第35話 悪い奴ほどよく笑うってマジですか?

ドラン視点


「クソ!クソ!クソォォォ!!!!」


やばいぞ!やばいぞ!


ルーキー大会の優勝者のジェイドってやつ!


アリスを倒したって!?


異例の速さでSランクまで駆け登った戦闘狂、天才アリス!


Sランクでも期待の有望株じゃねぇか!


それを圧倒して倒したなんて!それが本当なら俺が勝てるような相手じゃねぇ!


くそ、どうしたら!


本戦は明日なんだぞ!


俺は出るはずもない妙案を求めて、頭を掻きむしり部屋の中をうろうろと歩き回った。


すると誰かが部屋をノックする音がした。


誰だ、こんな夜中に!リザかダンか?


「誰か知らないが今は取り込み中だ!出直してくれ!」


「ドラン様、私『鷹の爪』の使いの者です。ご内密な話があります。どうぞドアをお開け下さい」


鷹の爪?鷹の爪の使者が何故こんな時間に?


「そ、そうか、待て今開ける」


ドアを開けると背の高い執事服姿の老紳士が立っている。


「初めましてドラン様。私鷹の爪で諸々の雑務を担当させていただいております、ピョードルと申します。今日はドラン様にお願いがあって参上しました」


そう言ってピョードルは「ひよっひょっ」と笑ってお辞儀をした。


俺はピョードルを部屋に入れて座るよう言ったが、ピョードルは「このままで」と言い、立ったまま話を始めた。


「それで、お願い?」


「はい。こんな時間に大変失礼な話で申し訳ありません。明日の御前試合本戦の話であります」


本戦。今まさにそれで悩んでいた所だ。


「なんだ、早く具体的に話せ」


「実を申しますと、ドラン様が一回戦で当たる相手というのは、私達『鷹の爪』にとって少々因縁の強い相手になってしまいまして」


それはそうだろう。


ジェイドに『鷹の爪』の広告塔であるアリスが負けて、なおかつそのアリスが引き抜かれたわけだ。


鷹の爪はどれ程の損をしたことか。


「ご存じとは思いますが、うちにいた広告塔が今いなくなってしまい空席の状態です、そこで」


「そこで?」


「新しい広告塔が必要かと」


「……何が言いたい」


「つまり、ドラン様、あなたに新しい広告塔になってもらいたいと、ゴブリンキングを倒した英雄。新たな鷹の爪のシンボルにふさわしい」


ピョードル。中々興味を惹かれる話をするじゃないか。


「ほぅ、しかしどうやって」


「えー、ドラン様はもちろんご自身の力で、ジェイドを倒してしまわれるのだとは思いますが、普通に倒してしまうのでは少々派手さに欠けている。そこで微力ながら私どもがお手伝いをと思ったのです」


「ふむ、続けろ」


「明日、ゴチンコのギルドの受付の女を拐(サラ)います。そして女を人質にして、ジェイドには上手くドラン様に負けるように脅迫します」


面白い。面白いぞ!しかしその話、本当に上手くいくのか?


「ふーん、まぁ確かに。俺の実力であればEランク冒険者ごとき倒せてしまうのだが、その案も悪くない。しかしな、試合が終わった後はどうするんだ?人質を取ったことがバレたら」


「その心配はありません。全てが終わりましたらジェイド、もちろん人質の女も口を封じさせてもらいますから」


「なるほど。しかしジェイドはあのアリスを倒したんだぞ?殺すのはそう容易くないはず」


「心配はいりません。今回仕事は手練れが行います」


「手練れ?まさかお前か?さっき歩いていた時足音が全くしなかった」


「ひょっひょっひょっ。これは失礼。足音をさせないのはクセみたいなものでして。しかし仕事をするのは私ではありません。私は冒険者ランクでいうとAランク。今回仕事にあたるのはSSSランクの冒険者です」

 

「SSS(トリプルエス)!?世界中に一握りしかいないというあのSSS(トリプルエス)か!?」


「はい。『鷹の爪の掃除屋』のあの者と比べれば、Sランクのアリスなんぞも赤子も同然。もちろんジェイドも一瞬で片付けてくれます」


鷹の爪!さすが世界一のギルドだ!


「ふふふふ。ははははははっ!気に入った!その案に従おう」


「ひよっひよっひよっ。そう言っていただけると思っておりました。では早速明日の段取りを……」

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