第10話 ブライアス隊の捜索

「ブライアス総隊長、お疲れ様です」


 部下が言うことはもっともだった。

 魔の森で捜索を開始したものの、やはり例の少女は見つからない。

 魔物と天然の迷路をかいくぐり、生存者を見つけ出すなど至難の業だ。

 私もやはり人の子であり、未熟故に物事がうまくいかなければ当たり散らしてしまうこともある。

 今回は捜索の邪魔をする魔物がその対象となってしまった。


「ヘビーボア十八匹、キングエイプ七体、ヘルスパイダー十二匹……さすがです」

「捜索を続けよう」


 襲ってきた魔物はどれも丸腰の少女が逃げ切れる相手ではない。

 あれからだいぶ日数が経っている。

 生存が絶望的など、捜索するまでもなかった。

 では陛下に行方不明の報告を行うか?

 それを許さないもう一人の私がいる。

 陛下に対する疑心がある以上、まともな任務などこなせるはずがなかった。

 これではついてきてくれる部下に示しがつかない。


「他を当たろう。まだ捜索していない場所があるはずだ」

「陛下から何か聞いていないのですか?」

「魔の森という情報しか話していただけなかった」

「それは……」


 誰もが察したのかもしれない。

 今回の任務は明らかにおかしい。

 陛下はなぜ魔物に食われて死んだと確信している少女を我々に捜索させるのか。

 考えうる可能性の一つとしては、陛下もやはり異世界の少女のスキルを恐れているのではないか?

 効果がわからずに追放したとはいっても、何らかのスキルであることは確かだ。

 もし有用なものであれば、と冷えた頭で考え直したのではないか。


「……もし少女が生きていたら迷わず殺せますか?」


 兵隊を率いる総隊長として即答できなければいけないはずだ。

 しかし私は何も答えられなかった。

 少女が生きていた場合、大人しく従うとは思えない。

 まともであれば自分を追放した者に仕えるはずがなく、下手をすれば厄介な敵となる。

 一説によれば異世界から召喚された者のスキルは、この世界の根幹を揺るがすほどだという。


「スキルはクリア報酬だそうだ。副隊長、どう思う?」

「報酬というのが引っかかりますね。条件はともかく、問題はどのようなものがあるのか……」

「そうだ。この際、条件よりもそこなのだ。もし言い伝え通りであれば、我々の想像を絶するものが与えられるかもしれん」

「金銀財宝ですかね。俺にはその程度のものしか思いつきませんね」


 そんな俗なものが与えられるのであればそれでいい。

 生涯、困らない生活をするのであれば平和だ。

 そのほうが誰も傷つかない可能性がある。

 しかし異世界の少女がよからぬ人間であれば、その限りではない。

 だから異世界召喚など愚かなのだ。

 我が国の王がそんなものに手を出すような者と他国に知れてしまえば、そちらのほうが外交に影響しかねない。

 陛下はそこを理解しておらず、根本をはき違えている。


「……異世界の少女が生きていれば生け捕りにする。もちろん善であれば、だ」

「しかし未知のスキル相手は怖いですね。俺なんか完全に戦闘向きじゃないから不安ですよ」

「お前のスキルは我が隊になくてはならないものだ。そう卑屈になるな」

「そう言っていただけるのは嬉しいですがね。隣国の王子のアレを知ってしまったら、どうにも……」


 生まれつき何が備わるかわからんスキルで左右されるのも馬鹿らしい。

 人として大切なのは何を持っているかではなく、何ができるかだ。

 長い人生においてそれを見つけられた者が強い。

 私が言えた立場ではないが、このスキルというものがある限りは陛下のような人間はいなくならないだろう。


「さて、この辺りもそれらしいものは……む?」

「ブライアス総隊長、どうかされましたか?」

「あれを見ろ。あの骨はヘビーボアではないか?」

「そうですね。あんなに綺麗に骨だけ残るのも珍しいですね」


 それに近づいてみると、本当に綺麗だった。

 魔物が食い荒らしたのであれば、こうはならない。

 まるで何者かが必要な部分だけ解体したかのようだ。

 それもかなりの解体の腕を持つ者の仕業だ。


「冒険者ですかね?」

「そうかもしれんが、やけに気になるな……副隊長、アレを頼む」

「了解しました。追跡トレース……」


 先程、悲観していた副隊長のスキルがあれば何かわかるかもしれない。

 彼のスキルは触れたものの痕跡から追跡することができる。

 そこに過去に存在していたもの、その軌跡。

 すべて彼の脳内でしかわからないが、我々は何度も助けられてきた。

 閃光のブライアスから逃れた者はいないと囁く者がいるが、その功績は彼によるところが大きい。


「これ当たりですよ。似顔絵の少女……異世界の少女が手早く解体しています」

「なに!? しかし、戦いの心得もないのにどのようにして?」

「そこまでは……。ただ見たことがないナイフを手にしていました。独特の装飾でしたね」

「ナイフ……」


 異世界召喚の際に人間の似顔絵を寸分の違いなく写し描くスキルを持つ者がいたようで助かっている。

 手がかりがこれしかなかったところで、副隊長の追跡が冴えた。

 暗雲がかかっていた私の頭が晴れたようだ。


「そうか……。生きていたのか」

「行先も見当がつきます。急ぎましょう」

「あぁ、これよりブライアス隊は異世界の少女を追う!」

「ハッ!」


 進路はおそらくレセップの町だ。

 無事、そちらに到着しているのであれば会えるかもしれない。

 しかし、その時は――。

 いや、今から深く考えるのはやめておこう。


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