第29話 大会の優勝者には特別なご褒美があるってマジですか?
「関係者だ関係者!中に入れろ!た、タク、じゃなくてジェイドのギルドのゴチンコだ!おっ!タ、ジェイド!見てたぞ!すげぇじゃねぇか!」
ゴチンコのおっさんが選手控室の前の警備を押し退け、予選が終わった俺に駆け寄ってくる。
「タクヤ、じゃなくてジェイドさん!」
そう言ってローラさんまで駆けつけて抱きついてくる。
戦場から帰還した夫二回目。
「あの、このままじゃ正体バレるので、早めに帰りたいんですが」
「おお、そうだったな!ギルドに戻ろう。あそこなら年中誰もいないし」
俺たちはワイワイ話しながらゆっくりギルドに戻った。
もちろん、話題はずっと俺の予選の話だ。
「それでタクヤンがシューっと煙みたいに消えたかと思ったら、手に大量のバッチ抱えてたんだよ!」
「お父さん、私もそれ見てたし、タクヤンさんなんて当事者だから。それにその話、もう何回目よ」
「そ、そうか?でも何度話しても最高なんだよな」
「まぁ、すっごくかっこ良かったし、私も目に焼き付いちゃったし」
二人がベタ褒めなので俺は恐縮しっぱなしだ。
鷹の爪で働くために資格やスキルをいっぱい取っといた成果がちょっとは出たのかな。良かった。
「お、ギルドが見えてきた。あ、あれ?」
年中人がいないはずのギルドに、大量の人が集まっている。
「な、なんだ?どうした?」
俺たち三人が人だかりの中に行くと。
「ここのギルドの方ですか?あの、このギルドに入りたいんですけど」
「え?」
「ジェイドさんですよね!予選見ました!私ファンです!ゴチンコのギルドに入ります」
ファンと言う若い女の子が十数名。この子ら本当に冒険者なの?
「予選大会観たんですよ!どのギルドに入るか迷ってたんですけど、今日の大会観て入るならゴチンコのギルドだなって!」
「俺は『鷹の爪』からの移籍。一応Cランクだから一通りの依頼はこなせるはずだから、入れて損はないはずだぜ。頼む、移籍もOKだよな?」
俺たちは一瞬ポカンとしてしまった。
「こ、こうしちゃいられねぇ!ローラ!すぐにギルド開くぞ!」
「う、うん!」
それから、ローラさんとゴチンコのおっさんは登録作業に忙殺された。
俺はというと、並んでいる人が飽きないように、20分に一度ギルドのホールに現れて、待っている人の質問に答えたりした。
『鷹の爪』で働いてた時、イベントでSランク冒険者の質問会とかやったけど、その時みたいだよ。
まさか俺が質問される側に回るとは。
「ふぅー!やっと終わったぜ!」
外はもう暗くなっていた。
最後の登録者がギルドを出て行って、やっと今日の仕事が終わる。
「でもしばらくは忙しくなっちゃうよね。臨時でもいいから人員募集しなきゃ」
「でもな、ギルドに務めてた経験のある即戦力じゃねぇと。仕事教えている余裕はねぇぞ。できればタクヤンの本戦での戦いも観戦したいから、ギルドの事全部任せられる優秀な奴ら。そんな都合のいいのいねぇよ」
もしかしたら……。いやでも忙しいよな。
でも知り合いで優秀なギルド職員って言ったら49支部のみんなしか俺は知らないし……ダメ元で。
「あのー」
「あ、ごめんなさい、タクヤンさん。ほったらかしにして」
「いえ、その臨時の職員の件、俺ギルドに勤めている知り合いがいるんですけど、その人たちに声かけてみてもいいですか?」
「お、いいのか?」
「はい。でも本業があるので、来てくれる可能性は低そうですけど」
俺は風の精霊の伝言を、49支部の職員全員分作って送った。
「そういえば、ルーキー大会の決勝はどうなるんですかね?」
そういえば本戦出場は俺一人だ。
「タクヤンの優勝だろ、決まりだ決まり!前代未聞の予選で優勝が決まったタクヤンの名前は歴史に残るぞ!」
いや、『混沌を主る漆黒の翼†ジェイド』でトロフィーに名前刻まれそうなんですが。
そもそもタクトだし、タクヤンすら偽名だしどうでもいいんだけど。
「おい、タクヤン、今日も泊まってけ!そんで風呂一番風呂いいぞ!」
確かに少し汗をかいてるな。
この黒い衣装暑いし。
俺はご厚意に甘え、風呂に入る事にした。
タクトがいなくなった後……
ローラ視点
「おい、ローラ。今日夜タクヤンの部屋に行ってこい」
「えっ?」
「優勝したらお前の事好きにしていいって言っちまったんだよな、タクヤンに」
私は顔から火が出そうになる。
「なんでそんな勝手な約束!」
私が真剣に怒っているのにお父さんはニヤニヤしている。
「もう!」
タクト風呂上がり後。
その日は昨日よりも本当に豪華な食事が出た。
あれだけの仕事をした後なはずなのに、ローラさんの料理の腕は大したもんだ。
ゴチンコのおっさんは酒が入り楽しそうに話していたが、なぜかローラさんは口数が少なめだ。
顔も赤いし、大丈夫かな?
