第84話 決戦前夜
グリンデア古城。
大昔、この地にあった国のお城だとか色々言われているけど詳しいことは不明らしい。
無駄に大きくて、元々アンデッドなんかも徘徊していたけどズガイアのおかげで活性化した。
遠くから確認するだけでも、城の周辺はアンデッドで埋め尽くされている。
とても騎士団だけで対処できる数じゃなくて、エクセイシア建国以来の大決戦になるとクリード王子は言っていた。
今はエクセイシア城の会議室であーだこーだ言ってる。
私達も強制参加なんだけどすでに眠い。
報酬にもならないこんな話し合いをグダグダと二時間以上もやってるんだからそりゃ寝る。
ミリータちゃんが。
だってずっと鍛冶のお仕事をしていたんだから、しょうがないよね。
あぁ私も眠い。落ちる、落ち――。
「マテリの助力もあって今回の大規模レイドミッションは」
「ミッション!?」
「マテリ、どうした!」
「いえ……」
一瞬だけ目が覚めた。
ミッションなんて聞かされてるんだから当たり前だ。
膝を叩いたらカクンってなるのと同じで、こんな条件反射に抗えるわけがない。
「ファフニル国のブライアス隊と勇勝隊、それになんと魔王の協力を得られるらしい」
「それは素晴らしいことですが魔王とな……」
「言いたいことはわかる。しかし今回の件はすべて我々王族が責任を持つ。よってこれに関する異論は認めない。では次……。少し気が早いが各自の報酬は」
「報酬ッッ!」
またガバッと起きてしまった。
王族達や大臣達、騎士団長にすごい見られている。
なんだ。私への報酬の話じゃないか。
おやすみ。
「冒険者の方々には別途、冒険者ギルドを通じて……まぁそんな感じでいこうと思う」
私のせいで変な空気になった。
クリード王子、そこ濁さないでね。一番大切だからね。
「……どうも緊張感がない」
「まったく……」
「若い者にはわからないのでしょう。頭髪の悩みも含めてな」
すみません。だから私達が参加する必要ないって言ったんです。
あと最後のセリフは騎士団長ですよね?
こういった場で私怨を持ち込むのは感心しませんね。
「それで、イグナフ領主の手筈はすでに整っているとのことだ。周辺の町や村には警備を配備して、討伐隊の編成も終えている。我ら本隊も明日、王都を発つ」
「大混戦を予想して波状攻撃を仕掛けるとのことでしたな。残る議題は古城内の戦力が未知数とのことでしたか」
「そうだ。あのズガイアはもちろん、隠し玉のように強力なアンデッドを従ている可能性がある。レベル100超えもあるだろう」
「そ、それは聞いてませんぞ! 100超えなど、我ら人間の領域に現れてはいけない未知の怪物……」
その100超えの未知の怪物はテーブルに突っ伏して涎を垂らして寝てます。
フィムちゃん、ここは寝る場所じゃありませんよ?
「そこで、だ」
場が静まった気がした。
このうとうとしている時が最高に気持ちいい。
「僕もスキルを解放しようと思う」
「お、王子! それはつまり……」
「僕が前線に立つ。皆は後ろをついてきてほしい」
「なりませんぞ! あなたは国を担うお方! 陛下も了承しておられるのですか!」
「これは僕の意思だ。今回の大規模レイドミッションは」
「ミッション!」
また起きてしまった。
そろそろごめんなさい。ベッドに行って寝ますね。
「マテリ。君は僕についてきてほしい」
「は? ぶっ飛ばします?」
「ち、違う! 今回の戦いは僕達と行動を共にしてほしいと言ってるんだ!」
「なんだ。最初からそう言ってくださいよ」
「主力は僕達だ。戦いの場は混戦状態になるだろう。だから僕達がグリンデア古城に突入して、ズガイアを叩く」
これはどうしよう?
クリード王子と戦うのはいいんだけど、そうなるとミッションが発生したら身動きが取れなくなる可能性がある。
だったら、いや。あぁそうだ。
私にはあの子がいる。
「いいですよ。ただしズガイアは私が倒します」
「よかった! ありがとう! あのズガイアさえ叩けば、アンデッドも停止するはずだ」
そんな感じで夜はお城で運動会みたいなことになってるグリンデア古城を私達が攻略するらしい。
臭いとかすごそう。
アンデッド対策はまずそこだと思う。
* * *
「マテリ、少しいいか?」
「ダメです」
王宮に泊めてもらったのはいいけど、クリード王子が扉をノックしてくる。
アンデッド討伐報酬が気になって目が冴えていたからちょうどいいか。
クリード王子と一緒に王宮のテラスに出た。
あの夜空の星がすべて報酬だったらいいのに。
「マテリ。すまない」
「はい?」
「僕は自分のことばかり考えていた。君の気持ちを考えず、愛ばかり押し付けていた」
「そうかもしれませんね」
何を言い出すかと思えば今更だ。
悪い人じゃないのはわかるけど、私にそういうのはわからない。
それを差し引いてもこの人が気持ち悪いというのもあるけど。
「今回の件、どう礼をしていいのかわからないほど世話になった。隣国とのパイプ役にもなってくれて頭が上がらない」
「それはわかりました。それでどういったお話ですか?」
「お願いがある。僕を見てほしい」
「はい、さようなら」
「ち、違うんだ! 僕が戦うところ……ありのままの姿を見てほしいんだ!」
なんだ、そういうことか。
報酬の話じゃなかったのは残念だけど、色々とお世話になったからね。
断る理由がない。
「僕は自分のスキルが嫌いだ。スキル一つとっても恵まれているなどと陰口を叩かれるのが嫌だった。だから僕はスキルを封印してきた。剣術、学問、礼儀作法……一切手を抜かず、王として相応しい自分を目指したつもりだ」
「どんなスキルなんですか?」
「それは……僕の戦いで見せたいと思う。だからこそマテリ、君を見て決心がついた」
「と、言いますと?」
「君は媚びずなびかず、一切の遠慮がない。自分を常に解放している。そんな君を見て、僕は自分のやってることがバカらしいと思った。だから……僕は君の真似をしたいと思う」
クリード王子が夜空を見上げている。
まさか星が報酬に見えた?
「偽りのない僕を見てほしい。ただそれだけだ」
「……そうですか。いいですよ。クリード王子がいい人なのはわかりますからね」
「マテリ……」
「あ、そういうのは期待しないでください」
思った以上に真面目な人だ。
なんでこんな人が私を好きになった。
どうしてこうなった。
今も尚、私の中にあり続けるクリード王子への疑問だった。
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