第20話 魔眼があれば剣聖も楽勝ってマジですか?

「とりあえずさ、姫様をどっか安全な場所に置かせてくれ。このままじゃ姫様にも危害が及ぶ恐れがある。それは俺にとってもお前にとっても本意じゃないだろ?」


「ほぉ。人質にするという方法もあったのに、ちっとは騎士道精神が通っていると見える!ここに侵入した技量といい、俺の部下に欲しい所だ!」


「そりゃどうも。それで、姫様は?」


「そこの長椅子を使え!」


一々大声で暑苦しい奴だ。


王城が就職先ってのも肩書き的に悪くないが、こいつの部下とかは嫌だな。


俺は姫様を大理石でできた長椅子に寝かせようとし、相手に背を向けたその時だった。


「うわっ!」


後ろを向いた剣聖は問答無用で俺を斬りつけてきた。


紙一重で回避する。


「おい!騎士道精神はどうした!」


「へ!戦い慣れしているかと思ったらとんだ甘ちゃんだ!どんな理由があろうと敵に背を向けちゃならねぇ!基本だろ?」


「あいにくずっと事務方だったもんで、戦いのイロハは初耳だ」


「一丁前に俺の剣撃を避けやがって。お前のような事務方がいるか」


まぁ剣聖様の意見の方がごもっとも。こっちは白昼堂々王城に侵入した賊。それも姫様を拐った疑いのある大罪人。


正々堂々勝負なんて考えは甘すぎる。


だが姫様は安全な所に避難させられた。


これで本気が出せる。


「さ、こっからが本番だ」


俺がそう言うと、剣聖は「クックク」と不気味な笑みを浮かべた。


「こっからが本番?いや違うね!もう終わってるんだよ!」


「はっ?どういうことだ?」


「それ」


そう言って剣聖は俺の左足を指差した。


左足に小さな傷がついている。さっきの剣撃でついたのか?


「こんな傷くらい、戦いに影響は……」


「ククク。俺のユニークスキル、とくとご覧あれ!」


そう言って剣聖はその場で軽く剣を振り素振りする。


「何を……ぐっ!」


左足に激痛が走る。


何だ、これ。


「こんなもんじゃねぇぞ!」


剣聖がもう一度剣を振ると、またも俺の左足に激痛が走り、俺はガクンと膝を落としてしまう。


「隙ありぃぃぃぃ!!!」


いつの間にか距離を詰めていた剣聖が容赦なく剣を振るう。


体勢が崩れたせいで完全には避けきれない!


体を逸らし、直撃を避けるが、俺は胸に剣撃を受け吹き飛ぶ。


「ぐはっ!」


「さあ、これで二発目!あと一発だ!」


俺はめちゃくちゃ痛いのを堪え、頭を働かせる!考えろ!考えろ!じゃなきゃ死ぬぞ!


何か剣聖の剣から見えない剣撃でも出ているのか?


それで傷のある場所に追尾する仕組みとか、だとしたら……。


俺は自分の傷をつけられた場所を強力な魔力障壁で覆った。


「強い魔力の動きがあるな。何かやってるようだが……」


そう言って剣聖はまた素振りをする。


無情にも俺の胸に激痛が走る。


違う、これは剣撃を飛ばすとかそういう類のものじゃない!


あいつが剣を振ると一瞬の間もおかず痛みが走っている!


「ゴハッ」


口から大量の血が出て、顔を隠すためにつけていた黒い布が外れる。


「お、思ったよりも男前じゃねぇか。残念だ。男前は嫌いなんだ」


そう言ってまた剣聖が剣を振る。


「ぐわぁぁぁぁ!」


「いい顔できるじゃねぇか。そういう顔が見たかった!」


そう言って剣聖は目をギラつかせる。


「何発耐えられるかな!いーち…」


剣聖は素振りをしながら俺に一歩ずつ近づいてくる。


もちろん素振りをするたび、俺には不可避の重い剣撃が与えられる。


クソ!回復と身体強化を続けて、何とか意識を保つので精一杯だ。


「しーち……はーち……意外と堪えるな。いいぞ!タフな男は嫌いじゃない!」


「いっそ……一思いに殺すって選択肢はないのか?」


「つれないこと言うな兄弟!俺主催のパーティーだ!もっと踊っていけ」


「サディストめ。騎士よりも拷問官の方が向いてるんじゃないか」


「そりゃあ無理だ。俺が拷問したら殺しちまう。さぁ、もうひと踊りしよう!兄弟!」


そう言って剣聖は俺を真一文字に斬りつけた。


俺は残った魔力を全力でガードに使う。


そのおかげで何とかダメージを最小限に防ぐ。


耐えろ!耐えれば必ず勝機は来る!


