1話 勇者の娘
───父は勇者であった。
そう。お母様から聞いた。
子どもながらに、とても嬉しかったことだった。
あのよく聞かされたお伽噺話の勇者が、お父様であったからだ。
それを聞いた私は居ても立ってもいられなくなり。
王座の間にいるお父様に会いたくなって、ついに駆け出していた。
息を切らしてお父様のいる所に着くと。
なにやら、いろんな人がいた。
「あっ……ごめんなさい…」
今は来てはだめだったようだ。
でも。お父様はいつもの優しい顔で。
「どうした?……スワラ」
と。私の名前と一緒に、私が来た理由を聞いてきた。
「あの、ね。お父様は勇者なの?」
少しお父様は驚き。
またいつもの優しい顔でこう言った。
「そうだ。──お父様は勇者だよ。この世界と妻とスワラの勇者だ」
思わず。
抱きつきにいってしまう。
「お父様は勇者様だーー!」
大好きな父の胸に飛び込む。
───暖かい。
とっても暖かい父の身体はお伽噺で聞いた勇者様の身体だったのだ。
だから、いつも暖かくて優しいんだ。
だから。
「私!お父様と結婚する!私、お姫様だもん!」
こんな気持ちになっていた。
そんな私を丁寧に愛おしくお父様は頭を撫でる。
「そうか。嬉しいよ……」
と。頭上から不意に暖かいモノが落ちてくる。
「ひゃっ!!」
びっくりしてお父様に更に強く抱きつく。
おそるおそる、落ちてきたほうを見上げると。
お父様が泣いていた。
「…ぐっ。すまんな、スワラ。つい、涙が…」
「はぁ……ギレブレッド。まだ、感激屋は治ってないのかよ」
「あぁ……年々悪化してきている」
「親になったのも、影響してそうね。私も早く結婚したいなー(チラッ)」
お父様はまだ泣いている。
どこか、痛くしてしまったのかな。
「心配しなくてもいいぞ、スワラ姫。ギレブレット王はキミに感動しているのだ」
「そうなの?なんで!」
お父様の側近の人がそう言ってくる。
「ギレブレット王はスワラ姫を愛してるからだよ」
「あいしてる?あいしてるから、泣いちゃうの?」
「そうだ。愛してる存在が生きて側にいるから泣いてしまうんだ」
私はきょとんと、首をかしげる。
私にはむずかしいことのようだ。
「お父様!私をあいしてる?」
お父様は不思議そうに尋ねる私を見て。
「勿論だ。誰でもない。スワラ、キミを愛してる」
そうして、お父様から強く私を抱きしめてきた。
お父様からの暖かさがいっぱいで。
私の中から
そうして───ついに。
眼から、暖かさを
* * *
「……ワラ……!!スワラ……!!スワラ!!しっかりしろ!」
「───っ!?」
仲間である、
「ありがとう…。状況は?」
頭の痛みが内側からか外側からか、分からないくらい痛い。
「こちらがやや不利だ。俺も負傷した。だが安心しろ、すぐに戻る。今は前衛をヘルカと後衛をストロンでカバーしている。一発どでかい魔法をやりゃ俺らは抜けられる。そしたら、一直線に俺たちのバーンアストラルに戻ろう。どっちかっつたら、ラサンズレイドよりあっちの方がまずいらしい…。情報が送られてこないって話しだ!」
そうだ。
早く戻らなくては父様にもしもがある。
そのもしもは絶対にあってはならない!
「くっ……!!」
肩肘を起点とし。
横になり、近くに放り投げられていた自身の天贄の杖をつかむ。
だが、力が入らない。
どうやら神経にガタがきているらしい。
だからか。
魔力を高速で生成することもできない。
「……無理すんな。手を貸す!」
言われるがまま、腕をボラートに預ける。
そこでやっと気づいた。
ボラートの右腕は90度、別の方向に曲がっていた。
ネジ巻きのように肩が膨張して熱がこもり。
剥き出しの右腕は肌色を保っていない。
所々紫色の斑点もあった。
「それ……!」
「あぁ。奴等の返り血を吸いすぎた。人間にとっては猛毒だとよ。だから、自分で腕を曲げた。
──止血するために。すごいだろ?俺の度胸。あの頃とは偉い違いだこと」
「うっ───ごめん……!!」
「スワラは何も悪くねぇよ。俺が奴等を殺しすぎた
「当たり前!私……はそれしかできないから…」
私は魔法しか使えない。
剣術も。
医術も。
防術も。
どれも一人前にはなれなかった。
だから、せめて魔法くらいは一人前でありたいと。
18年努力し続けた。
目の前の
皆を護るために。
「『
血液が海へと置換され、杖についている水の紋章が杖全体に広がる。
白く。
穢れを知らない杖は。
──海原を知る。
蒼く杖は染まり、固形から海、ソノモノに。
杖は魔法と成る──!
海が砲弾となりて、飛んでいる敵を一つ落とす。
だが、海は留まり。
そうして、着弾した所から海の生き物たちが矢のように降り注ぐ。
「ナイス!俺の水魔力も……つかえれば……すごいんだぞ!コノヤローー!!使いてぇーーー!」
ボラートからポタポタと垂れる血が勢いを増す。
「喋るのやめて!集中できない!」
「へへ……見たかよ異星人……め」
ボラートの体重がかかる。
人間は魔力が消耗してくると身体は動かなくなる。
なぜか。
それは、魔法は血液を使って放っているからだ。
血液がもつ属性という遺伝子を魔法に変えているのだ。
即ち。
瀕死であり、出血多量であるボラートにとって魔力の消耗は致命的な打撃である。
本来、他人の魔力を使っても魔法にはいたらない。
夜鳥が人間に空の飛びかたを教えようとしているようなものだ。
ただ、同族で尚且つ、直系にあたる者であれば他者からの魔力を使用して魔法は使える。
じゃあ、ボラートと私はどういう関係かと言うと。
私は、ボラートと家族でもなければ、血も繋がってはいない。
「助かった、スワラさん!今なら行ける……!ヘルカちゃん!道を!」
「合点です!『──メイクトゥール!』」
魔力防壁を作っていたヘルカが、私の魔法で敵がやられているうちに防術で道を作る。
「スワラさん!ボラートをこちらに!僕が治療を」
「任せた…走ろう!」
ボラートをストロンに任せ。
次から次にでる敵をウォーターモンスターで凪払い。
ラサンズレイドの門まで無我夢中で走り抜けた。
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