第52話 ベル・フィンウェル

 アスランとの取引きが終わったのは、午後もだいぶ遅くなってからだった。

 アスランに紹介してもらった宿屋に向かおうとアスラン商会のドアを出た時、そいつに出会ってしまった。


 そいつは不吉な模様が描かれた灰色のノッペリとした仮面を付けており、その仮面には目の穴が空いてなかった。


 茶色の髪は短く刈り込まれており、ボロボロの緑色のマントから覗く身体は、見事な筋肉に覆われていた。


 仮面の男と目が合った気がした。


 すると、爆発的に殺気が発散され、ゾッとする様な冷気が周りの通行人を押し退けた。


 「今世の“探訪者”と見た。相違ないか?」


 年齢を感じさせない不思議な声で尋ねてきた。


 「さあな。そうだったら、どうするんだ?」


 「・・・」


 突然、仮面の男の腰の辺りから恐ろしく冷たい剣気が、俺の喉元を狙って飛んでくる!


 俺は反射的に身を沈め、腰のホルスターからSFP9を抜きセーフティを外した。


 ドン!


 ヤツの斬撃に伴う衝撃波が俺を襲う!


 「くっ!」


 ダンダンダン!


 「ダイチさま!」「ダイチ!」


 衝撃波に目眩を感じながら、SFP9をヤツの胴体に向けて発射した。狙いを付ける余裕もない。


 「ふっ!」


 ヤツが後方に飛んだ。


 後方に10m程飛び下がった仮面の男の脇腹から、血が流れ落ちた。

 が、何と弾丸も一緒に排出されて、傷口からの流血が止まった!


 こいつホントに人間か?


 騒ぎに気付いた通行人達が周りから逃げ出した。


 「許さない!」「コイツー!」


 コロンはMP7を構え、イースはKel-Tec P50ハンドガンを両手で構えている。


 俺が新しく選んだ軽火器は、Kel-Tec 社のP50だった。


 P50は、あのFN P90と同一の弾丸とマガジンを使用して、50ラウンドの5.7x28mm弾を撃てるハンドガンである。


 リコイルも小さいので、スナイパーがメインジョブのイースの近接防御火器にピッタリだった。


 ダダダダダ ダダダダ ダダダ

 ダンダンダンダンダンダンダンダン


 仮面の男の胴体が血煙に覆われ、大きな体格をしたヤツが多々良を踏んだ。


 「ふん!」


 俺は左手で抜いたコンバットナイフを逆手に持ってSFP9に添えて、バランスを崩している仮面の男に突進した。


 仮面の男はバランスを崩したまま、右手だけで斬撃を放った。


 腰の入っていない手振りの斬撃だったが、剣閃を伴った斬撃は容赦なく俺の首筋を狙って来た!


 ガキッ!


 間一髪、ヤツの斬撃を左手のコンバットナイフで受け止め、そのまま懐に飛び込んでヤツの心臓にSFP9の銃口を押し当てた。


 ダンダンダンダンダンダンダンダンダンダン


 全弾撃ち尽くして、SFP9がホールドオープンした。


 俺は素早く後退して、SFP9のマガジンチェンジをする。


 「やったか?」


 「だ、ダイチさま!あれっ!」「えっ!どうして立てるの?」


 フラグだった・・・


 仮面の男は幽鬼のように立ち上がった。

 

 バラバラバラバラ


 ヤツの身体から弾丸が落ちてきた。


 「なあ、お前さん、人間なのか?」


 ヤツが仮面の裏で笑ったように感じた。

 ヤツの周りに、さっきよりも濃厚な殺気が陽炎のように立ち昇った!


 「ゴン、俺のM250!コロンにはM320グレネード!

 もっと距離を取るぞ!

 俺とイースで牽制する!40mmグレネードを叩き込め!」「ピッピー!」


 その時、俺は時が凍りつくのを感じた!


 「帝国の墓守グラビスカストスが、一体ここで何をしているのか!」


 あまりにも美しいその声に、俺は棒立ちになりその声の主を探した。


 その声の主は、灰色のローブを纏い、深く被ったフードの傍から、美しいぬばたまの黒髪を一房豊な胸にこぼしていた。


 「世俗から逃れ隠れていた“守人”が、今更ここに何の用が有ると言うの?

 ここは“守人”のいる場所ではないわ!立ち去りなさい!」


 彼女の言葉と共に、膨大な“力”が彼女の周りから爆発的に発散され、“守人”と呼ばれた仮面の男を文字通り掻き消した!


 「貴方の居場所は“失楽園”しかないのよ・・・」


 「フィンおばさんー!」


 そう言って、イースは灰色のローブの女性に抱きついて行った。


 ローブでは隠しきれない、魅力的なスタイルに目を奪われた・・・。


 「心配したのよ、イース。」


 そう言って彼女は、灰色のフードをまくった。


 俺はそのこの世のものならざる美貌に心を奪われ、息をするのを忘れた。


 だが、コロンが腰に黙って抱き付いてきて、息を吹き返した。


 「ぶはぁっ!」


 コロンはイースを見つめて、切なさを噛み殺しながら無理やり微笑んでいるようだった。


 俺はコロンの頭をガシガシ撫でてやった。


 「大丈夫だ、コロン。俺がいる。」

 




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