第89話 勝利や感謝もまた報酬
「おぉ……あのドクロの魔物が……」
「消えていく……」
騎士達や冒険者達が消えゆくドクロキングを見上げていた。
私達はミッションが終わったので何食わぬ顔で討伐隊の下へ歩く。
そしてクリード王子が剣を掲げた。
「戦いは終わった! 僕達の勝利だッ!」
「オオォォーーーー!」
「やったぁーーー!」
クリード王子の勝利宣言後の歓声がすごい。
大はしゃぎして勝利を喜ぶ人や抱き合う人達、座り込んで涙ぐむ人。
うんうん。それはよくわかるよ。
私も報酬を手に入れた時の喜びは何物にも代えがたい。
存分で喜んで叫んで踊りなさい。
「騎士団長、死傷者の把握を急いでくれ」
「ハッ!」
騎士団長が各部隊と連携して仕事をしている中、私はようやく血塗られた魔法記録書を読み始めた。
ふんふん。内容はさっぱりわからない。
わから、ない?
「あれ? なんかすごいスッと入ってくる……」
「さすが師匠!」
「なになに? 魔道神界とは本来、人が持たざる力である。人外の力を人が借りたに過ぎず、それは魔法と呼ぶものの本質でもある」
「さすが師匠!」
なんか壊れたラジオみたいな子がいるなぁ。
これが私にとって有益な情報なのかな?
こんなことなら宝の在り処でも書いたほうが誰にとっても有益だと思うんだけど。
と思ったら、体中に力がみなぎってくる感覚を覚えた。
「あ、なんか魔法系の威力がすっごい上がった気がする。しかもこれ、回し読みできるっぽい」
「さすが師匠!」
「フィムちゃん。読んでみて」
「さすが師……え? 私がですか?」
BOTか。
フィムちゃんが読み始めて、ふむふむとすごく納得している。
段々と涙を流し始し始めた。
「ま、魔法って……そういうことだったんですね……。本来、これは人が持たざる力だなんて……」
「そこに泣く要素ある?」
「師匠。これ、大切に保管しましょう。おそらくあの魔道士協会が欲しがります。この事実をあの人達が知ってるのかはわかりませんが……」
「だろうね」
魔道士協会か。
改めて考えると、とんでもない人達だ。
神に選ばれし者とか思い上がって、ここまでの騒動を起こせるんだからさ。
きっとそれは何かしらの欲望が絡んでいるに違いない。
人は弱い。簡単に欲望に支配されるからこそ、己を律しなければいけないんだ。
己の欲を優先して誰かを傷つけるなんて、あってはならない。
私は常にそう考えている。
「マテリ。君達には礼を言いつくせない。後日、君達に報酬を渡そうと思う」
「っしゃあぁあーーーーーーー!」
これよ、これ!
人は報酬には抗えない!
とかはしゃいでいたら、ミリータちゃんがつんつんしてくる。
「マ、マテリ。あれを見ろ」
「ん?」
討伐隊一同が私達を見つめている。
なんでしょうか?
報酬の分け前なら絶対にあげないよ?
しかも死傷者の確認を終えた騎士団長がクリード王子に報告している。
そして私のところへ来て頭を下げた。
「驚くな。なんと死傷者はゼロだった。今回の戦いは君達のおかげで勝てたようなものだ。彼らの装備は君達が用意したのだろう?」
「そうですね」
「対アンデッド用の装備がなければ、我が国は壊滅の危機に陥っていただろう。すべては魔道士協会に迎合していた我々の責任だ。討伐隊を代表して礼を言う」
「あ、改まってどうしちゃったんですか」
騎士団長が私にここまで言うなんて。
そりゃそうか。
いくら頭髪の恨みがあると言っても、この人は騎士団長。
これだけ世話になったんだから、感謝の気持ちくらい示すよね。
本当は報酬の一つでも欲しいけど、さすがにここで要求するほど無粋じゃない。
それから騎士団長の後ろで冒険者達が拍手をし始めた。
「ありがとう!」
「これで冒険者生活を続けられる!」
「俺も今回の戦いで自信がついたよ!」
おぉ、なんだかこんなにたくさんの人達からお礼を言われるのは新感覚。
ファフニル国では聖女とか崇められていたけど、こっちはダイレクトに感謝してるのが伝わる。
やだ、私がこんなので泣きそうになるなんて。
「今にして思えば、君達はこうなることがわかっていたのかもしれないな!」
「クククッ! だから言っただろぉ? マテリってやつはなぁ……」
「女神なのさぁ! ヒャーーハッハッハッハァ!」
一部、人格に支障をきたした方々も健在のようです。
いつしか歓声は私に向けられていた。
悪い気はしない。
ふと隣を見るとクリード王子が並んで立っている。
「皆! 今日のことを決して忘れないでほしい! この勝利を……未来を紡いだのは君達、そしてマテリ達だ!」
「オオォォーーーーーーー!」
よかった。
大勢の前で僕の嫁とかほざいたら殴り殺すところだった。
こうしてみると、まぁ王子って感じはする。
何にせよ、これでミッションは終わった。
いや、終わっちゃダメだからね?
忘れてないよ?
グランドミッションは?
ねぇ?
やばい。急に気になり始めた。
「マテリ。今回の勝利を国中に広めたい。同時に魔導士協会がやったことを周知させるんだ」
「あ、はい」
「これによって魔道士協会の悪事はエクセイシアのみならず、大陸中に広まるかもしれない。そうなった時、彼らが何をするかは予想できないだろう」
「うん」
なんか話が頭に入ってこない。
そんなものよりグランドミッションは?
ダメだ。また手が震えてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます