第81話 亡者装備、実演させます

「毎度ありぃ! またのお越しをお待ちしてるべ!」

 

 オラは王都で店番、マテリは出張営業。

 この二段構えの商売はなかなか順調だ。

 人が多い王都なら優秀な冒険者が立ち寄って、気前よく買ってくれる。

 中にはうわさを聞きつけた貴族が直々にやってきて大人買いしてくれるんだからありがてぇ。

 ポツポツと上客がついたおかげで、大量の注文をしてもらえることも増えた。

 こっちは何も心配ねぇ。

 まぁたまーにトラブルがないこともねえんだけど。


「おう! クソガキが! 誰に断ってここで商売しとんじゃゴラァァーー!」

「ほい、王印証」

「あん? なんだそりゃ? ガキのごっこ遊びの玩具かぁ?」

「はぁー……商売において大切なことがあるんだなぁ」


 オラは店を持ちたいと夢見ていただけあって、それなりに心得っつうもんを知ってる。

 ていうかこの王印証、あんまり役に立たねぇ。


「あぁ!? てめぇ少し痛い目に」

「どるあぁーーーー!」

「グハァァッ!」


 こんなもん槌でまとめてぶっ飛ばして終わりだ。

 商売において大切なこと、それは治安維持。

 チンピラが集まる店なんてチンピラしかよってこねぇ。

 悪質なクレーマーは相手にしねぇでとっととぶっ飛ばすに限る。

 幸いクリード王子も了承してくれてることだ。

 それにこれは悪いことばかりじゃねぇ。


「君、やっぱりめちゃくちゃ強いな!」

「光の槍を二本くれ!」

「その槌がほしい! いくらで売ってくれる!?」


 売らねぇ売らねぇ。

 ああいうトラブルも解決すればちゃーんと見てる奴には届く。

 ろくでもねえ客気取りを弾くのは商売の鉄則だ。

 おかげで今のがいいパフォーマンスになったのか、より人の目を引いた。


「アンデッドには本当に困っていた。せめて聖者の十字架だけでも買おうかな」

「ていうかたっけぇ!」


 ま、売値は見逃してくれ。

 手間も暇もかかってる。

 それをここで証明してんだからな。


「じゃあ今から鍛冶の実演といくかー!」

「おぉぉーーー!」


 パフォーマンスは商売において大切だ。

 料理だって実演して見せればうまそうに見えるべ?

 これもちょっとしたテクだな。

 マテリ、おめぇのほうはうまくやってるか?


                * * *


「気張っていこぉーー!」

「おぉぉーーーー!」


 話し合いの結果、冒険者達が亡者装備の実演販売に協力してくれた。

 フィムちゃんが実演するだけじゃなくて、冒険者自らがアンデッド討伐をすることで購買意欲を掻き立てる。

 今や冒険者軍団と呼んでも相応しい人数だ。


「クククッ……この切れ味、早く試してみてぇなぁ」

「次はどのアンデッドが光の剣の錆になる? ヘヘッ!」

「たまんねぇなぁ! ヒャーーッハッハッハァ!」


 なかなか元気でよろしい。

 一部、人格に影響が出ている方々もいらっしゃるけどまったく問題ないね。

 これは完全に報酬中毒ですわ。


「おい、ジャリ娘ども! なんで俺達がこんなことを!」

「あのね、紅の刃諸君。あなた達は冒険者だよね?」

「当たり前だろ!」

「だったら広い視野で物事を俯瞰しないとダメだよ。紅の刃がリーダーシップをとれば、より冒険者達からの信頼が厚くなる。そうなれば特級冒険者だって夢じゃないよ?」

「と、特級……」


 特級という等級があるらしい。

 冒険者の中でも一握りしか到達できない頂きで、その実力は単独でレベル100を討伐できるほどだとか。

 決戦級とも言い換えられて、特級冒険者が動けばあらゆる情勢が塗り替わるとまで言われている。

 そんな感じで国王からも直々に認められている例外枠みたいな人達だとフィムちゃんが言っていた。


「特級……。ボクもいつかは必ず……」

「フィムちゃん、冒険者登録してたっけ?」

「あっ」


 だよね。何せずっとレベル上げに勤しんでいたからね。

 ていうかあのスキル脳の王様、それくらい気を利かせて登録させたらよかったのに。


「あそこで冒険者パーティがアンデッドの群れと戦ってる! 皆、見せつけなさい!」

「オラァァーーー!」

「死ねやぁーーー!」


 冒険者達が押し寄せて、あっという間にアンデッドをほぼ全滅させた。

 うんうん、以前なら苦戦必至だったのに成長してくれて嬉しい。

 これも日頃の鍛錬の賜物だね。

 そんな人達のあまりの強さに、助けられた冒険者パーティは呆気に取られている。


「なんだ、なんだってんだ!」

「おいぃ、この光の剣ってやつがなぁ……これがなぁ……なんだと思う?」

「いや知らねぇよ! お前ら誰だよ!」

「ククッ……こいつでアンデッドを一撃で斬るんだぜぇ? 試してみたくねぇか?」

「いや、別に……」

「クククッ! 強がってもわかるんだよぉ……本当は気になってしょうがねぇってなぁ! こいつが欲しいんだろぉ?」


 助けられた冒険者が圧倒されて何も言えない。

 うん、同情するよ。

 まったく誰のせいだか。


「その剣が、か……?」


 ごくりと唾を飲んだ冒険者に光の剣が手渡された。

 そして残りのアンデッドに斬りかかって瞬殺。


「こ、これはすげぇ!」

「だろぉ!? あそこにいるマテリの姉御なら快く売ってくれるぜぇ?」

「おい、そこのマテリとかいう」


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ミッションが発生!

・アンデッドナイト×2を討伐する。報酬:亡騎士の勲章×2

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「っしゃああぁあぁーーー!」

「え……な、なんだ!?」


 よろよろと現れたアンデッドナイトに飛びかかる。

 杖で兜ごと勝ち割って、もう片方も鎧をぶち抜く。


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ミッション達成! 亡騎士の勲章×2

効果:アンデッドを倒した時、一定確率で亡者の欠片を落とす。

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「金策はかどるぁーーーーーーーーーー!」


 あまりの嬉しさで亡騎士の勲章を高々と掲げる。

 冒険者達が亡騎士の勲章に注目して、そして拍手した。  


「つ、つえぇ!」

「これが亡者装備よ!」

「姉御は俺達の女神だぁーーーーー!」


 皆が歓喜して、次々と冒険者が亡者装備の虜になった。

 このチームは各地に散ってもらって、亡者装備の真価を知らしめてもらうことになる。

 残っている亡者装備もわずか。いよいよミッション達成が近づいてきた。

 それはそれとして、なんかテンション上がり過ぎて聞き捨てならない言葉が聞こえたような? まぁいいか。

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