第76話 アンデッド大好き

 外に出るとアンデッドの群れが小屋を取り囲んでいる気配がある。

 視界が制限されているから、アーだのウーだの呻き声だけが聞こえた。


「マテリ。こいつら、生前の強さを引き継いでるらしい」

「問題ないでしょ。私達の手で弔ってあげよう」

「ほーん……」

「なに! 私だっていいこと言うんだからね!」


 本当にどうしてこんなにも信用がないんだろう。

 人として当然のことを言ったまでですよ。

 仕方ない。

 人として当然のように、杖を握ろう。


「ファファファファイファファイアボォォーーーーッ!」


 アンデッド達が炎の玉に包まれて蒸発するかのように消える。

 同時にミリータちゃんとフィムちゃんが果敢に向かっていった。


「どりゃぁーーー!」

「炎熱剣……ソード・インフェルノッ!」


 ミリータちゃんの槌がアンデッドをまとめて数体叩き潰す。

 フィムちゃんが双剣を駆使して、アンデッド達を焼き斬る。

 鎧だとか武器の存在は関係なかった。

 アンデッドは生前身につけていた武器や防具を装備しているけど、本当に関係ない。

 機敏な動きで私に攻撃しようものなら――。


「ファイファイファーーー!」

「ウォォォ……!」


 こうして燃え散る。

 よし、報酬まであと少し。


「す、すごすぎる……。なんだ、あの娘達は?」

「一級冒険者でも、あそこまでやれるか?」

「あの炎……まさか紅の刃か!」


 いえ、人違いです。

 あの人達がここまで強かった記憶は一切ありません。

 意外に知名度があったことにも驚きですね。


「ウオォアァーー!」

「え? あの光って」

「回復魔法だ!」


 冒険者の一人が叫んで教えてくれた。

 アンデッドヒーラーが味方のアンデッドを回復している。

 生前、回復魔法を使えたということか。

 あれ? でも私の経験上、アンデッドに回復って――。


「ウウオォァァ……」

「く、崩れ散った……」


 うん、普通にヒールでアンデッドファイターが散っていった。 


「今のなに?」

「アンデッドが回復魔法に耐えられるわけがない」

「こんな悲しいことある?」


 何も見なかったことにしよう。

 でもアンデッドマジシャンは攻撃魔法を連発してくるし、確かにこれがそこら中にいたら脅威だと思う。


「うりゃあぁー!」

「はあぁぁぁーーー!」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ミッション達成!

亡者の牙×26

亡者の布×15

亡者の十字架×8

亡者の欠片×28

を手に入れた!

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「っしゃあぁぁーーーーー!」

「ほー! こりゃレア素材ばっかりだ!」

「さっそく鍛冶しちゃう?」


 魔道車を出してから、ミリータちゃんが鍛冶を始めた。

 冒険者達が後ろから呆然として見ている。

 まずは牙を組み合わせてできたのが――


「ほれ、嘆きのお守りができた」

「呪われてそう」

「闇耐性が+50%される優れものだ」

「牙一つでそんなのできちゃうんだね」


 続いてミリータちゃんが亡者の布で作った装備が亡者のマント。

 相変わらず不吉な名前だけど、効果はアンデッドから受けるダメージを半減させるらしい。

 防御もそこそこ高くて、市場に出回ったらかなりの値がつくとか。


「特定種族からこれだけのダメージを減らせる装備は珍しい。こういうダンジョンで役立つ」

「なかなかいいね。しかも亡者の布が一枚あればできるから、15枚作れるわけだ」

「オラの負担がでかいけどな」

「ごめん」

「まぁまぁ、次は……」


 亡者の欠片で作られたのは常闇の胸当てと常闇の鎧だ。

 闇耐性+20%で、しかも即死耐性50%の優れもの。

 防御の値は胸当てと鎧で多少の違いはあるけど、効果は変わらない。

 そして最後にできたもの、これもすごい。


「聖者の十字架。即死耐性を含めた嫌な攻撃耐性が+50%だ。これと常闇装備をつければ即死耐性が100%、つまり無効化だな」

「嫌な攻撃耐性ってなに」

「混乱とかそういうのだな。おめぇには無縁だ」

「そんなことないでしょー」

「混乱もなにもねぇから」


 え、今のどういうこと?

 まさか私が常に混乱してるってこと?

 生きていて一秒たりとも冷静さを欠いたことなんてないよ?

 どうしてそんなひどいこと言うの?


「で、最後にこれがある意味で一番すごいんだ。十字架と欠片を組み合わせて出来たものが光の剣だ」

「最終装備っぽいね」

「光属性の剣で、アンデッドを始めとした闇属性の相手に特効がある。槍も作れるぞ」

「これでもかっていうくらいアンデッドがメタられてる」


 ミリータちゃんのおかげでアンデッド対策装備が一通りできたわけか。

 私にはそこまで必要ないけど、これたぶんね、こうすればいい。


「冒険者さん達。これ売ってあげる」

「え、いいのか!?」

「これさえあればアンデッド戦も楽でしょ?」

「でもお高いんでしょう?」


 できるだけお安くしておきますよ。

 私達、そこまでお金に困ってないからね。

 手持ちのお金はあまりないみたいだけど、冒険者達は全財産を使い果たす勢いで購入した。


「すげぇ! こんなにいいものが装備できるとは!」

「こりゃアンデッドにも負けないな!」

「おかげで無事に出られそうだ!」


 新装備を手に入れた冒険者達が今か今かとアンデッドを待ち構えている。

 だけどごめんね。

 このアンデッド討伐、三人用なんだ。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ミッションが発生!

・アンデッドファイター×30を討伐する。報酬:亡者の牙×30

・アンデッドマジシャン×22を討伐する。報酬:亡者の布×22

・アンデッドヒーラー×10を討伐する。  報酬:亡者の十字架×10

・アーマーデッド×16を討伐する。   報酬:亡者の欠片×16

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「量産体制入ったぁぁーーーーー!」

「ここで少しだけ稼いでおけば金策にもなる!」


 思わぬ稼ぎ時がきてしまった。

 こんなに楽しいならもっとアンデッドライフを過ごしたい。

 だけどなんでこんなにアンデッドが?

 いや、ホントにアンデッドいすぎでしょ。

 どれだけここで死んでるのさ。

 冒険者の命がここまで軽いとは思わなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る