第36話 裸エプロンは油はねたりするので結構危険ってマジですか?

「ふんふんふーん♪」


軽快な鼻歌で目が覚めた。


裸エプロン姿のウランちゃんが何か作っている。


「タクトさん、起きました?」


「はい」


リナはまだいびきをかいて寝ている。


「朝食です。いっぱい食べて下さい」


トーストに卵、カリカリベーコンにレタス、最高の朝食だな。


「ありがとうございます。いただきます」


ウランちゃんは朝食を頬張る俺を見つめながら言った。


「このまま会場に行きますか?本戦までまだ時間あるのでまだゆっくりできますよ」


「いや、一回ゴチンコのギルドに衣装を取りに戻ります」


「衣装?」


「あぁ、説明してませんでしたね。俺実は御前試合タクトの名前で出場してないんですよ、目立ちたくなくて」


「なるほど。タクトさん程の実力があれば目立ってしまうのは確実ですね。仕方ありません。それで、なんという名前で出場しているんですか?」


「混沌を主る漆黒の翼†ジェイド」


「……」


「……」


「なる程……」


「ま、待って待って!俺が決めたわけじゃないんですよ!その名前は!」


「い、いえ、かっこいいと思いますよ、ちゃんと」


「だかーらー」


そんなくだらないやりとりを一通り終えた俺は、ウランちゃんにもう一度朝食の礼を言って宿を出た。


一度ゴチンコのギルドに戻るとしたら、着替えもしなきゃいけないし、結構ギリギリかもな。


急いでゴチンコのギルドに行くと、ゴチンコのおっさんとローラさんはもう起きて、ギルドの始業作業をしていた。


「おう、朝帰りか。やるねぇ、タクト」


「おはようございます」


ゴチンコのおっさんはご機嫌だが、ローラさんは昨日よりさらに機嫌が悪そう。


そりゃそうだよな、朝帰りだもん。


「俺たちはギルドの作業が終わって皆んなに指示したら観戦に行くから、会場には先に一人で行ってくれ」


「分かりました」


俺は部屋にジェイドの衣装を取りに行った。


あったあった。


すぐに家を出ようと部屋の外に出るとローラさんが部屋の前に立っていた。


ローラさんは下を向いている。


あー。謝るのなら今かな?


「あの、ローラさん。すいません。俺、その……」


「いいんです」


「えーっと、でも……」


「別にタクトさんが偽名を使ったって。別に朝帰りだっていいんです。それでも私はタクトさんの事が好きだから」


「えーっと。でも、怒ってますよね」


「……怒ってます」


「……ごめんなさい」


「怒ってる理由が2つあります。当ててみて下さい」


「えーっと……」


名前の事じゃないんだろ?なんで?分かんないぞ、どうしよう。


「鈍感なタクトさんじゃ一生分からない様なので正解を言います。一つは、私に怒られると思ってたくさん秘密を抱えたままにしてしまった事。嘘をつくのって仕方ない事だと思うんです。でも私にだけでも話す機会があったんじゃないかって。私ってそんなに信用できませんか?」


そう言って悲しそうにしているローラさん。


「そういうわけじゃなくて。色々と訳があって、もちろんいつかは話そうと……」


「今度から、隠し事はなるべく止めてほしいです。悲しいです」


「分かりました。約束します」


「そしてもう一つ」


「もう一つは?」


「もう一つは……本戦前は、私が眠っているタクトさんを起こしに行って、美味しい朝食を作ってあげて、行ってらっしゃいって送り出したかった……」


「えーっと……それって……」


ローラさんはニコリと笑って俺を見た。


「そう。ただの嫉妬です。タクトさん、怪我しないで帰ってきて下さいね」


ローラさん。やっぱり聖母のような人だ。


「うん。行ってきます」


「行ってらっしゃい」


俺はローラさんと別れ、会場へと急いだのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る