第54話 夜の甘い香り
コロンの黄金の輝きが、剣聖の斬撃を消滅させた!
部屋の空気が清浄な森の香りに包まれて、応接室全体が煌めく黄金の輝きに満たされると、コロンから不思議な女性の声が聞こえて来た。
『戯れるのはおやめなさい!当代の剣聖よ。
妾が加護せし金狐の守護者を、戯れとは言えど害する事は我慢ならぬ!
金狐の守護者に相応の敬意を払うべし!』
「妖精の女王!この子がそうなのですか!この子が失われた金の聖杯なのですか?」
『常闇の賢者よ。いずれ時が来れば、明かにされるであろう。いまだその時ではありませぬ。』
そして、コロンの光は収まった。
よ、妖精の女王って・・・
「「「「「ふぅー」」」」「ぷはっ!」
4人の男達は金縛りに遭っていたようだ。俺も呼吸を忘れる程驚いたよ。
「ダイチ殿、悪戯を働いてすまなかった。謝罪する。」
剣聖が頭を下げた。
「えーと。どう言う事でしょうか?」
「剣聖ロベールは、貴方の人なりを見極めたかったのです。イースを助けた人であり、“探訪者”でもある貴方の。
しかし、おいたが過ぎましたね。」
ベル・フィンウェルさんは、目を伏せながらそう言った。
「全くその通り。すまん。許されよ。」
「と言う事は、俺が殺されるのは・・ナシですか?」
「ダイチが殺される訳ないじゃん!何言ってるの?」
「いや、俺が殺される姿が見えたんだけど・・まじで。」
「ほほう、それが見えたか。」
「旦那様。まだお許しを頂いておりませんよ。」
「ああ、ダルマンさん。大丈夫です。剣聖ロベール殿の謝罪を受けます。
俺は、俺自身の危険はどうでも良いのですよ。ですが、その危険が、コロンやイースもそうだったけど、危険が家族に及ぶのであれば全力で抗います。」
「しししっ。ダイチはコロンちゃんにゾッコンだからね!」
「まあ、そうなのですか?」
「そうだよ、フィンおばさん。なんてったって、コロンちゃんはダイチの“群れの娘”だからね!しししっ」
「まあ、そうなの。」
コンコンコン
アスランが入室して来た。
「皆様。食事の用意が整いました。どうか我が家人にも、皆様と同席する栄誉を賜りますよう。」
「アスランよ。世話になる。我等こそ、其方の家の者と食事を共にする事を喜ぼう。」
「ありがとうございます。では、こちらに。」
♪テケテテッテテッテー♪
【黒の女魔道士と剣聖と妖精女王の知遇を得ました。
クエスト:この世界の主要人物と知り合いになろう1を達成しました。
八神 大地はレベル9になりました。】
▽▽▽
アスラン一家や剣聖様御一行との食事は、正直何を食べたのかすらよく覚えてなかったよ。
だって、今日一日で何度命を失いかけたことか!
食後アスランにお風呂も馳走になった。
俺にとっても久々のお風呂だった。
ベル・フィンウェルさんやコロンとイースの女性陣は賓客用の風呂を使って、俺たち男共はアスランの家族用の風呂を頂いた。
だから、剣聖様と一緒の風呂なんて、全然全くちっともリラックス出来なかったよ。
せっかくの風呂だったのに・・・
なので就寝前、コーヒーの入ったマグカップを手に用意された個室を出て、さっき食事を頂いた食堂のバルコニーで見慣れてしまった青い双月を1人見上げてたんだ。
「ダイチ殿、こちらにいらっしゃったのですね。」
声だけで分かる、ぬばたまの黒髪を纏めて肩に流した麗しの彼女がバルコニーに出てきた。
彼女はアメジスト色のシルクのガウンを羽織っていた。
「身体を冷やしますよ。レディ。」
取り巻き4人衆の口調を真似てみた。
「良いのです。貴方には改めてお礼を伝えたかったのです。」
彼女はバルコニーの手すりに並んでそう言った。
「ダイチ殿。イースを助けて頂き、そしてここまで守って下さり、本当にありがとうございました。
私はあの子を失ってしまったと、絶望しておりました。」
彼女は目を閉じて、大きな胸に更に大きく深呼吸してから、そう告げた。
「それはきっとイースの運なのでしょう。
私は軍人なので、人が如何に容易く死ぬのか、たくさん見て参りました。
また、どんなに絶望的な状況で、人がしぶとく生き残るのかも。
イースの定めは、きっとあの時ではなかったなですよ。」
「貴方は変わった方ですのね・・・」
今気づいたが、彼女の瞳はブルーサファイアなんだ・・・
一体どれくらい見つめあっただろうか。
彼女の瞳に魂が吸われる気がして、慌てて話しを逸らした。チューボーがよ俺は!
「ところで、コロンはお邪魔ではありませんか?」
「いいえ、全く。イースに姉妹が出来たみたいで、わたしも嬉しく思います。今は2人の時を大切にして欲しいと思うのです・・・」
彼女はそう言ってから、また俺を真っ直ぐ見つめた。何故か、彼女の瞳に悲しみの影が見えた気がした。
「わたしは部屋に戻ります。貴方とお話しできてとても良かった。
ふふ、双月に呼ばれて来たのよ、わたし。来てみて良かった。
では、安息の一夜と幸せな夢を。」
「貴方も。お休みなさい。」
彼女は甘い香りを残して戻って行った。
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