第7話 助けた亀に連れられて竜宮城に行けるってマジですか?

とにもかくにも仕事を探さなければ!


かといってどんな仕事でも良いと言うわけではないぞ!

別に選り好みしている訳ではない。


これには深い理由がある。


俺の就職の三つの条件


一つ、妹の仕送りをまかなえる、ある程度稼ぎがある仕事


二つ、妹に仕送りしなくちゃならない日が迫っているからすぐに採用してくれる仕事


三つ、妹の就職の邪魔にならないためにも、冒険者だけは絶対にやらない


冒険者と言うのは別に差別されていると言う訳ではないが、貴族とか大企業とかにはあんまりウケが良くない。


理由はずばり、安定しないから。


怪我をしたらしばらく稼ぎはゼロ。


その上ランクEの冒険者のお給金なんて、毎日働いてなんとか食べていける程度。


Dランクくらいから賃貸暮らしができるようになるかな?


そして冒険者のほとんどがこのEかDランクだ。


つまり世間から冒険者は安定しない職業。ギャンブルのような職業と思われているのだ。


妹はせっかく名門の魔法学校卒業する。

安定した素晴らしい職場に引く手数多なはず。


それにもかかわらず俺が冒険者などをしていたらきっと面接の時、


「えーっとお兄さんは……『鷹の爪』!凄いじゃん!え、でも解雇されてるね、なんかやっちゃったの?しかもその後冒険者……うーん、ちょっとこれは……」


と言う感じで、妹の邪魔になってしまう事は間違いない。


だから冒険者は避けたい!


でも安定した職業は、面接から何やら時間かかる。


結局、手っ取り早くまとまったお金を手に入れるには冒険者が1番なんだよな。


俺は一つの結論に達した。


偽名でバレないようにしばらく冒険者をやる!


冒険者と並行して面接活動もする。そして良い仕事が見つかったらそっちにシフトする。これでいこう!


冒険者としての活動は誰にもバレないようにやらなくてはならない。


だからこの街では少なくとも冒険者はできない。


どこか俺のことを全く知らない街に行く必要がある。


そうと決まれば早速旅に出よう!


俺は動きやすい服装に着替え家を飛び出した。


とは言え、俺はこの10年間ほとんど仕事続きで休みの日はずっと家で寝ていたりしたので、街を外のことをほとんど知らない。


だからどの街に行けばいいのか全然わからない。


適当に進もう!


なんか冒険者らしくて良いじゃん!風の向くまま気の向くまま。


俺はそこら辺に落ちていた木の棒を投げて、棒が倒れた方向に飛行魔法で進んだ。


しかし、進めば進むほどなんだか景色がおどろおどろしくなっていく。


どう見ても人が住めそうもない領域に突入してしまった。


いやー、これはさすがに間違ったかな?


引き返そうかと思ったその時だった。


「キャーー!!」


女性の悲鳴が聞こえた。


あっちの方だ!


俺は悲鳴の聞こえた方にすぐに駆けつけた。


すると、見たこともない紫色のクマを何倍も大きくしたようなモンスターに襲われている女性の姿があった。


クマみたいなモンスターだからとりあえずクマモンでいいか。


クマモンは鋭い爪で女性を切り裂こうとした。


「顕現(ケンゲン)せよ、土壁!」


俺が慌ててそう叫ぶと、女性の前の地面が競り上がり、土壁が出現した。


クマモンの爪の一撃は俺が出した土壁に防がれた。


「ふぅー、間一髪だった」


改めて、クマモンを冷静に見るけど大きいだけで、特に強そうなものでもないし、もう大丈夫だろう。


「大丈夫ですか、お嬢さん」


そうニッコリイケメンムーブで話しかけようと思ったのに、クマモンがヤケになって爪を振り回してくるから、仕方なく俺はお嬢さんを抱きかかえ、ぴょんぴょんと攻撃を避けながら会話を続ける。


「そう!そのまま逃げなさい!あれはベヒモスよ!単独じゃかなう訳がない!」


「へぇーベヒモスって言うんですか、あの魔物」


と会話のしているときに女性の姿をやっとまともに見た。


歳は14、15?青い瞳はちょっとつり目で気が強そう。


髪は金のブロンド、よく手入れされているようで美しいが、縦ロール?


平民で縦巻きロールなんて俺見たことないんだけど?


そして超美人、もしかしてこの方貴族の方だったりする?


貴族かどうか洋服の仕立てを確認しようと思ったが、洋服は所々破れて、裸体が見えちゃってるじゃん!


