第77話 亡者装備、売ります
「助かったよ。君達にはいくら感謝しても足りないほどだ」
霧の森を出て領主がいる町に戻ってきた。
冒険者ギルドに腰を落ち着けて、私達はこの人達に感謝されている。
そして全員が闇シリーズ装備に頬ずりしていた。
恍惚とした表情とお礼のセリフが噛み合ってない。
本当に物欲にまみれてだらしない顔をしてらっしゃる。
私達のほうはというと、あれからアンデッドどもを嫌というほど狩りまくった。
軽く数百体は討伐したんじゃないかな?
「亡者の牙456個、亡者の布545個、亡者の欠片501個、そして聖者の十字架が399個ね。私達の分を確保したとしても相当余るね」
「んー、それにしてもこのアンデッドの数は異常だなぁ。マテリ、おかしいと思わねえか?」
「確かにね……。もう少し報酬に代わり映えがあってもいいと思う」
「聞いたオラが脳みそスッカラカンだった」
「そこまで自虐する?」
今、大切なのは報酬の件だ。
アンデッドが増えてるってことは亡者シリーズの供給が凄まじい。
それに加えて新たな報酬が出てくる可能性だってある。
だったらアンデッドの急増は喜ぶべきことだ。
うんうん、何一つ問題なんてない。
と、一人で納得していたら冒険者ギルドに冒険者パーティが入ってきた。
その人達を他の冒険者達が囲んで、労をねぎらっている。
「いやぁまいったまいった! ひでぇ目にあった!」
「驚いたな。二級パーティのお前らがそこまで怪我を負うなんてなぁ」
「町に帰ってくる途中、アンデッドに襲われてよ。ヘビーボアやキングエイプのアンデッドやら……ありゃ異常だぜ」
「そいつらのアンデッドとなるとレベルは40半ばか……。よく無事だったな」
なぬ? 今なんと?
私達が討伐したのは人間のアンデッドだ。
人間がアンデッドになるなら魔物だってアンデッドになる。
そりゃそうだ。となると、ですよ?
新たな報酬が出ることは疑いようのない事実ですよね?
「今回はなんとかなったがよ。次はわかんねぇな、これ……」
「イグナフ領主が討伐依頼を出すだけあるな。やっぱり異常事態だよ」
「三級以下の冒険者パーティが襲われたらたまらんぞ」
「クソッ、しばらく仕事は休んだほうがいいかもな」
うーん、当初は亡者シリーズで作ってもらった装備を売る予定だったけどさ。
新しいアンデッドによる新しい報酬があるかもしれないとなれば、話は変わってくる。
冒険者達には悪いけど予定変更かな。
「あ、そういえば俺達な。アンデッド特効装備を売ってもらったんだ」
「なんだって?」
「あそこの女の子達だよ。すげぇ強さでな……まだたくさん持ってるはずだぜ」
「本当かぁ? ドワーフやエルフはいいとして……あの黒髪の娘は妙な格好をしてるな」
なんですって?
このスウェットの良さがわからないと?
これほど外と家で兼用できる手軽な服装もない。
この機能性を理解できないなんてまだまだ。
「君達、あいつらが言ってたことは本当なのか?」
「装備を見せてくれないか?」
欲の皮がつっぱった冒険者達が群がってきた。
私もケチじゃないし売ってあげたいけど、今回は――
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ミッション発生!
・亡者の牙、亡者の衣、亡者の欠片、亡者の十字架で作った装備を合計5000個以上売る。
報酬:冥王の杖
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「いいよ。あなた達にこそ使われるべきだと思うからね」
「お、気前がいいな!」
「国を陰で支えているのはあなた達だからね。人々を脅かす魔物を討伐して平和を守っている冒険者達を尊敬しているよ」
「そこまで言ってもらえるなんてなぁ」
冒険者達がジーンと感動して涙を流す。
私の中にある極めて正直な思いが伝わったみたいだ。
武器や防具というのは使い手次第で神にも悪魔にもなる。
だったら私は神を選ぼう。
私が異世界に召喚された意味が少しだけわかってきたかもしれない。
「マテリ、さすがのオラも一気には作れねぇぞ」
「わかってる。無理しないでいいからね」
「その声色からしてまーたミッションが」
「ミリータちゃん! 今は大変な時なんだよ! 私達が弱音を吐いてる場合じゃない!」
まったく、こんな時にミリータちゃんは何を言い出すんだろう。
ミッションがどうとか言ってた気がするけど、私は常識の範囲で行動してるだけだ。
ミリータちゃんがじっとりと私を見ながら、鍛冶に取り掛かる。
光の剣、光の槍。聖者の十字架。嘆きのお守り。常闇の胸当て、鎧。亡者のマント。
そして常闇の盾なんかも作ってあげたら、より前衛の人達に喜ばれた。
「光の剣を売ってくれ!」
「こっちは亡者のマントだ!」
「胸当て!」
「鎧と盾と槍!」
「はいはい並んでねー」
「光の剣を二本お願いします!」
「フィムちゃんは後でね」
冒険者ギルド内の冒険者達が列を作る。
さすがにこれをさばくとなるとミリータちゃんが気の毒だ。
と思ったけど――。
「おりゃあぁーーーーー! トンテンカントンテンカントンテンカァァーーーン!」
「おぉー! ミリータちゃんすごい!」
「おめぇのファイファイファファイほどじゃねぇーー!」
「どうして褒めてるのにそういうこと言うの?」
一つずつ、武器を手にするごとに冒険者は歓喜する。
鎧、胸当て、マントが出来上がるにつれて冒険者ギルド内が活気づいた。
「初めて手にした武器なのにこんなに手に馴染むとはな!」
「さすがドワーフだな。こりゃ人間の鍛冶師の出番がないわけだ」
ミリータちゃんのスキルである神の打ち手は鍛冶の精度や速度が爆上がりするだけじゃない。
通常、鍛冶で作り出せないものまで作り出せてしまう。
鍛冶においてミリータちゃんの右に出る者はいない。
こうなると、こんなミリータちゃんに未熟だと言ってお店を出させなかった意味がわからないな。
いつかミリータちゃんの故郷にも行ってみたくなった。
何せドワーフの国だからね。報酬もかなり弾んでくれそう。
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