き留めたが
「私自分のベッドじゃないとよく眠れないの。帰るわ」
そう言ってさっさと帰ってしまった。
夜なので、せめて明るくなるまでとも言ったのだが、
「私に指図するなんて、10年早くてよ」
そう言っていなくなった。
もっとちゃんとお礼も言いたかったのに……明日来るだろうか、アリスさん。
あんな出来事があった後だ。
もちろんちゃんと眠れるはずもない。私はベッドの中で、ずっと悶々としていた。
眠れなくても朝は来る。
ギルドの開店準備をしなきゃ。
お父さんと開店準備をしていると、開店準備中の立て札が置いてあるのも構わず、アリスさんがギルドに入ってきた。
「アリスさん、良かった!怪我はどうですか?」
「どうって、あれしきの怪我で私がどうこうなるとでも本当にお思い?」
「あの、アリスさん、昨日はちゃんとお礼が言えなくて、あの本当に……」
「別に、あなたのためにやった訳じゃないわ。あの男、いつも先輩面で偉そうだったし、いつかやってやろうと思っていたの。ちょうど良かったわ」
アリスさんはそう言うが、実は優しい人なんだと私はもう分かってしまっている。
アリスさんは開店前のギルドのテーブル席に腰掛け、くつろぎだす。
「おい、まだ開店前だぞ。何くつろいでんだよ」
「あらそんな事を言っていいのかしら?私のおかげで何人の新規登録者が来たと思っているのかしら」
「ぐっ!」
アリスさんがお父さんを言いくるめていると、従業員のドンさんが血相抱えてギルドに入ってきた。
「おいおい、どうしたんだよギルド長!何人警備員雇ったんだよ」
「はっ?警備員?なんの話だ?」
「えっ?だって外がよう」
「外って……なぬー!!!」
お父さんは外に出て驚愕の声を上げた。
外には屈強な男たちが何十人もいて、ギルドを警戒警備していた。
「あ、おはようございます。ギルド長」
「こ、これは何なんだ?お前ら何してるんだ!?」
お父さんが訳が分からないと言った様子でいると、アリスさんが座りながら言った。
「うふ♡私が何者かに襲われたって話をしたら、親衛隊が私のいる場所を守るって聞かないのよ、ごめんなさいね♪それより受付嬢さん、ダージリン無いの?私喉が乾いたわ」
「やりたい放題だな。おい、ちょっとここは喫茶店じゃ……」
お父さんがアリスさんに注意しようとすると、いつの間にか後ろにウランさんが立っており、お父さんにボソリと言う。
「アリスさんがここに長居してくれれば、親衛隊が警備していますし、ギルドのみんなは安全ですね」
「ま、まさかアリスはそれでわざわざ朝から……」
そんな会話はアリスさんに聞こえていたのかそうでないのか。
「誰でもいいわ。早くお紅茶。あとお茶菓子くらいあるんでしょうね」
無表情なウランさんだが、少し嬉しそうにしている?
「アリスさんって、素直じゃありませんね。苦労しそうな性格です」
ウランさんがそういうと、お父さんが唸りながら何か悩んでいる。
「ううう、もしかしたら……辞退しなくても……大丈夫なのか?」
辞退?何の話?
「お、おいギルド長!」
「ドンさん!今度はなんだってんだ!」
「すぐこっちに来てくれ!」
お父さんがドンさんに呼ばれ、職員控室に行くと、そこには大量の金貨が置かれていた。
「ざっと見積もって5億くらいあんぞ?何だこれ?ギルド拡張の資金かなんかか?どっちにしろこんなとこに広げといちゃまずいぞ」
お父さんも私も驚きすぎて、口をぱくぱくさせてしまう。
私は金貨のすぐ横に、一枚の領収書が置かれているのに気がついた。
「2億4300万、利子諸々含め占めて5億?どう言うことお父さん?お父さん誰かにお金貸してたの?」
「その数字……ま、まさか!ウラン!」
「私は何も知りません。でも、昨日鷹の爪本部に男二人組の泥棒が入ったらしく、鷹の爪はかなりの損害を食らった様です。今血眼になってその二人を探しているようです。もう人相がきが出ていますね」
私とお父さんはウランさんが見せてきた人相がきを見た。
確かに男2人。
「一人は口から咆哮を吐く細身の男、SSSランク冒険者のスネッグではないかとの事です。もう一人はウラン?あら偶然。私と同じ名前ですね。でも私はこの通り女ですから」
「そんな偶然あるか?やっぱりお前」
「私が男と間違えられるように見えますか?」
「うっ」
お父さんはたゆんと揺れる、ウランさんの胸元を見て、慄(オノノ)いた。
「そ、そうだな。お前が男はちょっと無理がある。でも一体どうして……」
「この件で鷹の爪は御前試合どころではない様です。9割以上の人員が泥棒2人の捜索に当てられるみたいですね。無駄な小細工をしている暇はないみたいです。まぁそれでも、リスクゼロという訳にはいきません。後はギルド長のお考え次第です」
お父さんはそうウランさんに言われ黙り込んだ。
そしてしばらく何かを考え込んだかと思うと、重々しい口調で話だした。
「……ローラ。すまねぇ。実はタクトには、次の試合棄権してもらおうと思ってたんだ」
「えっ?棄権?どうして!」
「……お前に危険が及ぶからだ」
そう言われ、私は何も言えない。
昨日人質に取られたばかりなのだ。
「俺が不甲斐ないばっかに、すまねぇ」
「……お父さん」
「棄権しようと思ってた。そんで今でも棄権した方がいいって、分かってるはずなんだ。でもよ!やっぱりこんなおっさんになっても俺は男なんだな。タクトの試合見てから、こう心臓がバクバクして、毎日楽しくて、ワクワクして仕方ねぇんだ!それとな、俺は、エルサと約束した、このギルドを世界一のギルドにするって!そのためにはタクトの御前試合優勝が必要だ!だから!ローラ、お前を危険に晒すことになるかもしれない。でも……」
「何言ってんの?お父さん」
「何って、タクトが試合に出続ければお前にまた危険が及かもしれねぇんだ!だからわがまま言う俺がお前に頭を下げて……」
「ああもう!私に頭下げるとか、お母さんと約束とか、わがままとか!本当に、お父さんは何も分かってない!あのね!このギルドを世界一にするって2人の夢……とっくに、私の夢でもあるんだよ!お父さんとお母さん、そして私……三人の夢!!」
お父さんは鼻水と涙で顔をぐちゃぐちゃにしている。
もう、きったないなぁ。
「ローラ……」
お父さんは涙を拭き、
「よーし!絶対にこのギルドを世界一にしてみせるぞ!そのためにはまず次の試合だ!タクト、頼んだぞ!」
そう言った。
「……」
「……」
「……」
「あれ?タクトは?」
「そういえばタクトさん、今日はいないですね」
「こんな時に、どこ行ったんだ、タクトのやつ」
ウランさんは表情を変えずに、キョロキョロとタクトさんを探すお父さんに悪戯っぽく言った。
「タクトさんなら朝イチで大会に棄権を申し入れに行くと言って、もう出ていきましたよ」
「なにーーっ!!馬鹿野郎!それを先に言え!タクトーーー!待ってくれー!」
お父さんは慌てて外に飛び出していく。
それを見てウランさんはクスリと笑った。
ウランさんの笑顔を初めて見た気がする。
それを見て私も何だか可笑しくなってしまい、思わず2人して笑ってしまっていた。
第二章 「終」
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