第61話 回り出す歯車

 全敵潜伏先の殲滅は完了した。


 剣聖様の弟子3人組が手こずるかと心配していたが、ゴンに映像記録を見せてもらったところ、中々どうして実戦慣れしているようで、あっさりと片が付いていた。


 予想外だったのが、エロ猫騎士様だ。


 事前にあれほど何人かは尋問の為生かしておくように言ったのだが、血まみれバーサーカーと化した騎士様が、潜伏していた敵12人を殺戮し尽くしてしまっていた。


 あのお姉さんおっかね~!


 「ダイチ殿、ご覧ください。貴方の予想通り、かなりの量の塩が見つかりました。」


 「ほら、ダイチ。見て見て!この辺にあるの全部塩だよ!あるとこにはあるもんだね~」


 「ダイチさま。この街で不足しているはずの塩が、どうしてこんなに?」


 「それは、知ってる奴から聞くことにしよう。」


 俺は縛り上げた生存者に顔を向けた。


 「「ひぃっ!」」


 

▽▽▽


 「それでは黒の女魔導師殿、証拠と証人は私共が預かります。主に代わりまして、感謝いたします。」


 「他の潜伏先にもカロリング伯爵の手の者が到着したようです。

 これ以降の対応はお任せ致しますと、伯爵にお伝え下さい。」


 フィンさんは、伯爵家の家令にそう答えた。

 彼は伯爵家の息のかかった衛士を引き連れて、潜伏していた男達を引取りに来たのだった。その際、倉庫にあった書類や塩等の証拠も一緒に引き渡した。


 そして伯爵の手の者と入れ違いにアスランが倉庫に入って来た。

 中にあった死体は、先程の衛士の別働隊が馬車に積んで行った。


 「ダイチ殿。先ほどカロリング伯爵様からの使いが参りまして、慌ててこの場所に来たのですが、これは一体・・・」


 「夜分申し訳ない。ですが、重大な事態が起こったのでご足労頂きました。」


 アスランを倉庫の奥まで案内しながら経緯をかいつまんで説明した。


 「ところでアスランさん。この倉庫の持ち主をご存知ではありませんか?」


 「はい、よく存じております。私と同じ穀物商を営んでおりますブエスト商会の持ち物です。」


 「ちょうどよかった。同じ穀物を取り扱う商人として聞きたいんだが、普通の穀物商って塩も取り扱うものですか?しかもこの倉庫の半分が塩で占められていたんだが。」


 アスランは、俺の質問の要点に気付いたようで、顔色が青ざめて来た。


 「いえ、ブエスト商会も私共も塩は扱っておりません。この街で塩を取り扱っておりますのは、古くから塩を扱っている元専売塩商人達ばかりで新参者はその株に参入する事は出来ないのです。」


 「なるぼど。では、そのブエスト商会と懇意にしているこの街の実力者とは?」


 「こ、この街の3執政官のお1人であるコーウェン伯爵様です。

 ブエスト商会はコーウェン伯爵家の御用商人でもありますから・・・。」


 「ダイチ殿。コーウェン伯爵はこの国の貴族派に属していて、国王派のカロリング伯爵と対立しております。」


 フィンさんが付け加えてくれた。


 「成る程、興味深い!ところで、アスランさん。誠に心苦しい事ですが、あなたの商会に宿泊させて頂いたいる我々が、正当防衛とは言えブエスト商会の倉庫を襲撃した・・・」


 「だ、ダイチ殿。私は至急カロリング伯爵様とお会いしなければならなくなりました!これにて失礼!」


 アスランは慌て倉庫から駆け出して行った。

 最後の一押しはアスランにやってもらおうか。


◇◆◇ コーウェン伯爵


 「伯爵様」


 コーウェン伯爵家の家宰クロワが、コーウェン伯爵の寝室に入ると、暗い寝室からは咽せるようなアルコールと淫猥な臭いが鼻をつき、思わず顔を顰めてしまった。


 クロワはキングサイズのベッドに近づき、ベッドのシルクのカーテンを開けて再び伯爵に呼びかけた。

 

 「伯爵様。緊急事態です。伯爵様。」


 ベッドでは左右に裸の女を抱き抱えながら主人がイビキを立てて寝ている。


 クロワはため息を一つ付くと、主人の贅に溺れた体を揺すった。


 「伯爵様。」


 「んっ、何事だ?クロワ!」


 「街に潜ませていたオラベルの手下共が、何者かの襲撃を受けて全滅した模様です。」


 「何!クルストフ子爵、国軍が動いたのか?オラベルはどうなった?」


 コーウェン伯爵はシルクのシーツを跳ね除けて体を起こした。

 コーウェンの肥満した体からずり落ちても、裸の情婦達は目覚めない。


 「国軍司令であるクルストフ子爵も、国軍駐屯部隊も動いてはおりません。

 それに、オラベルは領都に“実行部隊”を呼びに向かいましたので、カムランを2週間前に出ております。」


 家宰のクロワはベッドを降りた伯爵の肩に豪奢なナイトガウンを掛けながら答えた。


 「そ、そうか。では、一体誰が?」


 「確証はございませんが、この街でコーウェン伯爵家に逆らえるのはカロリング伯爵とその息の掛かった者だけでございます。」


 コーウェン伯爵は、クロワがサイドテーブルの水差しから水を入れたコップを受け取り、それを一気に飲み干した。


 「国軍が動いておらぬなら、まだやりようがある。集められるだけの手の者を

グラース砦に集めるのだ!ワシも急ぎグラース砦に移る。我が騎士達も急がせろ。」


 「はい。当家の移動の手配は整ってございます。」


 「うむ。それとクロワ。国軍のベルフォール要塞におる“イタチ”に作戦の実行を伝えよ!

 今少し時間がほしかったが、狼牙傭兵団のザルスの献策を始めようではないか!」








 


 

 

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