サマーロンダリング

@ayu3826

第1話 サマーロンダリング 

 「中国地方では、明日にも梅雨が明け、夏本番となるでしょう。みなさま水分補給を忘れずに楽しい夏休みをお過ごしください。」

 お天気お姉さんの涼しげな声をきいた後、私はテレビのリモコンを手に取り、何度か電源ボタンを連打した。

 「続いては、お昼の―」

 一月ほどリモコンの効きが悪いが、あまり気にしていない。薄暗い部屋にカーテンから光が漏れ、机の上にぽつんと佇む飲み残しの缶酎ハイを神々しく照らす。重い腰をベットから上げ、缶酎ハイ片手にキッチンへと向かう。缶酎ハイの残りを捨てた後、冷蔵庫を開け、最上段にある水に手を伸ばす。キャップを開け、口へと運ぶと水は凍っていて、雀の涙ほどの水が乾いた喉を潤す。さすがに満足できないため、仕方なく備蓄用の常温の水500mlを飲み干す。キッチンの机には、マンション清掃の案内やピザ屋のチラシが煩雑に置かれている。ベットの右手のカーテンを少し開けると、二日酔いには刺激の強すぎるまっすぐな日差しが目を焼き、すぐさまカーテンを閉め、部屋の電気をつけた。

 地元のいわゆる“自称進学校”の高校を卒業後、そこそこの大学に進学し、現在大学三年の私は、実質大学最後の夏を迎えようとしていた。―四年になるとおそらく就活やいろいろでそれどころではないからである―

 健全な大学生は、サークル活動に部活動、海水浴やオールでカラオケ大会など2か月の夏休みでは足りないほどのイベントを平然とこなす。しかし、あいにく私には大した予定もなく、唯一の予定といえば、曾祖父の三回忌のため実家に帰るくらいのものである。高校卒業後は親とも疎遠となり、大学一年の夏以来の帰省である。

 「明日の朝一の新幹線で帰ります。」

 ベットに腰掛け、母親に一言メールをした後、ふと目の前のカレンダーに目が留まる。薄れた記憶の中のかすかな一遍。一度見失えば二度と戻らない気がして必死に目を凝らす。サマーロンダリング。これは、私の夏を塗り替えたひと夏の思い出の物語。

 

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