第8話 ボス前イベントはカットです
「ぐあぁぁぁぁっ!」
「どうした!」
デクトロ一家のアジトは廃業した元酒場だった。
見張りを奇襲して乗り込むと、中にはカウンターに優雅に腰かけているのが二人とテーブル席に八人。
そして隅には私が焼き焦がした三人が手足を縛られたまま大怪我を負って倒れている。
明らかに殴る蹴るの暴行があった形跡だ。
「おう、かわいい客が来たなぁ」
「で、デクトロ様! あいつですぜ! とてつもない魔法を使うんでさぁ!」
「うるせぇッ!」
「がぁッ!」
カウンター席から立ったボスらしきおじさんが、怪我を負っている手下を蹴りつけた。
黒髭をたくわえた風貌はいかにもって感じだ。
樽に入れてナイフを刺したら飛んでいきそう。
そんな黒髭ボスが私をジロジロと観察して、ニンマリと笑った。
「町の奴ら、こんなもんを雇うほど余裕ねぇのかぁ? なぁお嬢ちゃん、俺が」
「ファイっ!」
「ぐあはぁぁぁッ!」
「ボスゥゥーーーーー!」
ボス前会話とかどうでもいい。
でも強そうだからダメ押しで何発か入れておこう。
「ファイファイファイファイファファイファイっ!」
「あぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!」
ようやく黒コゲになって動かなくなったボス。
これでミッションクリアのはず。
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ミッションクリア! ラダマイト鉱石を手に入れた!
効果:非常に価値がある鉱石。鍛冶屋に持っていこう。
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「っっしゃぁあああぁぁーーーーーーーーーーー!」
なんだかわからないけどレアな鉱石を貰った。
オリハルコンだとかあの辺に相当する鉱石かな?
鍛冶屋なんてこの町にあったかなぁ?
いやー、いい仕事した。
あのボス、レベル10にしてはタフだったかもしれない。
と思ってよく見たら、何か防具を身に着けている。
これは鎧かな?
「ねぇ、このボスって何の装備をつけていたの?」
「あ、あんなに魔法を連発するなんて……化け物かよ……」
「答えてくれないとファファイする」
「フ、フレイムアーマーです! 高いんですけど火属性の攻撃から身を守ってくれる優れモノです!」
「なるほどーそれでかー」
ということはこれを着ていなかったら今度こそ殺していた可能性がある。
プスプスと音を立てているボスを見て、私は反省した。
なかなかいいものを装備してらっしゃる。
その時、一人が私に武器を向けて斬りかかってきた。
「この野郎っ!」
「女です!」
「ぐえぇッ!」
思わず杖でそのまま殴っちゃった。
うまく脇腹にヒットしたみたいで、手下が悶絶して起き上がれない。
「に、逃げろォーーー!」
「あいつやべぇよ! レベルいくつだよ!」
「オレなんか4だぞ!」
残った手下が一斉に逃げ出した。
待ちなさい。君達に逃げられると報酬がもらえない。
「一人たりとも逃がすかぁぁぁぁーーー!」
「ひぃぃーー!」
「わかった! 自首する! だから」
「てやぁぁぁッ!」
「ぐへぁぁ!」
杖殴りで一人、ファイアーボールでもう一人。
逃げ惑う手下達を確実に一人ずつ追い詰めていく。
涙を流して命乞いをしてきた気がしたけど聞こえない。
逃がさない逃がさない逃がさない逃がさない逃がさない逃がさない逃がさない逃がさない。
* * *
俺はボームス、三十六歳。しがない田舎生まれの男だ。
冒険者というものに憧れて親の反対を押し切り、田舎を飛び出したのがつい十三年前。
あんな田舎で畑いじりをして一生を終えるなんてごめんだ。
男なら夢を大きく持たなきゃいけない。
俺は冒険者ギルドの門を叩いた。人生計画では三十歳までに一級に昇級して、貴族との縁を結ぶ。
いいところのお嬢様に見惚れられて結婚というプランだ。
怖いものなんて何もなかった。なにせ俺は故郷を捨てた男だ。
しかし人生なんてどこでおかしくなるかわかったものじゃない。
些細なことでパーティ内で仲間割れを起こして、勢い余って殺しちまった。
金品を奪って逃げたものの、当然どこにも居場所なんてない。
それでも俺に恐れるものはなかった。
まだ若い上に俺には剣術の才能がある。
殺して奪って逃げて、誰も俺を捕まえられなかった。
俺には確実に運がある。
今までだってそうだった。そう、だった。
遠くから仲間の悲鳴が聴こえた後、こちらにそいつが近づいてくる。
「どこかなー?」
路地裏のゴミ箱の中に俺はいる。
あの悪魔に見つかったら終わりだ。
どういうわけか、あの女は俺達を根絶やしにしないと気が済まないらしい。
杖一つで現れてはデクトロ一家を壊滅寸前に追いやったあの悪魔が俺を探している。
「ここじゃないなー」
あの杖で殴られたら終わりだ。
それでなくてもあのファイアーボールは普通じゃない。
あれだけノータイムで連射できる奴なんて見たことも聞いたこともない。
あいつは悪魔だ。人じゃない。
そうか、人じゃなければ教会だ。
俺は昔から信心深い。あのソアリス教の教会なら俺を救ってくれる。
だから悪魔よ、俺を見つけるな。どこかへ行ってくれ!
「……いないなぁ」
足音が遠ざかっていく。
よし、息を殺した甲斐があった。
音を立てないよう俺はゴミ箱からそっと抜け出す。
左右をしっかりと確認して慎重に歩いた。
どうやらこの近くにはいないみたいだな。
「いいぞ、このまま行ける……」
もうすぐ路地裏を抜ける!
人通りが多い場所なら、どうとでもごまかせるはずだ。
このまま――
「みぃつけた」
俺の後頭部を何かが殴打した。
「全上昇の実ゲットォーーーーーーーーー!」
意識が闇に落ちる寸前、その雄叫びを聞いた。
どこで間違ったのか。いや、最初からおかしかった。すべてが。
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