第86話 禁断症状かもしれない
颯爽と駆けるワンコが
加速的にミッションクリアまで導いてくれるありがたいワンコです。
後で骨とか与えたら喜ぶかな?
「な、なんだこの魔物は!」
「敵なのか!?」
「いや、よく見ろ! アンデッドだけを狙っているぞ!」
スカルドラゴンらしきアンデッドがバリバリとワンコに噛まれている。
同時に大きな足で他のアンデッドを蹴散らして無双状態だ。
とはいえ、あれだけの数だから達成には少し時間がかかるはず。
「クリード王子。行きましょう」
「マ、マテリ。戦場が混乱する……できればこういうのは事前に話してほしかった」
「それはごめんなさい」
「……いや、助けてもらっておいて僕のほうが失礼だったか。すまない、行こう」
クリード王子が先頭に立って走り出す。
アンデッドの群れがレベルブレイクで無力化されて、あっという間に古城の入口が見えてきた。
門の前にいたスカルドラゴンが口を開けてブレスを吐き出す。
「ファイファボォッ!」
「オォォ……!」
あんなもんより中にいるであろう報酬だ。
門をファイアボでぶっ壊して突入した。
「これがマテリ、君の強さか……やはり」
「そうですよ行きましょう」
またろくでもないこと言いかけたから遮った。
よし、いよいよここから報酬へ一直線だ。
* * *
「どうした。バストゥール……。コーヒーの淹れ方も忘れたのか?」
アンデッド化した魔道士にコーヒーを淹れさせる。
こんな嗜みは世界広しと言えど、俺にしかできないだろう。
歴史あるこの古城でのひとときは実に至福だ。
気に入った。下らん連中が片付いたら、ここを別荘地としよう。
「この腐臭が入り混じったコーヒーの香り……最高にリラックスできる」
「オォ、オッ、ウォォ……」
「バストゥール、菓子を用意しろ」
「オッオッ……」
かつては支部長にまで上り詰めた男の末路としては惨めだろうな。
しかしこれはむしろ光栄と考えるべきだろう。
何せ数多の生命は惨めな最期を遂げる。
死者として弔われずに腐敗して自然に還り、或いはケダモノに食い散らかされる。
それに比べたら、偉大なる六神徒に仕えること以上の名誉などないだろう。
それに元魔法生体研究所の所長であるクルスも同様だ。
その知識を役立てることはできないだろうが、今は肩を揉ませている。
アンデッドマッサージは本当に気持ちがいい。
「何やらこの古城に攻めてきた烏合の衆がいるが、あの数ではどうにもならん」
「オォオッ、オッ」
「バストゥール。お前もそう思うか」
「オッオッ」
こいつに結界魔法を張らせている以上、奴らがここに辿りつくのは至難の業だろう。
実に愉快だ。どうだ、凡人ども。
生も死も俺の思うがまま、何人たりとも抗うことなどできん。
これが強者の特権だ。
「誰もここには」
「ファイファファッファァーーーーーー!」
「ううぉっ!?」
天井がぶち抜かれて咄嗟に構えてしまった。
なんだ? 老朽化か?
いや、今の奇声は?
そしてバストゥールはどこにいった?
「タルタロスの羽衣と血塗られた魔法記録書ゲットォーーーー!」
「マテリ、あまり先走った行動は……」
天井の穴から下りてきたのは年端もいかない少女だ。
そして正面から歩いてきたのが見間違えるはずもない、クリード。
なんだ、あの落ち着きようは?
それにバストゥールとクルスはどこに行った?
まさか奴らのスキルか?
だとすれば、こんなバカなことはない。
一瞬で対象を消し去るスキルなど、存在を許していいはずがないのだ。
「お前が髑髏魔道士ズガイアか」
「これはこれはクリード王子、こんなところまでご足労いただけ」
「ファイアボァーーーー!」
「グゥアアァーーーー!」
なん、だ。今の、は。
この、私が、何を当てられた?
「マテリ。彼と少し話がしたい」
「えー?」
「魔道士協会の真意がわかるかもしれないからね」
「そんな何の報酬にもならないことが知りたいんですか」
ク、ククッ。
すっかりこの私を制圧したようだが甘い。
この髑髏魔道士ズガイアをその辺の凡骨魔道士と同じと思うな。
このズガイアの身体はすでにアンデッドと同等なのだ。
それも生半可なものではない。
文字通りの不死、つまり不死身だ。
いかに体が損傷しようが、私を死の淵に落とすことはできない。
それにいざとなればアレを使えばいい。
魔術師の到達点であるあれを解放すれば、王子もろとも始末できる。
「ズガイア。なぜ我が国を襲った?」
「この国は知ってはいけないことを知ってしまった。故に滅んでもらうまでよ」
「魔法生体研究所のことか?」
「よくわかっているではないか」
そう、こいつらは知ってしまった。
あの計画の――。
「ちぇやぁぁぁッ!」
「ぐあぁッ!」
い、いきなり殴られたぞ。
この娘、頭がおかしいのではないか?
「マ、マテリ。まだ止めを刺すな!」
「えー? だって話が長くないですか?」
不死身の身体でなければ死んでいたぞ!
まさかこいつがバストゥールが言ってた少女か!
なるほど。野蛮なわけだ。
だが私は死なない。そして痛みも感じないのだ。
「それでその魔法生体研究所を使って、魔導士協会は何をしようとしている?」
「知りたいか? それは」
「とりゃあぁぁッ!」
「がはっ!」
ま、またか!
話している途中だろう!
さっき止められたばかりだろう!
「マテリ! 落ち着け!」
「なんかこう、手が震えて……そろそろ我慢の限界です」
「わかった! すぐに終わらせるから!」
王子がこの態度だと?
それにこの威力、確かにステータスが四桁に到達しているかもしれん。
痛みを感じないこの身体だからこそ耐えられたのだからな。
仕方ない。ここはやはりアレをするしかない。
「喋り過ぎたな……。ではクリード王子、一つ聞こう。魔道真解を知っているか?」
「……一部の魔道士が使える究極の到達点、か? 聞いたことはある」
「そう、魔道士の頂点に到達した者がぐぶはぁッ!」
「マ、マテリ……」
だから、まだ、説明してるのだが。
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