刃となる

伊勢右近衛大将

プロローグ 刄となる

「誓ったのだ──」


火花によって焼け焦げた肌。

もう戻らないであろう歪曲した骨。


「俺はアンタを守ると……!!」


振り下ろされる鉄のイカリ。

鳴る鉄の響き。


炎に包まれて尚も、至るために。


戦うために。

立ち向かうために。


繋ぐために。

護るために。


立ち上がるために。


───命を振り下ろす。


「ただ──それだけを……!!」


もはや。半身が灰となり。

人である形は陽炎のように揺らいでいる。


だが、男は火種を逃さない。

燃え尽きて灰になろうとも。


その炎だけは、決して失くさせはしない。


その炎に負けないように男は心に炎を灯す。

この一振のために命である炎を薪として。


だが。男は悔しいと思った。



もう男は人の大半を削がれている。


それでもと。

男は打って。

打って。

打って。


人で在ることを棄ててでも打つのだ。


完成には至れず。

そのつるぎけんとして生まれない。


なのに。


──打つのだ。


もはや、眼は爛れ。

指が一振打つたびに、ボロボロと崩れ落ちていく。


力も録に入れられず。

それを愚行と云わずどうあらわせるか。


あぁ──── 


あぁ──愚行きれいだ。


きれい

きれい


あぁ───きっと。

─────この感情はきれいだ。


「うぁっあぁぁぁぁぁぁああ……つぁああ!!!」


────綺麗な最期だった。


金槌さえも灰と成り。

残るモノはあの出来損ないの一剣ひとふり


さらさらと流れて大気に返る灰は、色を喪ったあの虹のように。


ただ何億年もの彼方から、輝くだけの1等星に近しい光を放ちながら消えていく。


「よきモノが久しく遭逢そうほうした」


男の終幕を観覧した者はその出来損ないの剣に言葉をひらいた。


「褒美だ。覚悟するとい。我が見定めたのだ、嬋媛せんえんに仕上げよ」


灰が剣へと招かれる。

それはつるぎへとナルため。


灰は刃と至るため───。


─────────刄となる─────────。






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