第80話 俺達は紅の刃、一級冒険者パーティだ。覚えてるか?

 俺達は紅の刃、それなりに名が通った一級冒険者パーティだ。

 一級といっても一般の連中には伝わりにくいと思う。

 冒険者になるには冒険者ギルドに登録料を支払って登録を済ませるだけでいい。

 この時点では六級、魔物討伐の依頼を引き受けられないビギナーだ。

 そこから階段のように各昇級試験に合格して昇級すればいいが、上にいくほど狭き門となる。

 何せ三級の時点で冒険者登録をすませた奴のうち、三分の一も残ってない。

 昇級できずに辞める奴、食っていけなくて止める奴、死ぬ奴。

 これだけ挫折ポイントがあるのに冒険者になろうとする奴は後を絶たない。

 なぜだと思う?

 一級冒険者ともなれば稼ぎが尋常じゃないからさ。

 貴族の依頼だって引き受けるし、気に入られたら仕事を優先的に回してもらえる。

 中には七代先まで遊んで暮らせる金を稼いだ奴もいるんだから、そりゃ次から次へと志望者が出てくるわけだ。

 大半が夢破れて、命すら落とすってのにな。


「俺達は一級冒険者! 選ばれし精鋭! だよな?」

「そうよ、フレイド。私達には一攫千金を手にする資格がある」

「おうよ! 俺たちゃ無敵! グハハハハ!」


 リーダーの俺、フレイドはイケメン剣士。

 剣術に関しちゃタイマンなら負ける気はしない。

 実際、全等級を含めた冒険者合同訓練の模擬戦じゃ俺に勝てる奴はいなかった。

 リンダは美人魔道士。見た目はいいが金に汚いのが欠点だ。

 魔道士協会は搾取がひどいとか言って所属していない。

 グハハガハハ笑いのダイアンはヒーラーだ。

 ヒーラーに似つかわしくない筋骨隆々の大男で、その気になればメイスで魔物なんて叩き殺す。

 

「今日の獲物はフレアドラゴンだ。こいつの討伐報酬がありゃ当分は遊んで暮らせるぞ」

「うーふふふふぅ……涎しか出ないわぁ」

「鱗とかの素材も高いんだろう? ガハハハッ!」


 ダイアンの言う通り、フレアドラゴンの鱗には希少価値がある。

 一枚で半生は生きられる金が得られるってんだから、冒険者は止められねぇ。

 おっと、だからといって一級でもない奴らが討伐に向かうのは死にに行くようなもんだぜ?

 身の丈に合わない討伐依頼を引き受けた奴から死んでいくのがこの世界だ。

 その点、俺達は違う。

 若くして一級の昇級試験に受かったんだからな。

 同じ十代で一級に上り詰めた奴なんざ、蒼天の翼くらいだろうな。

 あと他になんかいたっけ? わかんね。


「フレアドラゴンはここ、ベレンドル火山の火口から生まれたドラゴンだと言われている。俺達なら余裕だろう」

「氷魔法で冷やしちゃえばいいのよ」

「頼りにしてるぜ。ダイアンはいつも通り、回復に徹してくれ」

「おう!」


 リンダが舌なめずりをして、今か今かと魔物を待ち構えている。

 そろそろ火口が近い。

 いよいよフレアドラゴンのお出ましか。

 腕が鳴るぜ。こういう相手こそが紅の刃に相応しい。


「おい、フレイド。あ、あれがフレアドラゴンか?」

「ん……なんだありゃ?」


 頂上にて、俺達を出迎えたのはフレアドラゴンのそれとは大きくかけ離れていた。

 鱗が剥がれ落ちて、翼がボロボロで飛べる状態じゃない。

 空洞の瞳、それに口から乱杭歯を覗かせている。

 そしてこの暑さも相まって、腐臭が半端なかった。


「こ、こいつまさかゾンビ化してやがるのか!」

「くっさぁぁ!」

「おい! やるぞ! ガハハハッ!」


 ドラゴンゾンビかよ。

 そういえば最近、アンデッドが増えているって話だったか。

 俺達の実力なら問題ないと思ってたが、ドラゴンゾンビはちょっと面倒だ。

 生前以上にしぶとい上にドラゴンご用達のブレスも健在だからな。

 が、俺にはこれがある!


