第21話 大ギルド鷹の爪の崩壊その1
ゴールズ視点
「では、魔石の節約対策会議の最優秀プレゼンテーションは49支部のウラン支部長という事で、決定しました」
司会の男がそういうと、会議室に拍手が巻き起こる。
けっ!また49支部か。絶対に拍手なんかしてやるか!
「けっ」
俺は面白くなくて、会議にいた全員に聞こえるようにわざと声を出した。
「で、では、採用された49支部にはボーナスと、この企画書を書いた人とプレゼンテーションを担当したウラン支部長には特別昇給を……」
「その件についてなんですが」
またウランが出しゃばりやがったぞ!何を言うつもりだ!
「その企画書を書いた者は先日解雇されたタクトという職員でして……」
ウランがそう言うと、会議室の方々からヒソヒソと話す声が聞こえた。
「この企画書の職員を解雇?こんな画期的な魔石の運用方法を考え出せる人材をなんで?」
「タクトって業績トップの職員だよね?なんでずっと平社員なんだろうと思ってたけど、解雇されたの?あの人?」
「誰だよ、解雇したやつ」
俺は顔が熱くなるのを感じる。
たかが職員1人がどうした!俺はこのギルド創始者の息子だぞ!
そんな職員1人いなくたってどうとでもなるわ!
「ですから、昇給ではなく職員の解雇の取り消しを私は求めます」
「おぉ!」
「妥当だな」
「それはいい!」
このクソどもめ!何を言い出す!絶対に言うとおりになんぞしてやるものか!
「あー、良く見ると49支部の案には欠陥があるな」
俺は49支部の資料をパンパンと机に叩きつけそう言った。
「具体的にどこですか?」
ウランめ!まだ俺の邪魔をする気か!
「あーうるさい!とにかく49支部の案の採用は無しだ!俺が考えた魔石の買取価格を下げる案で行こう」
その言葉にウラン以外の社員も反論してくる。生意気な奴らめ!
「しかし、これ以上魔石の買取価格を下げれば、鷹の爪を利用する冒険者たちが離れていってしまいます!」
「うるさい!うるさい!口答えするな!!!俺の案が採用なので、昇給とボーナスは俺につけとけ」
俺が笑いながらそう言うと、ウランの野郎が珍しく低いトーンで口を挟んできた。
「いくら幹部のご意見でも、それには納得できません」
いつにない剣幕に、俺はちょっとたじろいだ。だがここで引くわけにはいかん!
「あーこれだから田舎支部の部長は駄目だな。都会の事情を全く理解していない」
「もう一度言います。タクトさんの解雇を取り消してください」
「俺がお前みたいなグズの意見を聞くと思うか?」
罵倒してやってもウランは眉ひとつ動かさない。
つまらん!
腹立たしい!
「お前と一緒で、49支部の連中も間抜け揃いなんだろうな。そのくせ給料だけは一丁前に持って行きやがる!」
そういうと、今まで顔色一つ変えなかったウランがピクリと顔を歪めた。
拳を握りしめている。
いいぞいいぞ!
ウランの野郎をギャフンと言わせるには、ウラン本人ではなく49支部を罵倒すれば良さそうだ!
「49支部は鷹の爪のお荷物だ!それに俺がクビにした、タクト?だったか、あいつは稀に見るクズだ!業務中に寝るなど、男として底辺だ!」
俺がそう言った瞬間、俺の脳天に星が走った。
いつの間にか俺は椅子から転げ落ち、地面に倒れていた。
ウランが物凄い形相で俺を睨みつけている。
このー!!ウラン野郎!俺の美しい顔を殴りつけやがったな!
親父にもぶたれたことないのに!
「タクトさんの悪口を言ったな!殺してやる!」
そう言ってウランは息を荒くしながら俺に近づいてくる!本当に殺される!そう思った。
俺が恐怖のあまりちょびっと失禁し、声も出せないでいると、会議室にいた誰かが大声で言った。
「だ、誰かウラン支部長を止めろ!」
その声のあと、わっと会議室にいた全員でウランを取り押さえにかかったが、何十人もいる筈なのに、ウランは中々取り押さえられない!
「く、クビだ!そいつはクビクビ!」
俺は慌てて会議室を飛び出した。
会議室から必死で離れ、何とか鍵のかかる自分のオフィスに戻る。
クソ!クソ!クソ!
落ち着いたらもっとムカついてきた!ウランの野郎!
ドカリと椅子に座って、さっきの事を思い出してみたが、ふんふん、なるほど、よく考えると悪いことばかりではない。
俺は鍵を開けて、外にいた秘書を呼びつけた。
「すぐに49支部に行く支度を始めろ!」
「は、はい。また視察でしょうか?」
「いや、違う。たった今49支部のウランをクビにした」
「え!ウラン支部長を!」
「そうだ!つまり今49支部は取締役が不在。そこで……俺が49支部の取締役をしてやることにした!」
「わ、わかりました。早急に支度します」
「おう、早くしろ!」
49支部。
本部に並ぶ業績の49支部。
弱小で暇なくせに何故か稼げる49支部。
そこに行けば業績や稼ぎは全て俺の手柄!
何なら一部の儲けは直接俺の懐に入れてもいい。
鷹の爪の金ということは、俺の金と同じことだ!
それに、あのムチムチのエルフ……ぐふふ……。
あの体を間もなく自分のものにできるかと思うと、よだれが止まらん!
あーまだ頬が腫れてるし痛い、
「おい!すぐ氷を持って来い!あと回復術師!一番優秀なやつ!……それと……パンツだ!俺のパンツを持って来い!」
「向こうに持って行く着替えであれば、もうバッグに入れてありますが」
「うるさい!いいからパンツを一枚持ってこい!」
くそ!いてぇし、屈辱だ!
だが……この痛さの分くらいの旨味は手に入れた。
あと胸のつかえといえば、俺に屈辱を合わせた連中に復讐をしてやることくらいだ。
「ぐふふ、ウラン、ついでにタクトだったか……お前らにはもっと地獄を見せてやるからな」
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