第57話 子供たちとの交渉

 「あんたか?俺に用があるってのは。」


 ボサボサの髪をした男の子が、棒付きキャンディーを舐めた女の子の手を引いて尋ねてきた。


 「ああ、そうだ。よく来てくれた。まあ、座って話そう。」


 そう言って道端に腰を下ろした。


 「俺はダイチだ。お前さんの名は?何て呼べばいい?」


 「俺はカルタスだ。」


 「そうか。カルタス。

 まず、俺の話を聞いてくれる謝礼に、銅貨10枚をやる。それから、この食べ物もだ。

 これは栄養価が高い食べ物だから、小さく割って、体調を崩した仲間に食べさせるんだ。」


 そう言って、銅貨10枚と板チョコレートを3枚カルタスに渡した。


 このやり方は、俺がアフリカの難民キャンプで身に付けた交渉術だ。


 「何だよ、気前がいいな。俺たちを騙すつもりか?」


 「騙すも騙さないも、カルタス。お前自身が判断しろ。」


 そう言って、もう1枚板チョコレートを腰のポーチから取り出して、ゆっくり銀紙を開けてチョコレートを小さく割り、カルタスたち3人に渡した。


 「食べてみろ。うまいぞー!ああ、嬢ちゃんはその飴があったな。ま、こっちも食べて見な。」


 小さな女の子が、恐る恐るチョコの欠片を口に入れた。


 「・・・おいちぃ・・・」


 「「・・うまっ・・」」


 「よーし、カルタス。仕事の話だ。

 俺はお前さんたちに調べて欲しい事がある。

 調べた結果を報告に来たら、1件当たり銀貨1枚払う。

 その報告を俺が確認して、それが本当だったら更に銀貨2枚払う。

 嘘だったら、取引はそれでお終いだ。

 俺に嘘を付いたら、お前は銀貨1枚しか手に入らない。

 だが、真面目に調べて報告したら、1件毎に銀貨3枚だ。全部で何件になるか、俺も分からない。

 1件なのか、5件、10件なのか。」


 「そんな美味い話し、危険はないのか?」


  うん。そうだよな。食いついてくるよね。


 「危険のない調べ方を考えろ!俺は答えが貰えたら、お前たちの調べ方がどんなだって構わない。

 どうだ、やるか?やらないか?」


 「やる。ダイチ。アンタを信じるよ。」


 「よーし、そう来なきゃ!」


 俺は、またチョコレートを小さく割って3人に手渡した。


 『ああっ、チョコレート・・・』


 イースだな?食いしん坊め!

 さてはM153 CROWS IIのガンカメラで見てるな?


 「それじゃ、お前たちに調べて貰いたい事を伝えるぞ。

 この街によそ者の男達が潜伏している。

 そして、お前たちはこの街のどこにいても怪しまれない。だから、お前たちはその力で、よそ者の隠れ家を全部見つけ出して、俺に教えろ。

 恐らくよそ者のは西域の奴等で武装しているぞ。」


 「へへっ、それだけでいいのか?それで隠れ家1ヶ所で銀貨3枚なんだな?」


 「ああ、そうだ。見つけたら、アスラン商会まで俺を訪ねて来い。

 その時、1箇所毎に銀貨1枚払う。確認したら、次に来た時に残りの2枚を渡す。

 それでどうだ。」


 カルタスがニヤリと笑った。チビのくせして、頼りになる顔だ。


 「承知!」「よし!」


 俺はガッチリ、カルタスと握手した。


 別れ際、俺はカルタスを呼び止めた。


 「おい、カルタス!これもやる。

 これでお前の手下以外のガキンチョを上手く使え!」


 そう言って、ビスケットと、クッキーの箱を4箱渡した。



▽▽▽


 「見事でした。ダイチ殿。こんなにも鮮やかにスラムの子供を手懐けるとは。」


 カルタスと別れた帰り、JLTVの後部シートに座っているベル・フィンウェルさんが声をかけて来た。


 「はは、お恥ずかしい。元の世界のアフリカと言う場所で、ここよりもっと酷い地獄の様な場所で学んだのです。カルタスたちみたいな境遇の子供との付き合い方を。

 アイツら、日頃周りの大人達から一方的に搾取されるだけだから、大人である俺が敬意を示せば、相応の敬意を返してくれるんですよ。まあ、見極めは必要ですがね。」


 「へぇー、ダイチも大人なんだ〜!」


 「こるぁ〜、イース!俺を何だと思ってるんだぁー!」


 「しししっ、ついついボクと同じ位かと思ってしまうんだよ。カンニンな〜


 「まあ、イースちゃん。それはダイチさまに失礼よ。」


 「そうね、イース。それはダイチ殿に失礼だわ。」


 そんなたわいのない話をしているうちに、JLTVはアスランの商会に着いた。


 裏口の貨物搬入口に回ると、裏庭の広場でディーンとワルレンと何故かロイタールが、エルフの様に綺麗な顔立ちの男にのされていた。


 「どうしたんだい?君たち。」


 

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