「ドラゴンスライサァーー!」

「アイスエイジッ!」


 剣士の中でも一部しか使えないと言われているドラゴン特効の技だ。

 こいつでぶった斬る! が――。


「完全に入ったはずだぞ!?」

「ブレスがくるわ!」


 手応えはあったはずだ。

 こいつさえありゃ楽勝だと思ってたのに。

 ダメだ、避けきれない!


「冷凍剣……コキュートスッ!」

「グウォォーーー!」


 ドラゴンゾンビが真っ二つに裂かれて断面から凍りついていった。

 一刀両断したそいつが着地した後、分かれたドラゴンゾンビがそれぞれ倒れる。

 とんがり耳が目立つそいつは見たことがあった。


「さすがフィムちゃん、光の剣は強力だね!」

「師匠、この光の剣は買いですよ!」


 こ、こいつら!

 なんでこんなところにいやがるんだ!

 いつもいつもいつも!


「あれぇ? そこにいらっしゃるのは一級冒険者パーティの……えっと、うーんと。あ、そうそう……」

「師匠、紅の刃です」

「あーそうそう! 奇遇だねぇ!」

「いやなんですぐ思い出せねぇんだよ!? 散々やってくれたくせによ!」


 マジで何なんだよ、こいつら。

 行く先々に現れやがって。

 そもそもこいつら絶対冒険者じゃねえだろ。

 いや、人間かどうかすら怪しい。

 こいつらのステータスは普通じゃねえからな。


「紅の刃さん。何かとアンデッドが大変なご時世ですよね? そこでこちらのフィムちゃんが使っていた光の剣はアンデッド特効! 実演して見せたように瞬殺できる!」

「アンデッドスラーッシュ!」

「そうそう、この光の剣ならドラゴンゾンビだって怖くない!」


 こいつらまさかその光の剣を売ろうとしてんのか?

 ふざけやがって。


「お一つ、5万ゴールド! と言いたいところですけど、ベレンドル火山特価で49900ゴールドに!」

「な、舐めやがって……」

「だけどフレイドよぉ。さっきのはマジでやばかったぜ。ただのアンデッドならともかく、ドラゴンゾンビはやべぇよ」

「ぐぬぬ……」


 確かにあれはやばかった。

 やばかったがこのタイミングで現れて押し売りするか!?

 そもそもあんな高性能の剣を売りつけようってのが怪しい!

 俺は絶対に――


「亡者のマントに常闇の胸当てかぁ! とりあえず一つずつ買うぜ!」

「ダイアンンンンン!」

「聖者の十字架、おしゃれじゃない? 買うわ」

「リンダアァァァーーーー! 勝手に金を使うなぁーー!」

「いいじゃない。それにあの光の剣でアンデッド討伐をすれば、より効率が上がるじゃない? そうなったらますます私達の評判が上がるでしょ」


 そうか。そうなんだが。

 それでも俺は――


「ま、またドラゴンゾンビだぁ!」

「ウッソだろぉ! おい、ジャリ娘ども! 出番だぞ!」

「さようならー」

「ああぁあぁーーー!?」


 あいつらマジで帰りやがる。

 待て、クソ! あああぁ!


「買う! 買うからぁーーー!」


 こうして俺は負けた。

 いや、ドラゴンゾンビには勝ったが勝負に負けた。

 しかもマジで高性能なものだからケチのつけようがない。

 あいつらは悪魔なのか天使なのか。

 そもそもなぜあの強さで冒険者登録をしない?

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