第74話 Shall we dance, my lady?
女性陣の入浴はタップリ90分近くかかり、みんなツヤツヤになって出て来た。
女性方がご機嫌なのだから、俺に何ら異論はない。
女性たちと入れ替わり、レオを連れて男共が風呂に入った。
レオは初めての日本式のお風呂に驚いていたが、丸っと洗ってやったら、とっても満足した。俺が。
何かさ、子供の頃に飼っていた愛犬の“ゴン”を風呂に入れた時の事を思い出して、めちゃ懐かしかったんだ。
風呂から上がると、コロンが用意してくれてたカボチャのシチューをみんなで美味しく頂いた。
その夜遅く、俺はテントから少し離れた場所に、アウトドア チェアを2脚用意して美しい双月を眺めていた。
今宵は双月に呼ばれたような気がしたんだ。
だから、国防陸軍の正装に身を包んで・・・
実は夕食後、ゴンを拝み倒してついに大人の飲み物を手に入れたのだった。
そして就寝前、俺は男達用テントにブービートラップを放り込んできたんだ。
そのトラップの名は“スピリタス”。
元の世界で一番アルコール度数の高い、ポーランドが原産国のウォッカ。 なんとそのアルコール度数は96%。
ふふふ、これには剣聖様達も早々に酔い潰れてくれたよ。
これで邪魔者の芽は摘んだ。
そして待つ事暫し、女性用のテントから彼女は現れた。
彼女は純白のナイトドレスに、ナイトブルーのウールのストールを羽織っていた。
「今宵は俺も双月に呼ばれました。
どうか、お掛けになって下さい。マイレディー。
ささやかながら、故郷の美酒を用意しました。」
「あら、嬉しい。わたしも双月の声が気になってベッドを抜けて参りましたのよ。」
そう言って彼女はローテーブルの向かいに置いたアウトドアチェアに、優雅に腰を下ろした。
俺はシャンパンクーラーから取り出した美しい曲線のボトルを、丁寧に布巾で水滴を拭いてから栓を開けた。
ポン!
ドン・ペリニヨン ロゼ。
そのフルーティーで芳醇な香りが、鼻腔をくすぐる。
俺は淡いピンク色の泡立つ液体を、静かにシャンパングラスに注いだ。
2人は静かにグラスを重ね、至極のシャンパンを味わった。
ドン・ペリニヨン ロゼに言葉はいらない。
ローテーブルのキャンドルランプが、シャンパングラスの中で黄金の煌めきを躍らせる。
キャンドルの炎に促されて、彼女に話しかけた。
「フィンさん。猫様との事、ご不快な思いをさせてしまったと、改めてお詫び致します。」
「ダイチ様。その事でしたら、わたしは怒ってはおりません。
ただ、戸惑っているのです・・・」
「戸惑う?」
「はい。わたしの長い人生に於いて、この様な感情を抱いた事は、未だかつてございませんでした。」
彼女はグラスの液体を軽く回しながら、自分の感情を確かめる様にゆっくりと続けた。
「貴方とキャシャの肌が触れ合っているのを目にした時、わたしは鋭い痛みと共に心に暗く激しい負の感情が生まれたのを感じたのです。
とても強い痛みを伴った感情・・・。
名前も付けられないこの負の感情に、わたしは戸惑ってしまいました。」
「フィンさん・・・」
彼女はシャンパングラスをテーブルに置いて立ち上がり、手を差し出して言った。
「わたしと踊っては頂けませんか?ダイチ様。
今宵の双月の光は余りにも清らかで美しく、貴方の故郷の美酒は心躍らせてくれます。
心のしこりに思い悩むには、もったいないとは思いませんか?」
はにかむように微笑む彼女の手を取って、彼女を二人だけの舞台に誘った。
「そうですね。今宵の世界は余りにも完璧すぎます。
それに、貴方には笑顔の方が相応しい・・・。
どうか私と踊ってください。マイレディー。」
俺は彼女を優しく抱き寄せ、体をそっと密着させて軽くステップを踏み出した。
国防大学時代に習ったダンスであったが、俺の下手なリードにも関わらず、彼女は軽やかに俺のリードをフォローしてくれて、ナチュラルスピンターンの大きな螺旋の
♫~♪ふ~ん、ふふ~ん~♪~♫
彼女はどこか懐かしく感じる曲を口ずさみながら、俺のリードに応えてくれる。
彼女の金木犀の甘い香りと、シャンパンの果実の香りが軽い酩酊と共に俺から思考を奪っていく。
互いの感覚が次第に共有され、二匹の蝶はやがて一匹の蝶となり、青白い月光を浴びていつまでも喜びの舞を踊り続けた・・・。
軽やかなステップで・・・
ダンスがこんなにも楽しいものだと、彼女が教えてくれた・・・
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ダイチハゼロと呪詛を吐きながら執筆しました・・・(; ̄◇ ̄)
今年最後の投稿となります。
本年は、皆様の温かいご声援ありがとうございました。
新年は2日からの投稿を予定しております。
どうか良い年の瀬をお過ごし下さい。
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