第3話 講義にグレイが現れた

俺は大学2年の安美 浩太(やすみこうた)。

大学の一般教養の授業は面白くないのだが、大学卒業には欠かせない。

しかし、そんな授業の中で唯一興味を惹かれる授業があった。

それは超常現象や未確認生命体を解明、考察をする授業。


教科書よりも映像での授業が多く、楽しみな授業だ。


今日は教授が現れてすぐに教室がざわついた。

理由は円柱形のアクリルケースに宇宙人グレイが入ったものを持って教室に現れたからだ。


教授は何事もないように教卓の横にグレイが入ったアクリルケースを置くといつもの様に授業を始める。


今日のテーマは宇宙人、それ以外にはないだろう。

教授がいつものように映像を準備して流し始める。

いつもは最前列の席は空席なのだが、グレイを少しでも近くで見ようと数人の学生は移動していた。


出遅れはしたが、授業終わりで見ることはできるので焦ってはいない。


教室が暗くなり映像が始まった。

アメリカのエリア51付近で未確認飛行物体(UFO)がよく目撃される話や墜落したUFOから出てきた宇宙人が連れられる映像が流れる。


普段、テレビ番組でもこの手のものは必ずチェックして見ている。

当然、講義の映像にも釘付けになった。

映像が終わり教室が明るくなり教室がざわつく。


なぜなら、アクリルケースの中にあったグレイがなくなっていたから。

“グレイは生きていたのか?それとも教授が隠したのか?“

教授が操作するパソコンの置かれた机の周りを見てもグレイはいない。

“どこへ行ったんだ?“


そう思いながら教室の中を探していると、俺の太ももを何かに突かれた。

ビクッと反応し、突かれた方を見るとグレイ。

「わぁ…… 」

と声を上げそうになる俺の口をグレイが押さえる。

「浩太、今日から一週間の授業のノート全部貸して!」

グレイは口を動かしてヒソヒソ声で俺にノートを貸して欲しいとお願いしてきた。

グレイの口はまるで本物かように動いている事に驚き凝視し、微動だにできない俺にグレイは続ける。

「ただじゃダメなのケチ!駅前のカフェでパフェで手を打たない?」


俺にそんな事を持ちかけてくるのは、この大学いやこの世に一人しかいないだろう。

それは幼馴染みで同じ大学に通う晴海 唯(はるみゆい)。

グレイは小さかったが、唯なら確かにあのくらいの大きさのグレイにもなれるだろう。


「いいよ唯、約束な!」

俺はグレイの頭を撫でながら言った。

唯はグレイの指の長さが均等でない手でOKサインを作って他の生徒からも見える位置に顔を出した。


真横でグレイの背中を眺めるが、今しがた会話をしたのに、この中に唯が入っている事が信じられなかった。

というよりどうやって着たのかも分からない。

継ぎ目どころか切れ目すら全く見当たらないのだ。

グレイは服も着ていないので簡単に見つかりそうなのものなのだが。

大きな目から中を覗くが全く中は見えない。


最後尾にいるグレイを見つけた学生が叫んで、俺に全学生の視線が一気に集まる。

唯、いやグレイは見つかるとすぐに独特な動きをしながら教授の元へと戻って行った。


教授は戻ってきたグレイの説明を始めたが、着ぐるみのリアルグレイが気になり学生は講義を全く聞いていないようだった。

それはまた俺も同じだったのだが。


グレイは登場の時と同じようにアクリルケースに収まると教授に運ばれて帰って行った。

教室を出る際、グレイは俺の方を見て手を振った。

俺もグレイに応えるように手を振った。


その後、友人たちに囲まれた事は言うまでもない。



講義にグレイが現れた 完


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