第79話 亡者装備、買わせます

 王都に移店、じゃない。移転して正解だった。

 単純に人が多いから、亡者シリーズが飛ぶように売れる。

 価格設定はミリータちゃんにお任せしているけど、私感覚ではバカ高いと思う。

 光の剣と光の槍が一本五万ゴールド。

 RPGでいえば終盤の町に着いたけど高すぎて買えないみたいな感覚だ。

 常闇の鎧が六万五千、胸当てが四万。

 亡者のマントが四万八千、嘆きのお守りが二万。聖者の十字架が三万六千。

 こんな価格設定なものだから当然、ぼったくり呼ばわりするのもいるわけで。


「おうコラァ! さすがにこの価格は納得いかねぇなぁ!」

「おめぇ、よく見ろ。手に取ってみろ。おめぇほどの冒険者ならわかるはずだ」

「あん? どういうことだ……」

「一流の冒険者ってのは一流のアイテムを見抜く。手に取って感じてみろ」

「なるほど! わかった! こいつは一級品だ!」


 一流の冒険者というフレーズで気をよくした冒険者が手の平を返した。

 ミリータちゃんも悪よのう。

 私じゃとてもそんな邪悪な売り文句は思いつかない。


「光の剣を二本、もらおう」

「お目が高い! 格が伝わるべ!」

「こっちは亡者のマントを三つ」

「さすがだ! 一流は一流を呼ぶ!」


 あれ?

 もしかしてミリータちゃん、商売上手?

 私としてはお客さんとケンカするイメージがあったんだけどな。

 そういえばこの子、店を出したいとか言っていたっけ。

 口だけじゃなくてきちんと商売のやり方を心得ているのがすごい。


「光の剣、四万八千ゴールドなら買いたい」

「いやぁその金額だとオラ達、破産しちまうからなぁ!」

「じゃあ四万八千五百でどうだ?」

「んん~~~!」


 なにこれ。

 私ならしつこく値切ってきた時点で杖による平和的解決を試みるよ。

 大体ね、このアイテムを作るのにミリータちゃんがどれだけ苦労したと思ってるのさ。

 この数日間、睡眠時間を削って鍛冶に打ち込んだんだからね。

 そうなると食事は私達がサポートする必要がある。

 フィムちゃんが食事を作って、私が頑張って味見をしてミリータちゃんを支えたんだ。


「四万八千九百でどうだ!?」

「あのさ、これ一本作るのにどのくらい苦労すると思う?」

「な、なんだ?」

「素材は一部のアンデッドからしか採取できない亡者の欠片と亡者の十字架を使ってる。冒険者ならどれだけレアかわかるでしょ?」

「ゲッ! 亡者の欠片といえばレベル70超えのデュラハン討伐が必須じゃないか……」


 それはさすがに知らなかった。

 クリア報酬、あんたすごいね。

 一つ手に入れるだけでも死傷者を覚悟しなきゃいけない代物だと、近くにいた冒険者が教えてくれた。


「マテリ、おめぇ余計なこと」

「ミリータちゃんは黙ってて」


 ミリータちゃんの労苦を一ゴールドすら安く見積もらせるつもりはない。

 群がってきた冒険者が顔を見合わせている。


「そ、そんなもので作られたのがなんでこんなにあるんだよ!?」

「そうだ! デュラハンなんて国内にいないだろう!」

「デュラハンといえば北東の国にあるラスタイン城跡が有名だ。魔物の平均レベルが70の魔境……お前らがそんなところに行ったってのか?」


 冒険者達が口々にあーだこーだ言い出した。

 私が杖を思いっきり床に叩きつけると、破片が盛大に飛ぶ。 


「このくらい強くても説得力ない?」


 ご清聴ありがとうございます。

 すぐに静かになりましたね。


「ご納得いただけたのならどうぞ、お買い上げお待ちしております」

「て、定価でいい」

「こっちは亡者のマントを……」

「光の槍を定価で買いたくてしかたない」


 さすが歴戦の冒険者、きちんと商品価値を理解している。

 長年の経験と勘をもってすれば、そんなものは簡単ってわけね。

 より冒険者の人達に敬意を表したくなった。 

 そしてミリータちゃんが目をパチパチさせている。


「お、おめぇマテリ……」

「お店っていうのはね。自分の商品を安く見せちゃいけないんだよ。職人の価値そのものなんだからさ」

「……ありがとな」


 ミリータちゃんが照れくさそうに指で頬をかく。

 私が物欲にまみれてばかりの女の子じゃないと、これでわかってもらえたはずだ。

 ふと見ると冒険者達が一列に並んでいる。

 さっきまでは我こそが先とばかりに押し寄せてきたのに。

 そんなにお行儀よくされると、より定価で売りたくなっちゃう。


「これは……やはり君か、マテリ」

「クリード王子!」


 颯爽と現れたのは護衛を引き連れたクリード王子だ。

 騎士団長も一緒みたいで、ちょっと気まずい。


「これが対アンデッド用の装備か?」

「はい。お一つ、定価でいかがですか?」

「できれば騎士団の騎士達全員に持たせたい。在庫はどの程度ある?」

「きしだんぜんいん!」


 大口の客がきちゃった。

 さすがの冒険者達も王子相手じゃ口出しできない。


「在庫はまだ四千以上あるなぁ」

「わかった。ひとまず二千は見積もろう」

「にせんだべがぁ!」

 

 ミリータちゃんとクリード王子の商談がまとまったみたいだ。

 さすが王族、でもやけにタイミングがいいね?


「マテリ、君には本当に驚かされるよ。国の危機をいち早く察知して、この装備を揃えたんだからね」

「ま、まぁそうですね」

「フフフ……。それでこそ僕が惚れた少女だ」

「結局そこなんですか」


 すごいドヤ顔で熱視線を送ってくる。

 その様子を見た冒険者達が慌てふためいて、なんか熱愛とかいうフレーズが聞こえた。


「ク、クリード王子があの子を……」

「物好きにもほどがある!」

「いや、でも顔だけ見ればなかなかではないか?」


 ちょっと冷静に理解してもらうために一発だけぶち込んでもいいかな?

 クリード王子、不敬罪だからしょっぴいていいよ。

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