第11話 横暴キングの懐刀

「デス・アプローチ、そなたの力を借りる時がきた」

「ヒェッヒェッヒェッ! 陛下にお呼ばれいただけるとは感嘆の極み!」


 全身が黒のローブを羽織り、フードから覗かせるその顔はまさに死神を思い起こす。

 不健康に見えるこの男は私の大切な腹心だ。

 常に懐に忍ばせておくことによって、いざという時に抜く。

 いわば影の実行役である。

 デス・アプローチ。そのスキル名も同名であり、本名はない。

 この国では年に一度、大規模なスキル鑑定の儀を行う。

 国民の中に有用なスキルを持つ者がいるのであれば、王宮へ招くこともある。

 その際にギャンブルに溺れていたろくでもないこの男が引っ掛かったのだ。

 クソのような人生から一転して、こいつは毎日のように遊び歩いている。

 異を唱える者はいたが、逆らう者はすべて処分した。

 スキルこそがこの世の真理であり絶対だ。

 それがわからないのであれば、そいつは死ぬまでクソみたいな生き方をするだろう。

 本来であれば王の間に立ち入ることすら許されぬ器量であるが、私はデス・アプローチを手元に置いているのだ。


「陛下のためならばどんなに汚れても構いません! ヒェッヒェッヒェ!」


 その理由の一つがこの忠実さだ。

 学のない男であるが、これ一つで配下たる資質がある。

 しかし一番の理由はこのスキルを手放すことが危険だからだ。

 もしこやつが他国の手に渡ってしまえばどうなるか。考えただけでも恐ろしい。


「デス・アプローチよ。そなたに任務を与える」

「数百万に膨れ上がった借金を返せますかねぇ? ヒェッヒェッヒェッ!」

「成功すればな」

「それで私になにをさせようと?」


 無礼極まりない物言いだが私は黙認している。

 使えるのであればそれでいい。

 それはあの異世界の少女にも言えることだ。

 使えなかったから捨てた。

 ただそれだけのことだというのに、あのブライアスは何やら不満があるようだ。

 くだらん情に流されるなど、未熟極まりない。

 一人、無能がいればそれだけ資源を消費する。

 無能のために貴重なものが失われるのは国にとっても過失だ。

 それは大なり小なりそこかしこで起こっている。

 だから私は為政者として、国を引き締めなければいかん。


「そなたはブライアスを監視しろ。奴に異世界の少女の抹殺を命じているが、万が一ということもある。もし奴がくだらん判断をするようであれば殺して構わん」

「ヒェッヒェッヒェッ! 陛下も恐ろしいことを私にさせる! しかしあのブライアス、いくら私でも正面からではとても敵いませぬ!」

「もちろんやり方はそなたに任せる」

「それでその異世界の少女はどうしたらよいので?」

「従うのであれば生け捕りでよい。抵抗すれば殺せ」

「しっかし生きてますかねぇ? あの魔の森ですよ? 私でも恐ろしくて近づきたくありませんよぉ? ヒェッヒェッヒェッ!」


 私も馬鹿らしいと感じている。

 しかしあのクリア報酬というスキルはやはり気になった。

 あの時は頭に血がのぼって追放してしまったが、なにかとてつもないスキルの可能性もある。

 それが他国の手に渡ればどうなるか。

 だからこそ万が一の可能性を潰しておく必要があった。


「それにあのブライアスの旦那ですよ? いつだって陛下に尻尾を振っていたじゃないですかぁ! ヒェッヒェッヒェッ!」

「良い犬でも手を噛むこともある。だったら処分するしかあるまい」

「ま、私はお金がもらえたらそれでいいんですけどねぇ?」

「そなたはそれでいい。ブライアスもそうであるべきだった」


 良いスキルを持とうと、ブライアスのように本質を見誤ることもある。

 ならば私の手で粛正しなければいけない。

 デス・アプローチのスキルは無敵だ。

 こやつがもう少し聡明であれば、確固たるポストにつかせたものを。

 要するに馬鹿となんとかは使いようであり、私のような優秀な人間が最良の判断を下せばいい。


「陛下、おみやげは期待しないでくださいねぇ? 経費で落ちるんなら別ですけどぉ! ヒェッヒェッヒェッ!」


 デス・アプローチを見送った後、私はぼんやりと天井を見つめた。

 願わくば異世界の少女が愚物でないことを願う。

 もしクリア報酬が有用なスキルであり、忠誠を誓うようであればそれなりの将来を約束するつもりだ。

 それに考えてみればあれはまだ子どもだった。

 冷静になり、私の口車に乗せれば手駒とすることも容易だろう。

 あの怯えた目、あれは間違いなく従う者の目だ。

 長いこと上に立っていればわかること。

 使う者、使われる者。生まれながらにしてどちらになるかはやはりスキルであり、身分だろう。


「フフフ……。急に気分が高揚してきたわい」


 今日は久しぶりに数百年もののワインを嗜むとしよう。


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