俺は口の中の血を剣聖むけてペッと吐き出した。


「つまらないパーティーだった。次からは不参加で頼む」


「まだまだ元気そうじゃないか、そうでなくちゃ!」


そう言って剣聖は胸に掲げるように剣を構え、俺を見据えた。


「パーティーに参加してくれた兄弟には、余興として俺の最強の技を披露させてもらおう!発動条件はちと難しい。直接剣撃を三回当てた相手しか対象にできない。だが、どんな魔法障壁でも防げぬ、どんな硬いものでも貫ける……最強の剣撃だ!!相手は死ぬ!喜べ!この技を誰かに見せるのは、実に三年ぶりだ!……行くぞ……無双、一閃……」


剣聖の剣が振られた。


それを認識する間もなく、俺の体は真っ二つになり、崩れ落ちる。


剣聖はその様子を見て、


「あーぐちゃぐちゃだ。後片付けが大変だ。おーい誰か、っていねぇのか、俺が来るなって言ったんだ、めんどくせぇ」


そう言った。


俺の亡骸に背を向け立ち去っていく剣聖。ホールの中を静寂が支配した……筈であった。


「敵に背を向けちゃならないんじゃなかったのか?」


「だ、誰だ?」


剣聖は誰もいない筈のホールに響いたその声にびくりと肩を震わせた。


肉塊になった筈の俺は血みどろになりながら立ち上がり、剣聖を見つめる。


「な、何だぁ!」


剣聖はすぐに俺に走り寄り剣を振り下ろす。


「ズシャァァァ」


またもぐちゃぐちゃにされる俺。


「はぁはぁはぁ、何だったんだ、こいつ」


「大丈夫か?急に取り乱して?」


「うわぁぁぁぁぁ!」


当然の様に立ち上がる俺に剣聖は恐怖の表情を浮かべる。


俺は剣聖の顔を見てケラケラと笑いながら言い放つ。


「いい顔できるじゃねぇか。そういう顔が見たかった!」


「な、何なんだ!お前!死ね!死ねぇぇぇぇ!!!」


そう言って剣聖はもう一度無双一閃を放つ。


もちろん俺の体は真っ二つになるが……


「おい、どうした?それを使えば相手は死ぬんじゃなかったのか?2回もやっているが俺はこの通りピンピンしているぞ」


「く、来るな!来るな!」


剣聖はやたらめったらに剣を振り回すが、俺は構わず奴に近づく。


「どうなってるんだ!うわぁー!!!!」


「種明かしをしようか?」


俺は1人で踊り狂う剣聖の真後ろに平然と立ち、そう言った。


もちろん俺は血みどろでもないし、一撃たりとも奴の攻撃は喰らったりしていない。


「って言っても聞こえてないか。本当にこの魔眼ってスキルは便利だよ。無詠唱がここまで役に立つとはね」


本来詠唱が長すぎて、実践ではほとんど使えないとされるクズ魔法。


そう、幻覚魔法だ。


幻覚魔法の詠唱は普通の魔法の数倍の長さで、魔法を使う前に術者が倒されてしまうという、何ともまぁ意味の見出せない魔法だ。


風俗店でこれを使って……とかいう店はあったな。


しかし魔眼を使えば、幻覚魔法の欠点である詠唱時間がゼロになるのだ。


1回目に傷をつけられた時も何もない。俺がこの部屋に入ってすぐに、もう勝負は終わっていたのだ。


「貴様が見たのは幻にすぎん!……なーんちゃって」


俺がそう独りごつ間も、剣聖は見えない何かと戦い続けている。


「うわぁぁぁ!!!」


「じゃ、精々1人ラストダンスを楽しんでくれ。俺は先約があるので」


そう言って、俺は剣聖を1人ホールに残し、その場を去ったのであった。

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