第37話 乙女のピンチには必ずヒーローが駆けつけるってマジですか?

会場に向かう途中、俺は人のいない場所を見つけ、はや着替えを行った。


はい、あとはこうやってマフラーを巻き付ければ、『混沌を主る漆黒の翼†ジェイド』の出来上がり。


着替えを終え会場に到着した俺は、出場者パスを受付に見せる。


係の者に控室に案内される。


凄い。本戦は選手一人にこんなに大きな控室が与えられるのか。


控室のテーブルには水差しや軽食なども置かれている。


しかし俺はそれらではなく、テーブルの真ん中にドンと置かれている真っ赤な封筒に目が行った。


なんだこれ?大会運営からかな?


封筒には『混沌を主る漆黒の翼†ジェイド殿へ、くれぐれも手紙は一人で読むように』と注意書きがされている。


俺は不審に思いつつも、封筒を開け、その手紙を読んだ。


『ローラという女性の身柄を預かった。ゴチンコのギルドの受付と言えば分かるだろう。

彼女の命が惜しければ、1回戦のドラン戦で負ける演技をしろ。

ただしすぐにはやられるな。上手くドランを引き立てろ。

お前が倒れるタイミングはこちらから指示する。

会場を勝手に出ても女は殺す。

上手く負ければ女の居場所を教え女を解放する。

妙な真似はするな。お前に選択肢はない』


俺は血が凍るような感覚を覚えた。


手紙は魔力が込められてたのか、読み終わった途端緑の炎が着火し、一瞬で燃え尽きてしまった。

魔道具まで用意している。

大きな組織が関わっているのは間違いない。


ドランの所属は確か鷹の爪……そういうことか……。


だとすればこの控室すら何らかの方法で見張っている可能性がある。

現実的に考えて、ここから出てローラさんを探しに行くのは不可能だ。

もちろん、他の誰かに助けを求めることもできない。


別に本戦でわざと負ける事については何の問題もない。

ただローラさんがちゃんと無事でいるのか?

それだけが心配で、俺は嫌な汗が止まらなかった。



ローラ視点


「ローラ、俺は先行くぞ」


「うん、この補充品前に出したら私も行く。会場で」


そう言ってお父さんは先に御前試合本戦会場に向かった。


お父さんが出て行った10分くらい後、私も仕事が終わったので、準備をしてギルドを出た。


外に行くと凄い人だかりができていた。

ほとんど前に進めない。


やっぱり御前試合本戦当日なんで、街もお祭り騒ぎだし、大通りは混んでいる。


もう少し早くギルド出て入れば良かったと、私は後悔した。

このままではタクトさんの試合が始まってしまう。


近道した方がいいかな?

この街には子供の頃から住んでいるので、裏道、隠れ道は何だって知っている。


私は久しぶりに隠れ道を使い会場に向かった。

やっぱり、思った通り、この道は人がいない。

これで試合に間に合う。


そう思った時であった。


「あれ?」


抗い難い程の眠気が、私を襲った。


「なん……で……」


私は道の真ん中でふっと意識を失った。

どれくらいの間眠っていたのだろう。


「おい、起きろ」


聞きなれない男の声で、私は目を覚ました。


「う、うぅぅん」


「やっとお目覚めだ。ピョードルのおっさん、強い睡眠薬を使いすぎなんだよ」


誰?知らない。

見たこともない男。


白い髪に長い舌、長い手足。

細身のその男は、どこか蛇を思わせた。

年齢は20代中盤くらいだろうか。


そして私は見たこともない場所に連れてこられていた。

手足はロープでキツく縛られている。


「ここは、どこなんですか?あなたは誰?これ、ほどいて下さい!」


「そう言われて、はいそうですかと言う悪党はいねぇんだよ」


そう言って男は蛇みたいに笑った。


「私をどうする気?」


「お前には拐われたお姫様の気分を味わってもらおうかと思ってな。素敵な舞台を用意したぜ」


「私なんか拐っても、大してお金なんて引き出せませんよ」


「金じゃないんだなーこれが」


「金じゃない?まさか!?」


「おっと!まずいな、気づいちゃったか?まぁ別にいいか、どうせお前も奴も死ぬんだし」


何とか逃げないと!殺される!それにタクトさんまで……


「そんな顔するな。安心しろ、まだ殺さねぇよ主役が来るまでは」


「タクトさんが来たら、あんたなんて!」


「タクト?ジェイドじゃねぇのか?まぁいいか。それより待ってる間暇だな……」


男はいやらしい目で私を見る。


「殺すなとは言われてるが、手を出すなとは言われてねぇよな。中々いい女だ。たっぷり楽しませてもらうかな」


そう言って男は私の胸元に手を伸ばそうとする。


嫌だ、嫌だ!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!


「いやぁぁぁぁぁ!!!」


男の手が私に触れる。そう思ったその時だった。


ズキューン


突然の銃声!


銃弾は男の手に見事に命中し、私は寸前の所で助かった。


「チッ!誰だ!」


ゴスロリ服に赤い傘。


「ジェイド様の応援に向かおうとしたら、ゴチンコのギルドの受付に羽虫が一匹たかっているのが見えたから追ってきてみれば……」


「アリス……貴様!!」


アリスさんは妖艶な笑みを浮かべて首を傾げてみせる。


「うふ♡始めましょうか……害虫駆除♪」

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