第61話 黒髪の女神?

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ミッション達成! 大地のマフラーを手に入れた!

効果:防御+70 ダメージを受けると一定確率で敵全体に超重力をかける。

神域の聖枝を手に入れた!

効果:この世界のどこかに存在している神域の聖枝。鍛冶の素材。

エンチャントカード・魔道士を手に入れた!

効果:自分の魔攻より相手の魔防が低いほど魔法攻撃時のダメージが上がる。

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「ぷっはぁ! いやぁ、埋もれた埋もれたっ!」

「マテリィ……」


 私に続いて地上に頭を出したのはミリータちゃんだ。

 地下にあった研究所は謎の大爆発のせいで崩壊して埋まってしまった。

 体の土と埃を払ってから、私は手に入れた報酬を眺める。


「大地のマフラーに神域の聖枝ね。ユグドラシルの杖と似てるね?」

「これは使用用途が広そうだからまた後で……ん? フィムちゃんはどこいった?」

「あ……」


 そういえばフィムちゃんには研究所の入口での見張りを任せていたんだった。

 謎の大爆発のせいで生き埋めに――。


「フィムちゃん! フィムちゃーーん!」

「おめぇにも一応、情はあるんだな」

「メタクソに失礼なこと言わないで!」


 ふと遠くを見ると、瓦礫の中から腕だけ出てる。

 急いで向かって引っ張り出すと、それはフィムちゃんだった。

 剣を握ったまま気絶してる。


「フィムちゃーん? 生きてる、よね?」

「はぁぁぁッ!」

「うひゃおっ!」


 目を覚ましたフィムちゃんが剣を振った。

 ちょっとかすったんだけど? 直撃したらやばかったんだけど?

 私のせいですか、はい。


「し、師匠! 私は一体……」

「研究所は謎の大爆発を起こして崩壊したよ。たぶん実験か何かで失敗したんだと思う」

「そうだったんですか……。それでボクは爆発に巻き込まれたんですね」

「そうそう。ホントひどいよね」


 ミリータちゃんがすっごい何か言いたそうな目をしている。

 一生のお願いの一つだから、今は黙っていてほしい。

 それはそうと報酬だよ、報酬。

 

「がんばった甲斐があって、より輝いて見えるぅ……」

「大地のマフラーはどうする?」

「ミリータちゃんが使っていいよ。魔道士のカードはどうしようかなぁ」

「それならオラに考えがある。フィムちゃんに使ってもらったほうがいい」


 ミリータちゃんが言うにはフィムちゃんが使う魔法剣も魔法攻撃に該当するらしい。

 ステータスを見ると、フィムちゃんの魔攻は素で私に迫るものがある。

 それに私はすでに魔法ダメージ二倍だの、訳の分からないオプションがついてるから確かにちょうどいいかな。


「フィムちゃん、魔導士のカード使っていいよ。フィムちゃん? どうかした?」

「……師匠。ボクはこのままでいいのでしょうか?」

「このままでってどういうこと?」

「師匠に任された役目に果たせず、気がつけば大爆発に巻き込まれて……。改めて修行不足を痛感しました」

「あ、そういう話は後でね」


 すっごい面倒なことで悩んでいた。

 大爆発は私のせいでもあるから、責任を感じないこともない。

 でも適当にあーだこーだいえばすぐに、さすが師匠モードに戻ると思う。

 

「マテリ、エクセイシアの王都に戻るべ」

「そうだね。さすがに疲れちゃった」


 今日も平和にミッションを終えることができた。

 明日からどうしようかな?


                * * *


「あ、あそこにいるのは黒髪の女神!」


 王都へ戻ると、誰かが私を指してそう叫ぶ。

 確実に人違いだからここは無視が一番です。

 それより私はブラッドサンダーフラッペを食べなければいけない。

 あれは癖になる。エクセイシア王都の価値そのものといっていい。


「黒髪の女神! あなたが王都を救ったのですね!」

「そういえばミリータちゃん、今日の宿はどうする?」

「そうだなぁ。たまには安い宿もいいんでねえか?」


 おかしい。普通に歩いてるのにどんどん人が集まってくる。

 まさか黒髪の女神とかいうのが私なはずはない。

 確かに黒髪だけど、私を女神なんて呼ぶのはクリード王子くらいだ。

 聖女に続いて女神なんて、そんな大げさなことあるわけないよ。


「安い宿?」

「贅沢ってのはたまにするからいいんだ。豪遊が当然になれば、オラ達が討伐した悪徳貴族と似たような金銭感覚になる」

「なるほど、ミリータちゃんはしっかりしてるなぁ」

「黒髪の女神! 王都内にあらわれた怪物を倒してくださってありがとうございます!」


 ついに囲まれて動けなくなった。報道陣か。

 はぁ、ファフニル国に続いてどうしてこうなった。

 こんなのは適当にあしらえばいい。


「人違いですよ。どいてください」

「謙遜しなくても! 王都内ではあなたの噂で持ち切りですよ!」

「それは大変迷惑ですね。どいてください」

「なるほど、よく見れば確かに美少女だ……。あの噂は本当かもしれないな」


 いっそのこと、この人達の討伐ミッションが出てくれないかな。

 今になってマスコミに囲まれてる芸能人の気持ちがよくわかる。

 私の噂とかどうでもいいからさ。


「はいはい、邪魔だからどいてくれない? あと黒髪の女神呼びやめてね」

「ですが女神としか言いようがないんですよ。何せ相手があのクリード王子ですからね」

「ん? 何が?」


 なんだろう。

 すっっっごい嫌な予感がするんだけど。

 聞きたくない。


「クリード王子との婚約の噂は本当ですか?」

「ほぅら! ろくでもなかったァーー!」


 よく見ると持て囃してるのは男ばかり。

 女性達の私を見る目が凄まじくて、まるで親の仇でも見ているかのようだ。

 そういうのはシャルンテお嬢様だけで間に合ってるんです。


「ミリータちゃん。ちょっと用事ができた」

「王宮か?」

「うん。事と次第によってはただじゃおかないよ、あの王子」


 杖を強く握って、私は囲む人達をどかして進む。

 いざ、黒髪の女神呼び発祥の地へ。

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