「あっすいませんすいません!今すぐ目をつぶります!」


俺は貴族っぽい娘さんを抱きかかえ、目をつぶったままベヒモスの周りをぴょんぴょんと跳ねた。


「キャーー」


「えっ!?ほんと違うんです!なんかヤバそうだなぁって思ったから助けただけで、痴漢とかそういうんじゃ……」


「そんなことで叫んでるんじゃないわよ!状況考えなさい!あんた、ちゃんと見なさいよ!」


「見ていいんですか!?」


俺は目を開けてマジマジ見つめる。


胸がほとんどあらわになっているじゃないか!


ユキちゃんほどじゃないが、なかなか色白で美しい。


手で押さえているから大事な部分までは見えないが……うーんエロい。


じっと胸を見つめていると、


「キャーー」


とまた叫ばれ、今度はビンタされた。


「どこ見てんのよ!!」


「いや、見て良いって言われたんで」


「どう考えたらそれで私の胸を見るって思考になるのよ!ほら、あっち!」


ああ、クマモン、いやベヒモスか。


「すっかり忘れてました。すいません。確かに邪魔なんで、やっちゃいましょう!」


俺はベヒモスのほうにくるりと向き直り、


「顕現せよ、石柱」


するととてつもない勢いで地面から岩の柱が突き出した。


突き出した石柱はベヒモスの顎に……クリティカルヒット!よし、狙い通り!


ベヒモスは顎に良い一発をくらい、ふらふらである。


「う、嘘でしょ!あんな短い詠唱で、上級クラスの地属性魔法?」


ベヒモス君は多分暫く動けないだろうが、追って来られても面倒なので、


「顕現せよ、炎」


俺がそう言うと、直径30センチほどの火の玉が50個ほど浮き上がった。


「えっ?今度は炎?土属性と相性の悪い火属性の魔法?」


「爆ぜろ」


俺がそう言うと、火球はベヒモスに向かい一気に飛んでいった。


コンマ数秒で全ての火球が着弾すると、モクモクと煙が上がった。


骨しか残ってないや。炎耐性もないなんて、やっぱ大した魔物じゃないな。


「ふー。これで落ち着いてお話ができますね」


「あ、あああ」


貴族っぽいお嬢さんは口を開けて呆然としている。


魔物と遭遇したの初めてなのかな?


そういう子は1人で外に出ちゃ危ないんだけどな。


貴族っぽいお嬢さんは呆然していたのも束の間、すぐハッとした様に、俺の方に向き直り頭を下げ。


「ありがとうございました。危ないところを」


と丁寧にお礼をした。


ちゃんとお礼が言える良い子じゃないか。


でも見れば見るほどすごい姿だな。


本当にこれはベヒモスにやられただけなのだろうか?


まるで誰かに強姦されそうになり逃げてきたといったような風貌だ。


体を隠している布はほとんど見当たらない。


おそらくいろいろパニックで、自分がほぼ裸のような状態である事を忘れているのだろう。


俺は飛行魔法を使うと寒いので、ちょうど厚手のマントを羽織っていた。


自分のマントをお嬢さんにかけてやる。


「それ羽織って!早く早く!」


お嬢さんはうちの妹より小さいし幼い感じだ。


そんなお嬢さんに劣情をもよおしていたら、妹に顔向けできん!


「ありがとうございます。強く崇高な方。ベヒモスを単独で倒すなんて。きっと有名な冒険者の方ですよね?SランクかAランク?」


いやー、めっちゃよいしょしてくるな。Sなんて片手で数える程しかいないのに。


お世辞でも気分良いよ!


あんな魔物1匹倒すだけでSランクになれたら苦労しない。


鷹の爪で冒険者登録して、「魔物1匹倒しました!」なんて言ったら。


「あと1000体は殺してこい。ランクアップはそれからだ!」


ってなるだろうな。


「申し遅れました私の名前はルイーズ・ド・ラ・ヴァリエールと言います」


「あー俺の名前はタクト。お嬢さんは苗字がついてるって事はやっぱり貴族なんだね。ヴァリエール?ヴァリエール、ヴァリエール……なんかどっかで聞いたことあったな」


「は、はい。実は私の父は……この国を統治しておりまして……」


「あぁ!そうだそうだ!ヴァリエール国王!なんで思い出せなかったんだろ…ってえええええええ!!!!」


お嬢さんはなんだか気まずそうにしている。


「ってことはつまり貴方様は……」


「は、はい。一応この国の姫という事になります」


俺はいったいいくつの不敬を働いてしまったのだろう。


光の速さで土下座した。

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