「わ、私はお風呂もあるし、先に部屋に帰ります。食器とかはそのままでいいので。それじゃ」
そう言ってローラさんが早々に行ってしまった。
やっぱり体調悪かったのか?心配。
ゴチンコのおっさんと二人きりになると、おっさんは何故か黙り込んでしまった。
「火魔法、使えるか?」
葉巻を加えておっさんがそう言う。
俺は「チッ」と火魔法で点火してやる。
ゴチンコのおっさんはゆっくりうまそうに煙を吸い込み、フーッと大きな煙を出した。
このギルドの様子には似つかわしくない、高級そうな葉巻だ。
「この葉巻。貧乏ギルドの親父がこんな贅沢なもん、って思ったろ?」
「はぁ」
「俺は葉巻やめてたんだ。ローラが生まれた時にこの葉巻を買って、誓いを立てた。ローラが幸せになる日まで、葉巻はやめるって。あいつが本当に幸せだって思える日が来たら、この1本を吸おうって」
「えっ!?いいんですか?この日で!」
「馬鹿野郎。俺はあいつの父親だぞ。あいつの事なら何でも分かるんだよ。間違いない、あいつにとって今日が一番幸せな日になる」
そう言われると、何も言い返せない。
でも、本当に幸せだったらいいな、ローラさん。
「おい、タクヤン、今日俺はこれから夜の街に行くから」
「え、奢ってくれるんですか?」
「バカか!お前はここに泊まるんだ!試合の後なんだからゆっくり寝るんだよ!ほら、行け
!さっさと部屋行け!」
俺は追い立てられるように無理やり部屋に行かされた。
ギルドの入り口のドアがガシャンとするのが2階の俺の部屋まで響いた。
本当に外行っちゃったな。
しゃーない、寝るか、そう思った時だった。
ノックの音がした。
「タ、タクヤンさん、起きてますか?」
「は、はい、今開けます」
俺がドアを開けるとかわいい寝巻き姿のローラさんが立っていた。
つい先日まで童貞だった俺には些か眩しすぎる寝巻き姿だ。
「あー、なんかお話しですか?えっと、どこでも座ってもらって」
そう言うとローラさんはベッドにちょこんと腰掛けた。
そのまま何も言わないローラさん。
……?あれ?もしかして、これ、ゴチンコのおっさんが言ってた一晩中好きにしていいとかのやつ?
だからゴチンコのおっさん出てったの?
「あ、あのローラさん。もしかしてお尻とか一晩中とかの件聞いたりしてる?」
ローラさんは林檎の様に頬を染めながら黙ってコクリと頷く。
「あ、あれはなんか冗談というかノリというか、そんな本気にしてたわけでなく……いえ!決してローラさんが嫌というわけじゃなくて、むしろローラさんはドストライクで大好きで……何言ってんだ俺」
「タ、タクヤンさん」
「は、はい」
ローラさんは上目遣いで恥ずかしそうにこう言った。
「す、するときは、ちょっと強引な感じで、されたい……かな、って」
一気に理性が吹き飛んだ。
俺の2回目の聖槍スキルのお相手は、ローラさんだった。
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