第55話 ネズミかな?

 『安息の一夜と幸せな夢を』


 彼女の言葉と甘い香りが思い出されて・・・全く眠る事ができん!


 「ピー!」


 眠るのを諦めて、ベッドから降りようとした時、ゴンの警報が鳴った。


 IVASゴーグルを着けると、街の上空を哨戒中のPumaIVからの赤外線映像が、建物の周りに潜む怪しい者達を映し出した。


 「ネズミか・・・うん。こりゃちょうど良いや。興奮して眠れないから、ちょっと相手してもらおうか!」


 手早く装備を整えて、部屋の窓を開けた。

 俺の個室は3階。大通りに面した東向きの部屋。賊は西側の裏通りに集まっている。


 俺は窓からロープを落としてラペリンク降下した。


 サプレッサーを付けたMP7を手に、IVASの赤外線映像で明るく映し出された裏通りに回り込んだ。

 上空を哨戒中のPumaIVと周辺に飛ばしたブラックホーネットが2機サポートに当たっている。故に、俺に死角はない!


 裏道では手に剣やナイフを持って、口を布で隠した男達が、アスラン商会の裏門の扉を独特なリズムで叩いた。

 足の運び方や身のこなしから素人ではなさそうに見える。


 すると裏門の扉が中から開けられた。

 さあ、出番だ!


 「お客さま。当店の営業は終了しております。」


 扉が開いて突入しようとしていた賊達は、ギョッとしてこちらを振り向いた。


 タタ タタタ タタ タタ タタ・・・・・


 武器を持った利き手の肩を狙って撃った。


 20人ほどいた賊は、あっという間に無力化された。


 今晩、俺は機嫌が良いんだ。


 「又つまらぬモノを撃ってしまった・・・」


 急所は外してある。


 商会の裏門を開けた裏切り者を確認しようと扉に近づくと、中から小太りの男を後ろ手に縛った小男が出てきた。


 「俺だ。」


 鉤鼻の小男が声をかけて来た。


 「誰だ!」


 MP7を小男に向けた。


 「ちょちょ!コラ、待て!俺だ!ロイタールだ!さっき一緒にメシ食ったろ!」


 「はははっ、どうやらすっかり嫌われてしまったようだな。

 だから、日頃の態度が大事なのだ!ロイタール。日頃のな。」


 「嫌われてるのは、師匠の方でしょ。あんなに脅して!私は何もしてません!」


 剣聖様が寝間着のまま出てきた。意外とファンキーなスタイルだった・・・


 「冗談です。」


 銃口を下ろしてセーフティーを掛けた。

 すると剣聖様が顎に手を当てながら言った。


 「以外にダイチ殿はお優しいのかな?一声かけてから叩きのめすとは。」


 「その甘さで足を掬われなければ良いですがね。ふんっ!」


 「今日はだいぶムシャクシャしたので、八つ当たりしたかったんですよ。

 八つ当たりの相手には、向かって来てもらわないと。でしょ?」


 「はっはっはっ!とんだ藪蛇だった。

 ロイタール。アスランを呼んで来い。

 折角ダイチ殿がコイツらを生かしておいてくれたんだ、全部吐かせよう。

 それから、ディーンとワルレンの2人もだ。叩き起こして連れて来い。

 あいつら弛みすぎだ!まだこの騒ぎに気付いておらんぞ!」


 その後、アスランが慌てて飛んで来て、店の裏手の状況に腰を抜かしたが、俺は後をロイタール達に任せて個室に戻った。


 ディーンとか言ったガタイの大きな2人は、震え上がっていたな。


 これでゆっくり寝れそうだ。


▽▽▽


 「随分と遅い朝食だな。」


 朝目覚めた俺は、身支度を終えて2階の食堂に降りて来た。

 食堂では鉤鼻の小男が、パンとスープで食事を取っていた。


 「お前さんも遅い朝食じゃないか。」


 テーブルに着くと、給仕の女性がパンとソーセージとスープを持ってきてくれた。


 「俺はあれから今まで後始末だ。誰かさんのおかげでな。

 今やっと一息付けたとこなんだぞ。」


 「適材適所だ。剣聖様もか?」


 「ああ。師匠も賊を搾り上げてから、ずっとディーンとワルレンをしごいているよ。

 全く、街に着いたからって、気を抜きすぎだろあいつら!」


 俺は肩をすくめてソーセージに齧り付いた。


 「あっ、いたいた!ダイチ。フィンおばさんが呼んでるよ。昨晩の件で、出かけるってさ。」


 「あいよ〜」


 俺は朝食をかっこんだ。さっ、忙しくなりそうだぞ!

 




 

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